僕の名前はミスターすまない。すまないスクールの教師をしていて、総勢7人の生徒にサバイバル術などを教えている。全校生徒たったの7人のまるで田舎にあるような小さな学校だけど、生徒たちはみんな良い子だし、僕もそれなりに幸せだった。
今日も僕は学校に来て、教室のドアの前に立つ。僕は拳を握りしめて、それを勢いよくドアにぶつけた。
「すまなーい!!!」
僕が発した声と同時にドアは勢いよく吹っ飛んだ。ドンッと大きな音を立ててドアは向こう側の壁に激突する。ぶつかった壁には大きな亀裂ができていた。早速だけどここで僕の生徒たちの紹介をしたいと思う。
「おいー!!!何、またドアぶっ壊してるんですか!?直すの誰だと思ってるんです!?」
そう威勢よくツッコんだのはミスター銀さん。僕の生徒の一人で、クラスのツッコミ役。優しくて、建築がすごく上手いんだ。彼の言う通り、僕がドアを壊したのはこの一回に限らず、ほぼ毎日やっている。その度にドアを直すのもミスター銀さんだ。毎回ドアを壊してしまうのは…すまない!
「全く、何でそうもこんなドアを壊すんですか…。こちらの身にもなってください」
そう言ってため息をついたのはミスターブラック。彼も僕の生徒で、IQ200の天才。すまないスクールの頭脳と言っても過言ではない。テストも30秒で終わらせちゃうしいつも100点だ。いつも黒いフードに仮面を被っていてかなりミステリアス。その素顔は教師である僕でさえも知らないけど、美少年って噂だ。困った時とか頼りになるけど、学校のパソコンをハッキングしてテスト問題を変えたりとちょっとした問題児。
「チッ。すまない先生来ちまったぜ」
悔しそうに舌打ちをしたのはミスターレッド。やっぱり彼も僕の生徒で、かなりの面倒くさがり屋。昼夜問わずいつも寝てるし、めんどくささゆえ授業をサボることもしばしば。だけど、やる時はやる男。それに加えて運動神経はかなり良く、アスレチックが上手で、クラス1の俊足の持ち主。お宝を盗むのと変装が得意で、狙ったお宝は必ず逃さない。辛いものも大好きで、辛いものを食べると火を出すことができる。
「兄貴、ちゃんと起きて授業受けろよ」
そう言ってミスターレッドを叱ったのは、ミスターレッドの双子の弟、ミスターブルー。彼も僕の生徒。しっかり者だけど怖がり。兄ほどではないけど、運動神経がよく、アスレチックがうまい。
「はああああああああ!!まぁたドアを壊したんですか、すぅまない先生」
そう鼓膜が破れるような爆音ボイスで言ったのはミスターマネー。彼も僕の生徒。まあ、ここまでくれば僕の生徒だって説明しなくてもわかるよね。もうこれからそれは言わないからね。彼は世界一のお金持ちで無駄がつくほどの自信家。の割にはすごい弱い。ものすごく弱い。ワンパンでやられちゃう。だけど、彼がいつもかけてるメガネをはずすと3分だけ超人的なパワーを発揮できるんだ。その強さは英雄である僕と互角にやりあえるほど。だけどその強さも、メガネをかけてる時の弱さも、そのメガネにかかってる「呪い」のせいなんだって。
「ミルクうめーな!!」
ミルク入りバケツを持って満足そうにそう言ったのはミスター赤ちゃん。わかる通りミルクが大好きでこっそり食堂のミルクを掻っ攫って飲んでいる事もしばしば。熊のDNAが入ってるから壁を一瞬で砕いてしまうほどの怪力の持ち主だよ。これが僕の7人の生徒たちだ。
「よし!今日も授業始めるよ!号令はミスター銀さん!」
「起立!礼!」
「「「「「「「すまない!!」」」」」」」
そうして、いつもの授業が始まっていった。
そして夕方。
「今日の授業はこれで終わり!気をつけて帰ってね!」
そう言って教室から出ようとすると、外から大きな音が聞こえてきた。
「すまない先生、いまのって…」
「様子を見に行くぞ!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
みんなで揃って外に出る。昇降口から出ると、一つの剣が地面に突き刺さっていた。独特な形の剣が淡い涙色の光を放っている。
「こ、これは…」
地面に突き刺さっていた剣は草薙剣だった。確か、これはヤマタノオロチの封印で使っていたはずだ。どうしてそんなものがここに…?僕は草薙剣を引き抜いてみた。やはり7daysの時に使った、草薙剣そのものだ。そこに残り二つの神器が落ちてきた。八咫鏡と八尺瓊勾玉。いずれもヤマタノオロチの封印に使っていたものだ。どの神器も力尽きたように弱い光を放っていた。
