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「汐音さんは、一連のこの事件を引き起こした張本人ですよね?


山崎さんを、そして真由佳をそそのかし、うちの夫と浮気をさせた――」


なにを根拠に言っているのだろう。この女は。


内心で汐音は呆れた。この女――鷹取有香子にいったい自分のなにが分かるというのか。


汐音のブログにはいまだにコメントが来る。一部ではカリスマ不倫主婦として崇め奉られている存在だ。そう、山崎や真由佳も汐音の信者である。


「あなたにあたしのなにが分かるって言うの?」汐音はただ微笑んだ。その笑みが効果的に映るように意識しながら。「あなたは、鷹取の家で、愚図で、間抜けで、なにも出来なかった不出来な嫁のくせに。お母さんの役に立つことをなんにも出来なかった。あろうことか、こないだは、そこにいる職場の上司と不倫ドライブなんかに行って。


あなたのことが恥ずかしいわ。有香子さん。……どうしてあなたのようなひとが、うちに、嫁いできたのかしら?」

「汐音。口を慎みなさい」先日の一件で懲りたらしい。汐音の母親――有香子からすると義理の母が口を出す。「あなた、不倫ブログなんかやってアフィリエイト? かなんかで稼いだからって調子に乗りすぎよ。自分のことを棚に上げて、いったいなにを言っているの?」


「言っていることが意味が分からないのはお母さんのほうだよ」とむくれる汐音。「こないだから、……やたらと有香子さんの肩を持つけれども。あたしはね。あたしはね、本当に、すごいひとなんだよ? ブログなんて百万PV以上を記録していていまだに。いまだにコメントが来るくらいのインフルエンサーなの。そのことを、……時代に疎いお母さんは、分かっていないのよね。


外国になんか嫁いだ姉貴も姉貴だし。……晴湖や真由佳なんかに引っ掛かる兄貴も兄貴だよ。


鷹取の家には、馬鹿しかいないの。


……そのなかで、あたしは、選ばれたサラブレッドなのよ」


鷹取汐音の台詞があまりにも虚しく、リビングに響いた。えーっと。と、誰も手をつけていない、オードブルやローストビーフをむしゃむしゃ食べていたはずの前野が、急に手をあげる。

「実のお兄さんに、お知り合いかお友達かは知りませんが、ふたりの友達を相手にさせておいて。……いかれているのはどう考えても、汐音さん。あなたのほうですよ?」


「なによ。ダルマが」吐き捨てるように汐音は言う。「あんたみたいな障がい者は、お呼びじゃないのよ。口出ししないでくれる?」


「――汐音さん。その言い方はナシです」


……おや?


口出しをしたのは、何故か、山崎晴湖――だった。


可愛がっていた子犬に手を噛まれた気分だ。不快な気持ちで汐音は山崎の発言を受け止めた。「なによ。結局あんただって、あたしの操り人形だったくせして。なにか文句あんの?」


「……汐音さんの文章力や構成力は流石です……見事だと思っています……あのブログ……でも」き、と意志の強い目を向ける山崎は、「あたしは、あたしの意志で、元カレである知宏と浮気をしたんです。元々お付き合いをして、分かり合っていた大切な彼氏を奪われた。その気持ちがあなたには分かるんですか。汐音さん」


「おいおまえ余計なこと言うなよっ」叫ぶのは知宏だ。「べ、別におれは晴湖や真由佳となんか――」

「下の名で呼ぶ関係なのね?」突っ込むのは有香子だ。「今更取り繕っても無駄なんじゃないかしら? あなたたち……真由佳と山崎さんが、金髪女に扮装して、うちで淫らな行為を行った。証拠ならごまんとあるのよ?」


そう。それが汐音には面白くなかった。――監視カメラが仕掛けてあるのに。その時点で、手を引くべきだったのに。


「はめられたんだよおれはッ!!」顔を真っ赤にして叫ぶのは知宏だ。虚しく響く。「おれは――浮気なんかしていない。ハニトラだ。はめられただけなんだよッ!! 信じてくれっ有香子ぉッ!!」


「――は。なにを言っているの」反論したのは山崎だ。「あんた、あたしのこと散々いい女って……。古女房とさっさと別れて一緒になるって……あたしの子どもたちも面倒見るって……」

「この男は家事も育児もしないわ」静かに答えたのは有香子だった。汐音は、何故か、自分が置き去りにされていると感じる。違う。違う違う違う。この物語の主役は他の誰でもない、あたしなのに。「……お気の毒ね山崎さん。……わたしは、あなたとわたしが知宏に二股をかけられたのを、今回調べて初めて知ったんだけれど。知らなかったのなら、あなたも被害者なのかもしれないわね」


