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ゆうき あきや
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#心理描写重視
コメント
1件
# 感想💭 もうアキヤさん…!!!😭💕✨ 働く理由を「ホメオスタシス」とか言い出すあたり、完全にアキヤさんの言い訳癖炸裂してて笑ったけど、その根っこにある「冷たい風を知ってるから温かさがわかる」って考え方、めっちゃ沁みました…。社会で頑張る全部の人へのエールみたいで、読んでてじーんと来たよ…。 最後の小春ちゃんの座布団スマッシュからのカオス展開、あの温度差がこの作品の魅力だよね!!最高でした〜📚💕 次話も楽しみにしてるね、ゆうきあきやさん!!🍀
第87話:働く理由と、春の夜風〜元社畜の矜持と、絶対に忘れたくない温度〜
「……はい、本日のご相談はこれにて終了となります。またいつでも、お気軽にお電話ください。おやすみなさい」
限界集落の古民家に、静かな俺の声が溶けていく。
時刻は深夜一時。
フルリモートの『お悩み相談室』の受電業務を終え、俺——アキヤは、黒いヘッドセットをそっとデスクに置いた。
縁側のガラス戸を少しだけ開けておくと、新緑の匂いをたっぷりと含んだ春の夜風が、心地よく部屋を通り抜けていく。
「ふぅ……。今日は少し、重たい相談が多かったな」
俺は軽く首を回しながら、ジンバルに固定されたiPhone miniの画面に目を向けた。
深夜にも関わらず、今日も三百万人のリスナーが、画面越しにこの静寂を共有してくれている。
『主、今日もお疲れ様!』
『最後の相談者の人、声が明るくなって本当によかったね』
『アキヤの声とシロ様のゴロゴロ音で、俺もすっかり浄化されたよ』
『世界一優しい相談室だわ、マジで』
チャット欄には、労いと感謝のコメントが滝のように流れていた。
俺の足元では、相談室の「特別ヒーラー」として活躍した神獣シロが、俺のジャージの裾に丸まってすやすやと眠っている。
その向こうでは、コン吉とコン次郎が、ヘソ天で完全に無防備な寝顔を晒していた。
部屋の隅では、助手として頑張ってくれた小春ちゃんが、座布団を枕にしてスヤスヤと寝息を立てている。
俺は温かいほうじ茶を淹れ、縁側に腰を下ろした。
月明かりに照らされた庭の木々が、風に揺れてサラサラと音を立てる。
そんな中、チャット欄に流れた一つのコメントが、ふと俺の目に留まった。
『主ってさ、山ごとキャッシュで買えるくらいMeTubeで莫大な金を持ってるじゃん。一生、シロ様たちと遊んで暮らせるのに、なんでわざわざコールセンターみたいな大変な仕事してるの?』
それは、純粋な疑問だった。
確かに、俺の銀行口座には、一生かかっても使い切れないほどの額面が印字されている。
嫌な思いをしてまで、見ず知らずの他人の悩みを聞く必要なんて、どこにもないのかもしれない。
俺は湯呑みを両手で包み込みながら、夜の闇に向かってぽつりと口を開いた。
「……そうですね。俺がなぜ働くのか」
静かな声が、高性能マイクを通して世界中に配信されていく。
「俺はこれまで、色々な現場を渡り歩いてきました。陸上自衛隊の需品科で物資管理に奔走し、役所の窓口で理不尽な怒声に頭を下げ、介護の現場で命の重さと向き合い、コールセンターで鳴り止まないクレームの電話を受け続けてきた」
それは、俺の魂をすり減らしてきた、過酷な日々の記憶。
「どの現場も、毎日がギリギリの戦いでした。心に余裕なんてなくて、ただ今日を生き延びるためだけに、歯車としてすり潰されていく感覚。……でも、そんな社会の最前線で泥水すすって戦っている人たちがいるからこそ、今の俺の生活は成り立っているんです」
俺は、部屋の奥で静かに青いランプを点滅させている、YAMAHAのルーターに目を向けた。
「この安定した通信回線も、スーパーに並ぶ玄米や大豆パティも、誰かが血の滲むような思いをして兵站(ロジスティクス)を維持してくれているから、俺の手元に届いている。俺が莫大な金を手にしたからといって、その苦労から完全に目を背け、社会との繋がりを絶ってしまうのは……需品科上がりとして、どうしても許せないんです」
俺の言葉に、チャット欄のコメントの速度が少しだけ遅くなった。
誰もが、静かに俺の言葉に耳を傾けているのがわかる。
「それに……」
俺は、足元で眠るシロの純白の毛並みを、そっと撫でた。
シロは気持ちよさそうに『クルル……』と喉を鳴らした。
「俺がもし、この限界集落で何もしないで、シロの適温バリアの中だけで生きていたら。きっといつか、この『温かさ』が当たり前のものだと錯覚してしまう。外界の冷たい風を知らない人間は、温もりのありがたさに気づけなくなってしまうんです」
春の夜風が、俺の頬を撫でていく。
それは冬の猛吹雪ほどではないが、深夜の北海道らしく、確かな冷たさを帯びていた。
