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【韓国・ソウル】
ソウルのテレビ局KBSのスタジオの廊下には色とりどりのLEDライトが瞬き、まるで宇宙船の内部のようだった
そこの楽屋の一室は、豪華なソファと鏡張りの壁に囲まれ、化粧品やヘアスプレーの匂いが漂う。壁には「ブラックロック」のポスターが貼られ、彼らのワールドツアーの成功を誇示していた
今は楽屋の片隅で、力の影武者がパイプ椅子にふんぞり返り、きわどいミニスカートのアイドル「チェヨン」の膝をいやらしく撫でていた、チェヨンの甘ったるい笑い声が部屋に響く
「なぁ・・・いいだろ?やらせろよ」
影武者の声も興奮しているが、どこか脅迫的な響きを帯びていた
「え~・・・でもぉ~・・・」
チェヨンはクスクスと笑って身をよじるが、目は彼の顔に吸い寄せられていた
影武者の顔は本物の力そっくりで、整形された目と顎、力のトレードマークである、スッと鼻筋の通った高い鼻まで完璧に再現されている、その顔は誰もが本物と信じるほどだった
「今夜、俺のホテルに来いよ!そうしたら俺の女にしてやるぜ、次の新曲を書く作曲家も紹介してやるし、俺の顔を効かせて有名にしてやるよ、スターになりたいんだろ?」
影武者の言葉にチェヨンの目が輝いた
「嬉しい(はぁと)」
「ほら、股ひらけよ、後ろ向いて屈め!」
二人は熱いキスを交わし、影武者の手がチェヨンの股間に伸びた、その時ドアが勢いよく開いた
「なんだよ!誠!邪魔すんな!」
影武者が振り返りって苛立たしげに叫ぶ
「キャッ!」
チェヨンは慌ててスカートを整えて楽屋から逃げ出した、誠はドアを閉め、静かな声で言った
「今なら誰もいないから話をしようよ・・・お前「イジュン」だろ?10年前・・・僕と同じ『ファイブ』のアイドル研修生だった」
イジュンと呼ばれた影武者の唇が歪み、嘲笑が漏れた
「ハハハ!バレちゃしょうがねーな!お前も人のこと言えないだろうよ!ジョンハンに枕(※体を使って仕事を得る事)で取り入った誠さんよ!え?」
イジュンの声は鋭く部屋の空気を切り裂いた、誠の顔が一瞬青ざめるが、イジュンはさらに追い打ちをかけるように畳み掛ける
「実際、お前はうまくやったよ!でも俺はいくら歌の技術を磨いても何のコネもないから、10年間底辺で腐ってたんだ!やっと注目を浴び出したら、ただ、顔がブラックロックの力に似てるってだけだったんだ!ちゃんちゃらおかしいぜ!」
ガターンとイジュンが笑いながらパイプ椅子を蹴り飛ばし、床に鈍い音が響いた
「それなら自分の一番評価されてるモノで勝負して何が悪い!お前はケツの穴!俺はこの顔!お前に説教される筋合いはまったくねぇ!」
イジュンの目は憎しみに燃えていた
「この顔にする整形手術がどれほど痛くて苦しいか、お前分かってるか?え?俺は死ぬほどの苦しみと引き換えにジョンハンと契約したんだよ!俺は世界スターだ!」
誠は震える声で反論した
「で・・・でも!それじゃ本物の力はどうなるんだよ!お前は力の努力を盗んでいるんだぞ!」
その言葉にイジュンの拳が誠の頬を打ち抜いた、ガツンッと鈍い音が響き誠がよろける
さらにイジュンは誠の胸ぐらを掴んで壁に叩きつけた、顔を近づけて誠に唾を飛ばす
「力に本物も偽物もないんだよ!俺が本物の笹山力だ!俺だっ!次に偽物なんて言って見ろ!ただじゃおかないぞ!」
「お前は力なんかじゃない!「偽物」だ!」
「ころすぞ!!」
誠が叫ぶとイジュンの足が誠の腹を蹴り上げた、たまらず腹を抑えて床に倒れ込む誠をイジュンは容赦なく蹴りまくる
その瞬間、ドアが勢いよく開いて拓哉が飛び込んできた
「やめろ!!」
拓哉はイジュンの背中を掴んで力任せに突き飛ばした
「それ以上誠に手を出すと、お前のそのシリコンプロテーゼで出来た鼻をぐちゃぐちゃにするぞっっ!」
後ろには海斗とジフンも立ち、鋭い視線でイジュンを睨む
「ちっ!くそがっ・・・」
イジュンはそう毒づいて楽屋を後にした
「大丈夫か?誠っ」
うずくまる誠の肩を拓哉が支え、ジフンと海斗が心配そうに見守る中、なんとか拓哉が誠をソファーに座らせる
海斗もジフンも誠の周りに座る
グスッ・・・「うっ・・・うっ・・・・」
ハラハラ涙を流す誠の背中を拓哉がそっと支えて言った
「誠・・・知ってる事をすべて話してくれ、力の居場所をお前は知ってるんだな?」
・:.。.・:.。.
