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「はぁ、ひでぇ目にあった……」
「まったくです」
フラフラとソルジャーギアのブロント・エンド支部に歩いてきたのは、ツインテール派リーダーのスタークとツーサイドアップ派兼レジスタンスリーダーのエンディア。ちょっとボロボロになったまま仲良く歩いている。
「アンタらそれでいいんかい……」
呆れて見ているのはハーガリアン。両派閥の争いをずっと見ているので、今更とは思いつつも本来不仲な両リーダーにツッコまざるを得ないようだ。
派閥戦争としては、今回は引き分け。異世界人、そしてパスタロボとウッドゴーレムの介入に引っ掻き回され、すっかり心が折れていた。
「だって異世界人、滅茶苦茶強いですし……」
「これ以上巻き込んだら、ブロント壊されちまうよ」
発端はあくまで派閥戦争。ミューゼ達は巻き込まれた側である。ただサイロバクラム側から見て、その全員がもれなく魔王級の強さを持っていただけの話なのだ。その筆頭が魔王女ネフテリアだったりする。
「魔王女言うな」
「? 誰に反論してるんですか?」
「なんでもない」
結果、レジスタンス達は大人しくする事にし、まずは異世界を観察してから再度結論を出すという考えに至った。元々クォンに対する当てつけが反抗の理由の大部分を占めているので、アッサリしたものである。
2つの派閥はピアーニャ達が帰るまで一時休戦。体勢をしっかり整えてからまた戦争しようと、しっかり握手を交わしていた。
「……まぁ人の趣味にとやかくいう事はないけどね」
「そうわよね」
「………………」
趣味丸出しの筆頭であるケイン…のドルナに、心底イラッときたネフテリアであった。
女装と変態行動以外については話が通じる相手なので、サイロバクラムの事情を話し、さらにレジスタンスの数名を生贄に、サイロバクラムのファッションを見せる事を約束。一旦帰るまでは大人しくしてもらうという説得に成功している。
ファッションについてはアリエッタも盛り上がっている。ミューゼ達が喜ぶような新しい服の構想を練る為、ドルナ・ケインの隣でスケッチ中。
しかし、ふと顔を上げ、ミューゼに話しかけた。
「ぴあーにゃ、なーに?」
「え? ピアーニャがどうしたの?」
「あ、総長がどこ行ったのかって聞きたいみたいです。大丈夫だよ。お姉ちゃんとしては心配なのよねー」
ネフテリアが首を傾げたので、ミューゼが通訳。
「おぉ、よく分かったわね……流石保護者」
当然の事ながら、アリエッタはなかなか帰ってこないピアーニャを心配し始めていた。ミューゼが大丈夫と言えば、大丈夫なのだろうと安心し、頷いた。
「あっちにはパフィもいるからね。きっと今ごろ、美味しいもの食べてるよ」
「それもそうね。何か食べてたら、後で作ってもらいましょうか」
「ひぃ、ひぃ……ぐおぉぉぉ」
ピアーニャは四つん這いになって、息を荒らげていた。顔からは脂汗が絶えずにじみ出ている。
ウベルから受け取った物を齧った瞬間、我慢出来ずにそれを手放し、地面に転がったのだ。エイリンが気絶したとはいえ一品食べきったのに、総長である自分が一口で気を失ってたまるかという意地で、なんとか耐えていた。
その隣では、パフィも一緒になって四つん這いになっている。
「こ、これはキツいのよぉぉぉ……クリームに生臭さと酸っぱさとクドさ激甘さが混ざり合って、頬張った瞬間に鼻の奥を刺激するのよ……」
(どんなクリームだ……)
なんとか絞り出したレポートを聞いて、周囲の全員が戦慄した。
「たぶん……肩こりに効くのよ」
(どんなクリームだ!)
