「樹、早く! 飛行機出ちゃうよ」
「慌てなくても大丈夫だ。まだ時間はある」
私達は、空港の搭乗口にいる。
もうすぐ、日本を離れるために。
行先は――アメリカ。
樹が5年間暮らした場所。景色が綺麗だと聞いていたのもあって、すごく楽しみだった。
もうすぐ夏――
私は、少し前にカフェのバイトを辞め、樹もあの後しばらくしてISを辞めた。
柊君も、新しい仕事のパートナーを迎え入れ、さらに企業拡大に力を入れ、会社を世界一にするために新しい環境で走り出した。
確かに、柊君との別れは少し寂しかったけど、元気に頑張る柊君と、いつか必ず会える時がくると思うと、今はそれぞれに前に進む時だと思えた。
もちろん、樹もそうだ。
次に会う時まで、「お互いに頑張ろう」って、柊君と約束したみたいだった。
アメリカまでの飛行機の中、私は思い返していた。
『俺、アメリカに行く。だから…一緒に来てほしい。向こうでレストランをやりたいんだ。柚葉も手伝ってくれないか?』
突然の誘いに最初は驚いて戸惑った。
でも、樹の料理はどんなものも美味しくて、特にサンドイッチは絶品だった。
だから、樹ならきっと成功できる……
いつしか私は、樹を支えたいと思うようになっていた。
しばらく考え、私は返事をした。
「一緒にアメリカに連れてって」と。
『嬉しいよ、ありがとう……。じゃあ、もうひとつ』
『え?』
『柚葉……。俺と結婚してくれ。俺の奥さんになってほしい。お前がいないと、絶対にダメだから、俺は』
2度目のプロポーズ。
今度はちゃんと答えないとね……
『はい、よろしくお願いします。私も、樹がいないとダメだよ』
樹は、ニコッと笑って私を抱きしめた。
『愛してる、柚葉』
『私も愛してる』
そして、私達は、初めてキス以上のことをした。
優しく肌をつたう指、耳元に伝わる吐息、そして、時折激しく高鳴るあなたの鼓動を感じて。
私は、樹に抱かれてる幸せを感じた。
何度も唇を重ね、ずっと我慢していたお互いの感情をさらけ出した。
『もう、絶対離さない。お前は俺だけのものだ』
『樹……お願い、私を離さないで』
私達は、どうしようもないくらい求め合い、愛し合った。
「……ゆずは……柚葉」
「あっ」
飛行機の隣の席にいる樹に声をかけられて、思わず驚いた。樹に抱かれたことを思い出してたなんて、恥ずかしくて言えない。
しばらくのフライト。
私達は、ゆっくり時間を過ごした。
アメリカに着いたら、いろいろ大変だ。
レストランの準備は、樹が先に何度かアメリカに行って進めていた。
近くにマンションも借りてくれて。
一体、これからどうなるんだろう?
今はまだ何もわからない。
だけど……
不思議と、不安はほとんどなかった。