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その二日後、貴弘が、

「普段、ひとりで回す気なら、やっぱり、手際のよさが大事だろ」

と言い出したので。


八神や飲みに来ていた飯塚と一緒に、調理器具や皿の配置をキッチンで考えていると、突然、ぎゃーっという声がすでにあばら屋敷でないあばら屋敷の中に響いた。


急いで行ってみると、また呪いの部屋にイケメン様が降ってきている。


今度のイケメン様は茶髪でヘッドフォンをした今風の若者だった。


やはり、靴は履いていない。


「大丈夫ですか? イケメンさん」

とのどかは話しかけたが、制服姿の彼はヘッドフォンを外しながら、


「あ、はい。

えーと……。


俺、なんで此処に」

ときょとんとしている。


「あ、まあ、とりあえず、なにか飲み物でも」

と言いながら、のどかは訳がわからないといった様子のイケメンくんを庭が見渡せる窓際の席に連れていく。


「……なんすか、此処。

素敵じゃないですか」

とイケメンくんは庭を見て目を輝かせている。


庭の木や地面に、ランプを置いているので、相変わらず、夜だけは、幻想的な雰囲気に仕上がっているからだろう。


鬱蒼とした雑草が見えないからだな、とのどかは思う。


「此処、今度は、カフェになるんですよ」

と言いながら、のどかは、そっとショップカードを手渡し、


「改良型タンポポコーヒーです」

とチタンのカップを置いて、微笑んだ。


……はあ、となんだかわからないまま、イケメンくんはコーヒーを一口飲む。


カップの中を見つめて言った。


「あ、なんだろう。

コーヒーといえば、コーヒー、な感じなんだけど。


すっと飲みやすい」


「ありがとうございます。

前、薄すぎたみたいなんで、ちょっと濃いめにしてみたんですよね」

とのどかが微笑みかけると、イケメンくんは、ちょっと赤くなり、はあ、と相槌を打つ。


そして、

「っていうか、このカップもいいじゃないですか」

と言ってきた。


「うちにも似たのあるんですよ。

親父がハマってるんで、アウトドアグッズに」


うーむ。

やはり、男子には小洒落た陶器のカップより、こっちの方がいいようだ、とのどかは思った。


昨日、貴弘と八神が庭で小さな火を起こし、コーヒーを淹れて、また、このカップを使って飲んでいたので、ふと思いついて、店の備品にも買ってみたのだ。


「これで、庭にテントとかあって、そこで飲めたら最高ですねー」

と言うイケメンくんに、


「あ、いいですねー」

とのどかが笑うと、飯塚が、


「微妙に店のコンセプトが変わってってますよね……」

と苦笑いして呟く。


確かに。

素敵な古民家カフェのはずが、アウトドアカフェになりつつあった。


「でもまあ、雑草カフェだし、アウトドアとは相性がいいかもですね」

と飯塚が言うと、イケメンくんが、


「じゃあ、開店したら、アウトドア好きの男友だち連れてきますよ」

と言ってくれたのだが。


「はいはいはい。

じゃあ、宣伝にショップカード持って帰れ」

と八神が言い、貴弘が、ほら、とのどかが渡した一枚とは別に何枚かのカードを押し付ける。


「男じゃなくて、女子を誘えよ。

お前ひとりとか、男ばっかりで、この店には来るなよ」

と貴弘はよくわからないことを言いながら、イケメンくんを叩き出そうとした。


貴弘はのどかを振り返り、

「アウトドアカフェはやめろ。

野郎ばっかり来るから。


店の中、花とレースだらけにしろ」

と言ってくる。


飯塚が、

「……やめてください」

と青ざめた。


せっかく設計したシンプルな古民家がっ、と思ったようだった。


だが、そのとき、店の外で女の悲鳴が上がった。


……悲鳴。


いや、ちょっと嬉しそうな感じなんだが、と思って、のどかが外に出ると、何故か中原を肩に担いだ風子が、


「のどかっ。

外に傷ついたイケメンが倒れてたんだけどっ」

と浮かれた感じに言ってくる。


いや……、何故、嬉しそうなんだ?