こちらも栄養は満点のようだ。
2人が悶絶している間に、レジスタンス側はハンバーグを4人で分割して食べ終え、次のアイスクリームに差し掛かっていた。ただ、それを一口食べたウベルが絶叫しながら転げまわり、レジスタンス達がアイスクリームを前に怖気づいている。
「ひぃふぅ……パフィ、オマエすっごいリョウリつくるんだな……」
「……まぁ普通はやらないのよ。おいしさを追求するって事は、その逆も知る事になるのよ。たぶんこーゆーのは、クリムのほうが上手く出来るのよ」
「ラスィーテじん、こわいな」
食事情を掌握しているという事は、人々の生活を支えているとも言える。その為ラスィーテ人はどのリージョンからも好かれ、頼られているのだ。ピアーニャ達ハウドラント人が自分達以外のリージョンの人々を大切に思い、交流したいと思っているのは、そういった生活や繁栄に重要な側面もあるからである。
喋った事で少し気が紛れたピアーニャはゆっくりと立ち上がり、
「あ゛~、やっとおちついて……うぷっ、きてないな」
再び膝をついた。
それでもなんとか立ち上がって、テーブルに置いてあるシュークリームのようなものを見つめる。先程ピアーニャが齧った部分からは、見た目甘そうなクリームが見えている。
この場は勢いとパフィの言い分に乗り、大人しく流れに身を任せてはいるが、総長としてはレジスタンスを力でねじ伏せても問題は無いと思っている。そうしないのは、ほんの少しでもわだかまりを無くし、相手を納得させた上で交渉を進めた方が、今後の交流をしやすいのだ。これが慣れ親しんだリージョンであれば、間違いなくパフィごとぶっ飛ばしているところである。
シュークリームのような形をしたおぞましい何かを手に、ジト目で横にいるシーカーの男を見た。
(つぎはオマエだからな)
(わかってます……)
ピアーニャと男が視線で会話し、両者覚悟を決めた。
「よし、よし……いくぞ……やれるぞ……うああああああああ!! んぐっ」
気合を全開にし、思いっきり叫んで口に頬張った。エイリンと同じで、何度も苦しむよりは1回で済ませてしまおうという結論に至ったようだ。
「むぉぉぉぅぅぅぅぅっ! んごおおおおおおおお!!」
当然顔色を変えてのたうち回る。マズさをこれでもかと凝縮して混ぜ込んだクリームに、優しさなど欠片も無い。クリームを包む生地ですら、何故か金属を噛んだ時のようなザリッとした感覚の後にネバァ~と糸を引くような感触があり、口内で気持ち悪さを演出しているのだ。
意味不明な感触と味で白目を向いて痙攣する姿は、とてもアリエッタには見せられないものだった。見た目のせいもあって、レジスタンス達に罪悪感を感じさせていたりする。
「よーし、ウベルさん。そろそろ次のを作った方がいいのよ」
『アンタには人の心という物はないのか!』
スムーズに進行しようとするパフィに対してレジスタンスが総ツッコミをするくらい、見た目幼女が苦しむ姿は心を抉るモノだった。
「だってこれはそっちが言い出した事なのよ?」
『うっ』
暴力沙汰ではないから大丈夫だろうと、高を括っていたようだ。今では暴力沙汰の方が優しかったのではと、考えを改めている者も多くなっていた。だが今更引き返せない。
観念した実食担当のレジスタンスは、出されたアイスクリームを頑張って食べ進めていった。一気に頬張るという度胸は流石に無い様子。
「それじゃあ、私も作るのよー。今度は自信作なのよ♪」
『いやだああああああ!!』
今の状況での『自信作』、それは恐怖と絶望を相手に贈る言葉である。
しばらくして、ピアーニャとレジスタンスが同時に完食。両者ともグロッキーになっている。
そんな葬儀のような雰囲気を無視し、ウベルとパフィは容赦なく次の料理を仕上げた。
「さぁ召し上がれ! カウガイダーのフライだ!」
ウベルが出したのは肉のフライ。『カウガイダー』とは以前にグラウレスタで狩った牛のような動物に似た動物で、サイロバクラムで主な肉料理に使われている。
普通ならば美味しい事間違いなしの肉を、衣をつけて揚げたのだ。シーカーの男はそれを見て、嫌な予感しかしていない。
「こっちはミルブルスのローストなのよ」
対するパフィは同じ種類の動物の肉を、ローストにしていた。アリエッタもローストビーフだと喜びながら時々食べている一品である。
本来は旨味を閉じ込めるその料理だが、閉じ込められているモノは果たして何なのか。それを想像したレジスタンス達は、もれなく涙目になっている。
『さぁ召し上がれなのよ』
なぜかウベルがセリフをパフィに合わせて、互いの料理を差し出した。
「アンタら息ピッタリだな?」
「そうなのよ?」
「ふふっ。ワタシはすでにパフィさんのファンですから」
「あら、そうなのよ?」
なんとウベルは先日からパフィに魅了されていたのだった。
「だったらこんな不毛な争いやめてくんねぇかな……」
『それは駄目なのよ』
「………………」
2人の料理人は受け取った料理をテーブルに置き、躊躇う事なく一口目をパクリと食べた。まずは料理人による味見である。
『ごっ…んむおぉぉぉぉぉぉ……』
「仲いいなぁオイ!」
タイミングもうめき声も息ピッタリ。あっちにフラフラ、こっちにヨロヨロしながら、顔色を悪くして悶え苦しんでいる。
「たのむっ、どっちでも良いから気絶してくれっ」
「俺達はもう食いたくねぇんだ……」
「犠牲は料理人だけでいい」
「……このままぶん殴ってやろうか」
だんだんと物騒な事を言い始める食事担当達。マズい物を食べ続けたせいか、徐々に殺意を漲らせているようだ。美味しい物を食べた時とは、まるっきり反対の反応である。
「うぅ……それがイイかもしれんな……」
ここで、グロッキーになっていたピアーニャが、かろうじて意識を取り戻した。そして手招きをする。その相手は……周囲の全員。
「う゛え゛っ……リージョンシーカーそうちょうとしゲぶぉ、セイシキに…シレイをだす。ゴほっ……あのふたりのクチに、あのニクぜんぶつっこめ……」
ここからは全員の動きが速かった。
パフィとウベルを数人で抑え、口に美味しそうな肉を詰め込んだ。ついでにパフィのあらぬ所を事故に見せかけて触ろうとした者を数人抑え込み、余った分を口に放り込んだりもした。
『ぇお゛っ!? &▽~★Д@■~~~~~!!』
何を言っているのか人には決して聞き取る事が出来ない数人分の絶叫が辺りに響き、周囲に潜んでいたドルティパスが一斉に逃げていった。
「ふ、はは。そうだ、それで……いい……」
ピアーニャは、やってやったと満足気な顔になって、今度こそ本当に気を失ったのだった。