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その車は、例えるとぼくの知っている限り大型の農耕車に見える。
土を耕すための末端部分に無数の鋼鉄の爪がある。ウルフガルテンに似ているものが、農耕車の後ろについていた。
農耕車の座席には、子供たちの腕や顔、胴体が無造作に転がっていた。
雨の中。カラスの鳴き声が一際激しくなった。
こちらに一台の軽トラックが、遥か向こうから走って来る音がした。
「歩君……」
羽良野先生はポリタンクを片手に、必死でぼくに合図をするかのように目配せをしながら、車を置いて近くのあばら屋に入った。
ぼくも身を隠すためにあばら屋へ走る。
あばら屋は藁や木材でできたこじんまりとした。江戸時代にタイムスリップしたかのようなボロボロになった小屋だった。
それらが、村の広場の周辺に集っている。
あばら屋の中は薄暗く。埃の臭いと腐臭の空気が漂って、すごい年季が入っているんじゃないかなと思えた。
200年も建ちっぱなしなのだろうあばら屋は、羽良野先生以外の気配がある。
ぼくは、身震いして悲しい歌を心の中で歌いだした。
ちょっと、口笛にしていたぼくは、相手を気遣っていたのだろうか?
悲しいだけじゃないんだね。
「歩君。ちょっと……静かに」
羽良野先生はポケットから取り出した何か大き目のものをゴクリと、飲むと。
重そうなポリタンクで気配の主を殴りに駆けだした。
バーンという音と共に、鈍い音が混じったその音を聞くと、ぼくは悲しい歌をくちづさむのを止めた。もう仕方がないんじゃないかな。
どんなに歌っても、悲しんでも。
歌っても、いっぱい悲しんでも。
薄暗い小屋の奥から、相手は前崩れに倒れ、ぴくぴくとは形容できない痙攣をしていた。
そこで、今度は羽良野先生は鉈のような形状のもので、相手の両手と両足を切断する作業に取り掛かった。
「羽良野先生……。可哀想だよ……すごく……」
「……仕方ないの。我慢して」
こっちに、ちらりと振り返った羽良野先生の顔は酷く醜い化け物だった。けれど、物凄い悲しそうな目をしていた。