と思ったが、どうも『傷ついたイケメン』というのが彼女の萌えポイントのようだった。


のどかは風子に担がれている中原の赤みを帯びた頬を見、

「……いや、それ、傷ついたイケメンじゃなくて、風邪をひいたイケメンでは」

と呟く。


中原は、普段なら、それってなんだーっと怒鳴り返してくるところなのだろうか、今は熱でぼんやりしているのか、なにも言ってはこなかった。


とりあえず、空いている部屋のベッドに運んでみる。



「中原さん、どうしたんですか。

風邪ひいて道に倒れてたって聞きましたけど」


のどかは喉が渇いたという中原に水を渡しながら、そう訊く。


もう遅いし、風子は、

「中原さんに、あんたが助けたってよく言っておくから」

と言って帰らせた。


イケメンくんが、

「お姉さん、僕、送っていきますよ」

と言ってくれたので、喜んで帰っていった。


その変わりように、

いや、傷ついたイケメンが傷ついたままなんだが、いいのか……とちょっと思いながら、見送ったのだが。


中原は少し迷うような顔をしたあとで、

「実は……。


いや、この屋敷の呪いの秘密を解こうかと。

どのポイントで此処へ飛ばされたのか調べていたんだ」

と言い出す。


「そうだったんですか、ありがとうございます」

とのどかは礼を言ったが、中原は何故か気まずげに目をそらしてしまった。


すると、

「本当か?」

とのどかの真後ろに居た貴弘は、腕を組み、中原を見下ろして訊く。


「本当はのどかのところに飛んできたいなと思ってたんじゃないのか」


いや、そんな莫迦な、と思って振り返るのどかの後ろで貴弘は、

「海崎だけじゃなくて、お前までのどかがいいのかっ。

こんな女の何処がいいんだっ」

と言い出した。


……おい。


「お前は、女子好みのいわゆる『クールなイケメン』とかいう奴だろうが。

幾らでもモテるだろうに、何故、こんな女を好きになるっ?」


中原さんを誉め殺しか、と思ったとき、

「待ってください、成瀬社長」

と少し薬が効いてきたらしい中原がハッキリとした口調で言ってきた。


「私やうちの社長は、胡桃沢に近づいちゃ駄目なのに、八神さんは一緒に住んでもいいのは何故ですか」


貴弘は横に居た八神を見、

「だって、こいつは別にのどかのことを好きじゃないだろう」

と言う。


そういえば、最近は八神と居ることに寛容だったが、そういう結論を出したからだったのか、とのどかは思ったが。


いきなり話を振られた八神は、ん? という顔をしたあとで、少し考え、

「いや――」

と言い出した。


「……いや?」

と貴弘が訊き返す。


「別に、熱烈に好きとかいうわけじゃないが。

そういえば、嫌いじゃないな。


顔は好みじゃないこともないし。

一緒に居て、落ち着くし。


言われてみれば、嫌いじゃないな。

むしろ好きなのかもな」

と自分で言っておいて、うん、そうか、好きなのかもな、と納得したように八神は頷く。


中原が、

「……どうして顔を覗けてもいなかった蛇を藪からつつき出すような真似をするんです」

と言い、


「いや、お前が八神の話を振ったからだろ」

と貴弘が呆然と呟いていた。


まあ、ともかく……と中原は咳払いをすると、

「私はこの屋敷の呪いを解こうとして、夜道をウロついていたんです。

決して、社長に抜け駆けして、此処に来ようとしたわけじゃない」

と不思議な主張を始める。


「でも……呪いを解くって言っても」

とのどかは側に立っていた泰親をチラと見た。


呪いを解いたら、泰親は消えてしまうのではないかと思っていたからだ。


だが、泰親は、

「いや、のどか。

私のことなら案ずるな」

と言い出す。


「呪いが消え。

その呪いを見守っていた私も消えても。


私は再び、この地に蘇ってくる――。


この地に。

いや、お前たちの側に」


「……泰親さん」


「必ず、蘇ってみせる!


――ミヌエットか、マンチカンとして!」


「……人間じゃなくてか」

と貴弘が言い、


「なにかいろいろ味をしめたようだな」

と八神が呟いていた。






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