「うるさい。うるさーいっ!!」髪を振り乱して汐音は叫んだ。「あんたたちは外野なのよッ!! お呼びじゃないの!! モブごときが発言するなんて許せないわっいますぐ消えなさいッ!!」


「……汐音さん……」何故か、気の毒そうに、有香子が言った。「あなたは確かに選ばれた者かもしれません。が、その選民思想を誰もが受け入れるとでも? ここにいるみなさんの様子を見て、本当に、気づかないんですか?」


汐音は一同を見回す。眉間にしわを寄せて、気味の悪い者を見るような目を向ける者も。訝し気に見やる者も。誰もが……汐音の敵だった。


「何故、あなたが鷹取有香子さんをそこまで憎むのか……ぼくには分からなかったんですが、いまなら、分かる気がします」

立ちあがって発言したのは、広岡才我だ。――有香子の上司であり、不倫相手。


「こ、こいつ……こいつが、有香子さんの不倫相手よッ!!」声を裏返すくらいに汐音は叫んだ。指をさし、目を血走らせ。「あんた。有香子さんが鷹取の実家に帰ったときに、逢引きなんかして。恥ずかしいと思わないんですかッ!! のこのことこんな場に現れて!! 部外者のモブのくせして!!」


「そうよっ広岡課長は、鷹取有香子と不倫しているのよ!!」加勢したのは中島優空良ゆあらだ。「キャンプのときにいかがわしい行為を行った――証拠だってほら!! ここに!!」


「あ、すいません」挙手したのは有香子だ。汐音には、……なにがなんだか分からない。「その動画でしたらこちらの映像のほうが鮮明かと」


有香子がスマホを使ってテレビで動画を再生する。それは、キャンプの崖の下で行われた一部始終だった。編集して短くしました、と彼女は言って動画を流す。


なにやら、男女がくっついて、やたらといやらしい言葉を吐いている……が、フリだ。


どうやら女である有香子のほうが、咥える演技をし、その頭を広岡が撫でている。――なんという茶番だ。

怒りのままに汐音は叫んだ。「ふざ、……けんな!! なんなのよこれッ!! 中島、あんた、とんだ役立たずね!! ひとがせっかく――」


「せっかく。なんだと言うんです?」


「――あ」口を押さえた。いまのは失言だったと、汐音は気づいた。取り繕うように笑みを浮かべ、違うんです、と弁明にかかる。


「もう、無理ですよ。汐音さん」静かに首を振る有香子がやたらと美しく見えるのが悔しかった。「……中島さんが、あの崖にカメラを仕掛けた。詠史が丘の上にいるとあの場所へわたしを追い込んだのも中島さん。それから……広岡さんと詠史とわたしとでプールに行った際に、わたしの足を引っ張ったのも中島さん……なんですよね。分かっています」


あああ、と喉の奥から迸るような叫び声をあげる。突然走り出した汐音がいったいなにをするのか? 一同が見守る中、汐音は、最悪の選択をした。


「そんな……詠史」口を手で覆ったのは有香子だ。そう――その顔が見たかった。


最初から、あんたのことが、気に食わなかったのよ。鷹取有香子。

他の部屋でゲームをしていた詠史を強奪するように連れ出し、その白い喉に、ダイニングテーブルの上にあったフォークを掴んで突き立てる。一同は息を飲み、言葉を失った。


「有香子さぁん!!」唾を飛ばして汐音は叫んだ。「あなた……あんたにとって一番大切なのは誰? 広岡才我? それともこの子?」


視界の端で動きかけた広岡に、動くな! と汐音は叫んだ。「この場にいる誰も動くんじゃない!! 動いたらどうなるか――分かっているわよね!!」


「……お母さん」


汐音に後ろからお腹を抱えられ、身動きが取れない、拘束された様子の詠史が、声を発する。


「大丈夫。お母さん。……ぼくは、そんな、弱くはないよ」


「詠史……」


「お母さんにとってはみんなが大切な存在なんだ。……くだらない質問になんか、答える必要はない」


毅然と言い切った小僧が憎たらしく思えた。「――あんた。自分の立場分かってんの!?」


「分かってるよ。――だからこうする」


視点が急にブレた、と思ったときには既に、右足を払われた汐音はからだのバランスを崩しており、そのまま、クリーンな一本背負いを見舞われた。


畜生。こんな生意気なガキに。

とつぶやいた時点では、既に、汐音は床にうつぶせに倒れ込んでおり、かつ、駆け付けたみどりの夫ダーリンと広岡と前野によって取り押さえられていた。――終わった、と汐音は直感的に思った。


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