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仲間であるレジスタンスの女が悶絶しながらスープを飲んでいるその横で、ウベルは真剣な顔つきで淡々と料理を進めている。
大きな魚の切り身をゲル状の出汁に漬け、その間にソースを作っている様子。とてもマズい物を作っているようには見えない。
対するパフィは材料を揃えた後、クォンにスープを飲ませようとピアーニャに指示を出していた。
「ほーら、ソルジャーギアでも雇っている程の料理人ウベルさんの作った美味しいスープなのよー」
「やだやだやだやだやめてくださいなんでもしますからあああっ!」
『ん? いま……』
「いっせいにクォンのコトバにハンノウするなよ……」
パフィは調理工程を操作出来るので、相手の調理がある程度進むまでは遊ぶ…もとい、出された料理の完食というノルマをこなす事にした。
「ほら、クォンの口を開けて上に向けるのよ」
「あ゛ーーーーっ! あ゛ぁぁぁぁ!!」
「す、すまん嬢ちゃん……」
「総長の命令で仕方なく、仕方なくだから!」
シーカー2人は必死になってクォンを押さえている。後で自分もこんな目に合うかもしれないが、今は目の前にある恐ろしい飲み物を片付けてしまいたい。その想いが、大人達の行動を下衆へと駆り立てていた。
パフィが容赦なくクォンの口の中に、スープを注ぎ込んでいく。
「ごっ! ごぼっ!」
「ほれ飲み込むのよ」
ドスッ
「んぐっ!?」
ごくん
「あぁムゴい……」
無事?スープを飲み込ませた。パフィは満足そうにウンウン頷いている。
「な、なぁ。こんなリョウリショウブなんてしないで、アイツはりたおせば、いいんじゃないか?」
ピアーニャが至極もっともな意見を言うが、パフィも周囲のシーカー達も首を横に振る。
「そこのケインから助けてくれたお礼でもあるのよ。それに料理勝負を真剣に挑まれたのよ。だからラスィーテ人として真っ向から受けたのよ」
「そ、そうか」
パフィの理由は、心情を考えるとまぁまぁ納得出来なくもない……と思えるものだったが、
「なんか面白そうだったんで、やってみるよう勧めました! まさか巻き込まれるとは思わなかったんです!」
「オマエら、あとでシメてやるからな!」
しょーもない理由だったシーカー達は、後でボコボコにされるのが決定した。とりあえずこの後の犠牲者は、巻き込まれたシーカー2人にする事を、心に決めたピアーニャであった。本来はこんなおかしな勝負を続けたくはないが、ここで約束を違えたら、レジスタンスは永遠に敵になるかもしれない。サイロバクラムの信頼を得る為にも、ここは流れに乗っておきたいと、覚悟を決めた。
そろそろいいかと、パフィは包丁を握り、目の前の魚を切り刻み始めた。さらにアリエッタの木(仮)の赤い葉と紫の葉を刻み、サイロバクラムの野菜も細かく刻んでいく。そのまま空中で混ぜて、火にかけた。とてもいい匂いが、辺りに漂う。
その絶対美味しそうな物が完成すると思える調理工程に、ピアーニャは嫌な予感しかしない。
(このニオイ。ぜったいフェイクだろ……)
味が凝縮され、表面の焦げ目によって閉じ込められていくのが見て取れる。横のシーカーの女がゴクリと喉をならしているが、アレを食べたらどうなるか分かったものではない。ただ、体に良い事だけは確かである。それがラスィーテ人の料理なのだから。
「ほい、出来たのよ。魚のハンバーグなのよ」
ソースなど不要とばかりに、皿の中心に鎮座する魚肉の塊。サイズが少し大きめなのが、普通であれば喜ぶところである。
「こちらはソテーです。召し上がれ」
ウベルが出したのは、魚の切り身を漬け込んで焼いたソテー。良い色に焼けた身には、乳白色に輝くソースがかけられている。
「うおぉ……アレ絶対うまいやつ……にしか見えねぇ」
「腹減るなぁ……食べたら死ねるけど」
レジスタンス達が唸っている。
その2品を交換し、お互いのメンバーのいずれかが食べて、完食しなければいけない。
しかも、クォンは先程のスープの影響で、地面に突っ伏してピクピクしたままである。復活までまだ時間がかかりそうだ。
「それじゃ一口いただくのよ」
誰が食べるか視線で牽制しあうピアーニャとシーカー2人を差し置いて、パフィが迷わず切り身を少し取って、口に入れた。
「ヴゴっ!」
瞬間、くぐもった悲鳴と共に、涙と鼻水で顔を濡らしていた。顔色も少し悪くなった。
「ぐ……ん゛……な゛る゛ほど……そうきたの…よ……ふふ、ふふふふ」
「いや何が成程なの!? 余計怖くなったんだけど!」
食べた物を飲みこんで顔を上げたパフィの表情には、殺意や狂気としか思えない何かを感じた。順当にいけば次に犠牲者となる予定のシーカーの女がそれを見てしまい、あまりの恐怖に震え始めている。
相手を見ると、ウベルが地面に膝をついて、苦しんでいた。どうやらハンバーグを一口食べたようだ。
「あいつ、白目向きながら悶絶してるなぁ……」
「ドクよりこわいぞ……」
レジスタンスがハンバーグへの恐怖で震えているのが見える。一体どれだけマズさが凝縮されていたのか、シーカー側はだれも想像できない。むしろ想像したくないようだ。
シーカーの女は決心し、魚の切り身に手を伸ばした。
(パターンからして、このソースは危険。でも先に食べてしまえば、後が楽なハズ。どうせマズいんだし、いくしかない!)