ブラックロックの楽屋の空気は重く・・・張り詰めていた
蛍光灯の薄暗い光がメンバー達の顔を青白く照らし、壁に貼られたポスターがわずかに揺れる、誠はソファーに座り、イジュンに殴られた頬をタオルで押さえ・・・震えて目を伏せながら十年前の記憶を掘り起こした
「十年前・・・ミュージシャンを目指して練習生として韓国に来たんだ・・・でもみんな芸能人としてのレベルが高くて・・・言葉も分からなくて孤独だった僕に・・・ジョンハンはとても優しくしてくれた・・・毎回うまい食事に連れて行ってくれて・・・困りごとはないかと聞いてくれた・・・」
誠の声は震え、過去の傷が抉られるようだった、拓哉、ジフン、海斗は静かにそれに耳を傾けていた
「ある日・・・ジョンハンに別荘でパーティーがあるから、僕に泊まりでウェイターのアルバイトをして欲しいと言われた・・・僕は二つ返事でOKしたよ、ジョンハンの役に立ちたかったし・・・それにアルバイトの報酬も桁違いだったんだ、でも・・・」
誠は頭を抱えてうずくまった
「そこで地獄を味わった・・・」
全員が誠の落胆した態度を見守った、誠の体がブルブルと震え、顔は真っ青だった
「パーティーは三日三晩続いた・・・来賓客は誰もが知る有名人ばかりだった、音楽プロデューサーに大物歌手、世界的人気の映画俳優、政治家、スポーツ選手、国宝級の人物もいたよ・・・そして僕はその・・・特に男が好きだと言う趣味のVIP達に・・・何人も・・・」
誠の声は途切れ・・・大粒の涙が頬を伝っていた
ヒック・・・「こんな事は何でもない事だと思い込もうとした・・・みんなやってる事だと・・・大人しく・・・目をつぶって身を任せていればすぐに終わる・・・それで仕事を貰えるんだって・・・だって僕にはそれしか成功する道が見えなかったから・・・」
拓哉の拳が握り締められ、海斗の目には怒りが宿った、ジフンはただ同情の目で誠を見つめていた
「ジョンハンは・・・定期的にその別荘で重要人物に僕みたいな子に性接待をさせて、今の地位を築いてきたんだ・・・」
彼は一瞬言葉を切り、目を細めて遠くを見つめた
「その別荘がちょっと変わっていて・・・地下に大規模な要塞があるんだ・・・何十人の人が何日も地上に出なくてもそこで暮らせるほどの・・・」
ざわッと楽屋にいた全員の息が一斉に漏れた、信じられないと言う拓哉の顔が凍り付き、ジフンは拳を握りしめた、海斗の視線が誠に突き刺さる
「そこに・・・力がいるというのか?」
拓哉の声は低く、抑えきれない怒りが滲んでいた、誠はコクンと頷き、喉を詰まらせながら答えた
「ジョンハンがこれからも力の影武者としてイジュンを使う気なら、本物の力は彼らの仲間内で最も『価値』がある事になるんだ・・・」
空気が一瞬で凍りついた、楽屋の壁の向こうではテレビ局の喧騒が遠く聞こえる・・・
しかしここでは時間が止まったかのようだった、海斗が身を乗り出した、額に汗が滲む
「なんだ? それはどういうことだ?」
誠の声は囁く様だったが次の言葉は鋭く響いた
「力は次のパーティでオークションに出されて売られる」
その瞬間、全員がショックにその場で言葉を失った、拓哉の目が見開かれ、ジフンは息を呑んだ、海斗が思わず立ち上がり、ガタンと倒れた椅子の音が響く
「オークション? 人間を売るってのか? 何なんだよ、それ?」
誠は目を伏せ、震える声で続けた
「ジョンハンの別荘では、金と権力を持つ者達が集まって欲望のままに取引をするんだ・・・力は彼の声、顔、存在そのものが最高の商品なんだ、ジョンハンは力を幽閉してイジュンを表舞台に立たせて、裏で力を高値で富豪達に売りつけるつもりだよ・・・」
誠の声は途中でかすれ、過去の記憶がフラッシュバックするかのように顔を歪めた
「今まで何人もそうされた芸能人を見て来た・・・日本の芸能人も何人か影武者が今活躍してるよ、本人は多分・・もう殺されている・・・」
その言葉はまるで冷たい刃物のように全員の胸を貫いた、拓哉が立ち上がって怒りに震える拳で壁を殴った、ドンッと鈍い音が楽屋に響いた
「ふざけるな! 力は俺達の仲間だ! そんなことさせねえ!」
ジフンが顔を上げて唇を噛みしめた、海斗は荒々しく髪をかきむしり、苛立ちを抑えきれずにうめいた
「どうする?力は・・・力はまだ生きてるんだろ?」
誠が静かに、しかし決意を込めて口を開いた
「僕なら、あのパーティーに忍び込める」
誠の顔は恐怖と覚悟が交錯する光を宿していた、楽屋の全員が彼を見つめて頷いた
「力を助けよう!」
海斗の言葉がメンバー全員の心に火をつけた、拓哉が拳を握りしめ、ジフンが頷き、海斗が歯を食いしばる
楽屋の外ではテレビ局の喧騒が無神経に響き続けていた、スタッフの笑い声、カメラのシャッター音、遠くで流れるCMの音楽
それらはまるで別世界の音だったが、楽屋の中ではブラックロックのメンバー達の心は一つになっていた
力の笑顔・・・力の歌声・・・優しい力の存在が彼らの胸の中で燃え上がる
全員が考えた、この戦いは危険だ・・・
ジョンハンの別荘は、欲望と権力にまみれた闇の要塞だ、そしてジョンハンに逆らえば自分達の音楽人生も危ういだろう、それでも力を取り戻すためなら、どんなリスクも冒す覚悟が今ここにいる四人には出来ていた
拓哉が一歩踏み出して声を低くして言った
「よし!力を助け出すぞ!」
「計画を練ろう!ジョンハンやイジュン達に気付かれない様に!」
「奴らの足元をすくってやるんだ!」
ブラックロックのメンバー達は、闇に閉ざされた力の行方を追い、危険な戦いへと突き進もうとしていた
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