「どうしてこんなものがこんなところに…?」
銀さんがみんなを代弁するように言った。
「ミスターブラック、何かわかるかい?」
「詳しいことはわかりませんが…もしかしたら…ヤマタノオロチが復活したのかもしれません」
僕の問いに対して、ミスターブラックはそう答えた。彼にしては珍しく歯切れが悪い。僕はそれを聞いて思わず校門へ駆け出した。
「え、ちょ、どこに行くんですか、すまない先生!?」
そう言うミスターレッドの声も聞こえなかった。校門から外を見る。
「え…」
僕は思わず驚きの声を漏らした。あたりは更地で何もなかった。学校の前にあった家の数々も、右側から後ろにかけて広がっていた森も。何もなかった。虚無という言葉がぴったりの光景だ。後から来た生徒たちもみんな目を見張っている。
「どうして、こんなことに…」
生徒の誰かがそんな声を漏らした。その時
「グオオオオオオオオオオ!!!」
と地に響きわたるような鳴き声が聞こえた。いや、鳴き声というよりは唸る声に近いかもしれない。僕はその声を聞いたことがあった。思い出したくない声。僕の背筋に冷たいものが走った。久しぶりに感じる感覚だ。恐る恐る振り向く。そこには学校の校舎よりも数倍でかい巨体があった。僕はその全身を見た時、怒りで自分が狂いそうになるのを必死に抑えた。紫色の竜のような頭に尻尾のついた化け物。その頭と尻尾は一つではなかった。全部で八つ。そう、あいつはヤマタノオロチだ。僕が英雄である限り、倒さなければならない敵。そして、僕の両親の仇。頭の中で、両親の姿が映し出される。両親が草薙剣と、八咫鏡を持ってヤマタノオロチに向かっていく。手を伸ばしても、両親には届かなかった。父さんと母さんは、僕の目の前でヤマタノオロチに殺された。その時の虚しさと、何もできなかった自分への絶望は今でも忘れられない。けれど、今の僕は昔の僕と違うんだ。僕は覚悟を決め、手に持つ草薙剣を構えた。後ろにいる生徒も戦闘体制に入っているのがわかった。しかし、そんな時、
「やめておきましょう」
と声がした。思わず振り向く。声の主はミスターブラックだった。
「これはヤマタノオロチとすまない先生だけの戦いです。私たちなどの部外者が首を突っ込むことはないでしょう」
よくわかってんじゃないか。ミスターブラック。僕は少しだけ微笑むとヤマタノオロチに向き直った。ヤマタノオロチは再び僕に向かって吠えた。それと同時に僕はヤマタノオロチに向かって跳んだ。ヤマタノオロチも首をの一つをこちらに向けて激突させようとしてくる。僕の草薙剣とヤマタノオロチの頭がぶつかった。しばらく僕とヤマタノオロチは押し合っていたが、ヤマタノオロチの頭が一つ加勢したことで、僕は吹っ飛ばされてしまった。僕は背中からまともにコンクリートの地面に叩きつけられた。激しい痛みが背中に走る。
「すまない先生!!」
優しいミスター銀さんがこちらに駆け寄ろうとしている姿が見えた。それをブラックとバナナが阻止する。僕は立ち上がって再びヤマタノオロチに向かって走り出した。ヤマタノオロチが放つブレスを避けながら疾走する。その時だった。胸から腹にかけて激しい痛みを感じた。それと同時に口から血を吐き出す。見ると、胸から血が吹き出している。ヤマタノオロチに爪で袈裟懸けに斬られたのだ。
「ぐっ」
僕は草薙剣を杖にしてその場に膝をついた。口から、胸から、ポタポタと血が滴る。僕は立ち上がり、ヤマタノオロチを睨みつけた。そして草薙剣を構え、ヤマタノオロチに向かって飛んでいった。飛んできたブレスを空中でかわし、草薙剣でヤマタノオロチの一番右端にある頭を切り落とした。
「やったー!」
背後にいる生徒の歓声が聞こえる。だが、油断していた僕は横から向かってくる頭に気づかなかった。その頭は僕に向かってブレスを吐いてきた。
「うわっ!」
僕は咄嗟のことに避けきれず、ブレスをまともに喰らってしまった。ヤマタノオロチのブレスは毒だ。相手の身体機能をどんどん下げていき、最終的には死に至らせる。
「すまない先生!!」