「コールセンターで誰かの悲痛な声を聞き、社会の冷たい風に触れ続けること。それが、俺にとっての『温度計』なんです。冷たい風に当たって、心が少し冷えた後に、こうしてシロやコン吉たちに触れるからこそ……『あぁ、ここは世界で一番温かい場所なんだ』って、心の底から実感できる。だから俺は、働き続けるんです」
『主……(号泣)』
『あかん、涙が止まらん』
『限界社畜の鑑すぎるだろ……』
『当たり前の温もりに感謝するための仕事……カッコよすぎる』
『社会の最前線で戦う俺たちへの、最高のエールだわ』
三百万人のリスナーが、画面の向こうで一斉に涙腺を崩壊させていた。
そして、世界中のVIPたちもまた、静かな敬意を極彩色のMeTubeギフトに込めて送り始めた。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”A true philosopher! Master, you have taught me the true value of wealth and labor.“(真の哲学者だ! 主よ、あなたは私に富と労働の真の価値を教えてくれた)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Your humility is the greatest asset. I will re-evaluate my life’s purpose tomorrow.“(あなたの謙虚さこそ最大の資産だ。明日、私の人生の目的を再評価しよう)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト)=”Master, your soul is as beautiful as Shiro.“(主よ、あなたの魂はシロと同じくらい美しいわ)』
「お兄さん……」
ふと、後ろから声がした。
振り返ると、いつの間にか起きていた小春ちゃんが、目を真っ赤に腫らしながら俺を見つめていた。
「お兄さんって……いつも言い訳ばっかりで素直じゃないですけど……本当は、誰よりも優しくて、強くて……すごく、すごくかっこいいです……っ!」
小春ちゃんが、感極まったように声を詰まらせる。
世界中のリスナーが、画面越しに俺の照れた顔を待ち構えている。
だが。
俺は熱いほうじ茶をグッと飲み干し、元・社畜としての『一切の感情を排したフラットボイス』でカメラに向き直った。
「……小春ちゃん。そして世界中の皆さま。俺の言葉を感動的なヒューマンドラマに仕立て上げようとしているところ大変申し訳ありませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『三百万人が泣いてるのに、絶対に感動で終わらせない男!!』
『主の限界言い訳タイム・働く理由編ww』
『さあ、この感動の演説をどうやってひっくり返す気だww』
俺は、キリッとした真顔で、淀みない口調で言い放った。
「俺が働き続ける理由は、極めて生物学的な『ホメオスタシス(恒常性維持機能)』の観点から説明が尽きます。人間は適度なストレス(負荷)を与えられ続けることで、自律神経のバランスを保つように設計されています。つまり、社会との繋がりという名の適度なストレス要因を意図的に取り込むことで、俺自身の心身の健康と、玄米の消化吸収率を極限まで高めているだけです。ええ、感動でもなんでもない、ただの利己的な『生存戦略』ですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、涙を引っ込めて、座布団を俺の背中にフルスイングで叩きつけた。
「ホメオスタシスのために、見ず知らずの人の悲痛な悩みを聞き続ける人間がどこにいるんですか!! どう聞いたって、お兄さんが社会で頑張ってる人たちを尊敬してて、自分も誰かの役に立ちたいって思っただけでしょ!! 素直に『皆のおかげだ』って言いなさいよ!!」
『小春ちゃんの座布団スマッシュ炸裂www』
『ホメオスタシス(玄米の消化吸収率UP)』
『適応力バグおじさん、ついに自分の感動演説すら生物学で全否定するww』
『照れ隠しが限界突破してて草』
『言い訳のおかげで、涙が笑いに変わったわww 最高!!』
俺の理不尽極まりない生物学的な言い訳と、小春ちゃんの鋭すぎる物理ツッコミに、三百万人の視聴者たちは感動の涙を爆笑へと変え、チャット欄はかつてないほどの盛り上がりを見せた。
『ミャウ(騒がしいわね)』
俺の足元で寝ていたシロが、うるさそうに片目を開け、大きな欠伸をしてから、再び俺のジャージに顔を埋めた。
「……まぁ、理由はどうあれ。俺はこの生活が気に入ってるんだ」
俺は苦笑いしながら、シロの柔らかな背中を撫で、春の夜風を胸いっぱいに吸い込んだ。
世界中から寄せられる悲鳴を受け止め、時に理不尽な思いをしながらも、誰かのために言葉を紡ぐ。
そうして少しだけ冷えた体で、この世界一温かいもふもふ達の懐に帰ってくる。
限界集落でひっそりと営まれる『お悩み相談室』は、元社畜のアキヤにとって、自分が自分らしくあるための、何よりも大切で、最高にバグった「俺だけの日常」なのだった。