一応匂いを嗅いでみたが、ほのかに美味しそうな匂いを感じていた。しかし、そんなものに惑わされる程、この場の緊張感は緩くない。全員が匂いはフェイクと確信していたのだ。
女は思い切って、大きく取った切り身を口に放り込んだ。
「お゛っ!?」
ちょっと出しそうになったが、なんとか我慢した。が、口と違って体の方は耐えられず、涙を流しながら転がり始めた。
(まずっまずうううう!! 何これ一気に刺激の強い生臭さが口から鼻まで広がって頭の中まで臭くなった気分! やばい足が痙攣する、ナンデ!?)
何往復か転がった後は、足をビクンビクンさせながら、必死に飲み込んでいく。もはや自分の意思で体を動かしていない。
「お、おい。だいじょ…ヒィッ!」
心配になって顔を覗いたピアーニャが、悲鳴を上げて引き下がった。この世の物とは思えない恐ろしいナニカを見たかのようだ。
(っこんな所でやられるわけにはいかない! 『殲風のエイリン』とかいう恥ずかしい名前で呼ばれたわたしが、こんなどーでもいい事で死ぬなんて許されない!)
彼女の名はエイリン。風を操り敵性生物を殲滅するというスタイルから、二つ名を付けられたシーカーである。そんな実力派な経歴も、今は何の役にも立たないが。
エイリンはこんな事を繰り返したら精神的に死ぬと判断し、残りのソテーを全て口に放り込んだ。そして自らの腹を叩き、強引に飲みこもうとする。それでも味覚が拒絶するのか、上手く飲みこめないので、涙を撒き散らしながら地面をゴロゴロ転がり始めた。
『うわぁ……』
(このふたりは、がんばったらトクベツホウシュウだすか……)
あまりの姿に、ピアーニャも引きながら同情。ボーナス報酬が決まった時、エイリンが膝立ちし、口を閉じた状態で大声で叫んだ。そしてついに飲みこむ事に成功した。
「………………」
そのまま静かに…真っ白になって気を失った。
「よく、よく頑張った! 殲風のエイリン! お前こそ真の勇者だ! その雄姿、俺達の心に深く刻み込ませてもらったぞ!」
シーカーの誰かが涙を流しながら敬礼。それに習い、周囲のシーカー達も、離れて見ていたレジスタンス達も、同じく敬礼をするのだった。
「いや、しんでないからな? っていうか、わすれてやれよ……」
冷静なのはピアーニャだけである。
「よし、次のアイスが出来たのよ」
「オマエもうちょっとテゴコロというか、ヒトのココロをもって、コウドウしてくれないか?」
パフィは容赦無く、次のメニューを出してきた。口直しの為の氷菓である。
なお、レジスタンス側は、ウベルが動けなくなっているうちにメンバーがハンバーグを齧ってはいるが、余り食べ進める事が出来ていない。全員もれなく、のたうち回っている。
「総長が食べやすいように、可愛く盛り付けてみたのよ」
「なんでかわい…え゛っ、わちがたべるのか!?」
出されたのはアイスクリーム。その形はピアーニャがよく着ている(着させられている)サメの頭を模られている。
「なんでコレなんだよ!」
「総長これ好きなのよ」
「あれはカッテにつくられたヤツだろーが!」
「アリエッタにも将来正直にそう言うのよ?」
「ぐっ……」
アリエッタの名前を出されて、言葉が詰まるピアーニャ。というのも、本人はアリエッタと絡むのを心底嫌がってはいるのだが、女神の機嫌はむやみに損ねたくないのだ。
「というわけで、はいなのよ」
「ひぃ……」
食べるのはもちろんレジスタンス。
まだハンバーグが残っている状態で、見た事の無い形状の口直し料理を出され、全員が絶望している。サイロバクラムでは食べ物も基本的には四角なのだ。
そんな中、ウベルは顔色を悪くしたまま、対抗する食べ物を作っている。
「むぅ、遅いのよ。誰か、これを冷やしておいてほしいのよ」
「はいはーい。ワタシが氷の箱作るから、その中に入れてちょーだい」
「助かるのよ」
シーカーの1人が名乗りをあげ、魔法で氷の箱を作り上げた。レジスタンス達は魔法を見て感動し、異世界もいいな~と心が揺らいでいる。
(こんなコトしないで、もっとマホウみせればカイケツだったんじゃ……)
そんなもしもの想像が頭をよぎるが、始まってしまったものは仕方がない。こんな事は早く終わらせてしまおうと、覚悟を決めてウベルの口直し料理を受け取った。