生徒たちが叫ぶ声が聞こえた。僕はなんとか地面に着地することができた。しばらく、僕とヤマタノオロチとの攻防が続いた。だが、僕は体力が削られる一方。しかも毒のせいで減りが早かった。引っ掻かれ、落とされ、身体中が痛かった。だが、僕もヤマタノオロチの頭を最初のを入れて7つも落とせていた。僕は最後の力を振り絞って、ヤマタノオロチの残り一つの頭の方へ跳んだ。ヤマタノオロチも負けじと僕に向かってブレスを吐く。だが、ヤマタノオロチも限界が近いのか、ブレスは明後日の方向へずれた。ヤマタノオロチに一瞬の隙ができる。僕はその隙を逃さなかった。草薙剣を握っている手に、腕に、全身の力を全て込める。
「すまなーーーーーい!!!」
その声と共に僕はヤマタノオロチの首に草薙剣を振り下ろす。手応えが…あった。
僕はヤマタノオロチ首と共に下に落ちていった。目の端で、ヤマタノオロチの巨体が光を放って消えるのが見えた。僕は着地する力もなくドサッと地面に落ちる。
「すまない先生!!」
生徒たちが駆けてくるのが見えた。
「すまない先生!すごい傷です!ミスターバナナ、すまない先生の足の方を持ってください!学校の保健室に運びます!」
「承知した!」
ミスターブラックとミスターバナナが僕の頭と足にの方に立って僕を運ぼうとしているのがわかった。
「やめ…てくれ…ミスター…ブラック…ミスター…バナナ」
最後の力を使い果たし、声を出すことすらままならず、かすれた声が喉から出てきた。
「僕…は…もう…助か…らない…。その…薬は…どこか…他のところで…役立つかも…しれ、ない、から、ここ…で…使わないで…くれ」
生徒たちが驚いた顔でこちらを見ているのがわかる。その時、傍から声がした。
「…ざけないでください…」
「?」
「ふざけないでください!!」
声の主はミスター銀さんだった。あの優しいミスター銀さんが、険しい顔でこちらを見ている。他の生徒たちも驚いた顔で銀さんを見ている。
「あなたはいつも、俺たちのことばっかり…。たまには、自分が助かることも考えてください!助けてほしいんだったら、生きたいんだったら、そう言ってください!俺たちは一生懸命あなたを治療しますから!俺たちにとってすまない先生はもう、何よりも大切な存在なんです!あなたに生きてほしい俺たちの気持ちも考えてください!」
銀さんは泣いていた。だが、彼の深緑色の目は、真っ直ぐと僕を見据えていた。僕の中で何かが溢れ出した。
「生き…たいよ…僕だっ…て」
これが僕の本心だった。本当は…本当は、みんなとたくさん授業やって、サバイバルして、ご飯食べて、笑い合いたい。
「だけど…もう死ぬって…わかっちゃう…んだ…!みんなの声も…だんだん…聞こえなく…なって…これが…死ぬって…いう…感覚な…んだって…!」
僕は目から涙を流した。生徒たちも、涙を流している。
「わかりました…」
ブラックが震える声で言った。
「しかし、約束です。さようならはなしにしましょう。また、あなたに会うことができないような気がしてしまうから」
ブラックの言葉にみんなも頷いた。僕も頷き返す力はもうないが、ブラックの意見に賛成だった。
「では、また会いましょう、すまない先生」
「また一緒に授業しようぜ」
「向こうでも元気でいてくださいね?俺たちもそうするんで」
「俺、これからきちんと授業受けます。また、会いましょう」
「最初っからちゃんと受けろよ、兄貴。俺もすまない先生とまた会える日を楽しみにしています」
「はああああああ…。また会いましょう、先生」
「うるさいなぁ。僕も、またあなたと会える日を楽しみにしています」
生徒たちの言葉ももう、あまり聞こえなくなってきた。他の感覚もままならない。僕は最期の力を振り絞り、みんなに伝えたいことを言った。
「みんな…今…まで…本当に…ありが…とう。また…絶対に…会おう…ね」
僕はもうこれ以上の言葉を伝えることができなかった。もっともっと伝えたいことがあるのに…。ああ、泣いているみんなの顔も見えなくなってきた。だけどね、僕はすごく幸せだよ。大好きな君たちに会えて、君たちに囲まれながら死ねるんだから。ほんとうに、ほんとうに、今までありがとう…
みんなは、大きな木の箱の周りに集まっていた。中には、すまない先生が横たわっている。
「すまない先生が死ぬなんて…ほんと、やるせないな」
ミスターレッドが絞り出すように言った。
「ああ。そうだな。僕もいまだに信じられない」
彼の隣にいるバナナも言う。そこでミスター銀さんが話してきた。
「だけど、すまない先生は幸せだったんじゃねーのか?」
「?」
ミスターレッドが首を傾げる。
「だってよ、ほら、すまない先生、なんか笑ってるみたいじゃんか。眠っているみたいだぜ」
ミスター銀さんの言葉に全員が頷く。確かにすまない先生は花の中で微笑みを湛えていた。まるで、眠っているようだ。
「立派ではありませんか」
次はミスターブラックが言った。
「すまない先生は英雄としてのと、すまない先生の両親の息子としての、それと私たちの先生としての使命を立派に果たしたんですから」
すると次はミスターブルーが少し微笑んで
「その使命から解放されて、楽になったんじゃないのか」
と言う。そこでミスター赤ちゃんが
「なんか俺たちが悪者みたいじゃねーかよ」
と静かにつっこんだ。
火葬場ですまない先生が入った棺桶が燃やされる。棺桶の中には、すまないスクール7人の手紙が入っている。それと一緒に先生の遺体は燃やされた。葬式には、たくさんの人が来ていた。長老をはじめとする、みずほの国の人々。すまない先生の修行仲間、ミスターライト。すまない先生の師匠、マスターすまない。そしてすまない先生の初恋の相手、エウリ。エウリはヘビ一族のなんちゃらから抜け出してすまない先生の葬式に来ていたのだ。みんな、涙ぐんでいた。中には嗚咽を漏らしている者もいる。それくらい、すまない先生はみんなにとって大切な人だったのだ。みんなは、そのすまない先生に向かって手を合わせ、成仏することを祈った。
すまない先生の遺骨拾いをみんなでする。
「すまない先生って、こんなちっぽけな壺の中に入っちまうんだな」
ミスター赤ちゃんが不思議そうに言った。
「はい、人間とはちっぽけなものなんですよ」
ミスターブラックがミスター赤ちゃんに言う。母を交通事故で亡くしているミスターブラックはそのことがわかっていた。だが、ミスターブラックも不思議な気持ちでいた。おおらかで、いつも背中を見ていた人が、こんなに小さかったなんて。ミスターブラックは骨壷の蓋を閉めながら、そんなことを思った。
それから数年後。
やあ、みんな久しぶりだね!すまない先生だ!え?もう死んじゃったんじゃないかって?うん、僕はもう死んでるよ。だけどね、今は想いとなってこの世界にとどまってるんだ。いわゆる幽霊ってやつだよ。あ、成仏してないってわけじゃないから安心して。鬼◯の刃の名言にもあるじゃないか、「人の想いこそが永遠であり、不滅なんだ」って。まさにその通りだよ。そこで、今、すまないスクールを卒業したみんながどうなったかについて話すね。ミスターブラックはブラックホールをはじめとしたさまざまな謎を解き明かし、今や世界一有名な科学者の一人だよ。だけど、仮面はいまだに外していないらしいね。ミスター赤ちゃんは「動物の楽園」を倒して、本当の動物の楽園でお母さんと一緒に暮らしてるんだ。今でもちょくちょくみんなのところに会いにいってるね。ミスター銀さんは暗黒シンジゲートから両親を救い出して、今や腕利きの大工になってるよ。ミスターマネーは暗黒マフィアを倒して、今や世界一有名な会社と言われてる、マネー財閥の会長。ミスターバナナはラマンダーを倒してりんご王国との友好関係を取り戻し、今はりんご姫と結婚してバナナ王国の新たな王となってるよ。ミスターレッドブルー兄弟は今や世界的な正義の大泥棒、怪盗レッドブルーとして活躍してる。ほら、今みんながマネー財閥が経営するレストランで同窓会をしているね。
「ミスターブラックはいまだに仮面外してねーな。そろそろ見せてくれよ」
「いやです」
なんか面白そうな会話してるなー。僕はゆっくりと姿を現した。みんなが目を見開いているのがわかる。
「すまない!みんな、元気だったかい?」
僕は元気よくみんなに言った。
「すまない先生!」
みんな泣いていた。
「もう、どこにも行かないでくださいね」
行くわけないじゃないか、ミスター銀さん。みんなを死ぬまで見守ること。これが僕の新しい使命なんだから。
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