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キャスターつきの玉座に座ったまま、王女が敵国の城下町を駆け抜ける。
ピンクのドレスは翻り、金髪縦ロールが風に舞う。
逃げてきた敵城から、背中をおしてくれそうな音楽が聞こえてきた。
運動会でお馴染みの『天国と地獄』だ。
「ザッポロ1番、電話は2番! 3時のおやつは、文明開化の音がしなぁーい!」
ニコニコ顔で歌いだしたピンクの王女は、玉座の上で立ち上がる。
ひじ掛けに足をのせ、両手をひろげる。
いまにも落ちそうな勢いだ。
というか、すでに玉座から投げ出されていた。
「王女いねぇし……」
力なく呟いたのは、玉座の動力源となるべく、日本から召喚された『ヒロシ』だ。
背もたれにしがみつくヒロシは、後方でダッシュを決め込む王女を視認した。
「すげぇ顔……。元が良いだけにもったいない」
時速121キロで追いかけてくる王女は、パンチのきいたプードル(パプードル)のようだった。
「顔で思い出した。保湿しとこう」
ヒロシは、液体の入った瓶をひじ掛けから取り出す。
ピタピタとお肌に水分を与えつつ、パプードル王女の様子をうかがう。
「やっと追いついたわ! “追突注意の看板”にぶつかって、くるのが遅くなりましたっ!」
王女は走る。
パンチ・かかと落とし・ドロップキックを使い分け、行く手を阻む障害物をぶち壊す。
たまに舌を噛んでいるせいか、ちょびっと涙目だ。
「いいから玉座に戻れって!」
「ガッテンです!」
ちょっこす飛んでみるでね! と発すると、王女は天高く舞い上がる。高度200メートル。
急降下したかと思えば、スッポリと玉座に収まった。
「ただいまっ! なんの話だったかしらね……恋バナナ?」
「修学旅行1日目の夜かな? それはいいとして、敵の兵隊さんが……」
前方には、先回りしていた敵兵たちの姿。
高そうな事務イスに座るのは隊長だろう。
イスごと移動しながら、魔導ミサイルで王女を狙い撃つ。
飛んできたミサイルを、王女は白刃取りの要領でキャッチした。
王女の額にブチ当たる、ミサイルの先っちょ。爆発しないで済んだらしい。
「敵国の民でも傷つけたくないわね」
半額シールを貼り、王女は被害が少なそうな場所に放り投げる。
「なんで半額?」
「店長おすすめシールを切らしているの!」
王族割引ってことで、ヒロシは納得した。
「王族に地面など必要ないわ。飛んでこそ玉座! 飛ばないイスなんて、具の入ってないお好み焼き同然ね。ビンボー飯の代表選手。“エコノミー焼き”なのよさぁ! おもちの入ってないうどん。非力うどんもあったわね! そうそう、喉におもちが詰まったら、頭をトォーンって__」
「決めの台詞、なげぇよ! はやく飛べ!」
2人をのせた玉座は、火花を散らしながら石畳の街道を滑空。
立ちふさがる敵兵たちを跳び越えた。
空中で回転する玉座は、まさに戦闘機。
敵が放った数発のミサイルを、王女は額のホクロから噴射したカレー汁で撃ち落とす。
爆ぜるミサイル。
ほとばしるカレー臭。
「なんで玉座のひじ掛けにテレビのリモコンが入ってんの? おじいちゃんの座椅子なの?」
「ピロシに訊きたいのだけれど、こどもは何人ほしい?」
「俺のはなし聞いてる?」
ヒロシは、自作の光る泥ダンゴ(ソフトタイプ)を敵兵に投げつける。
敵がケガをしないよう、やんわりと。
「玉座の出力が足りないの。もっと鼓動を高めなさい! 私のヒザに座りなさい。座るって英語で言うと、シャットダウン!」
「俺の人生、17年で幕を閉じるのかな?」
便器を搭載する玉座のポテンシャルを引き出すには、恋愛感情が必要だ。
人呼んで『エモーション・ドライブシステム』。
ヒロシが王女に恋愛感情を抱かないと、玉座はタダの便器自動車に成り下がってしまう。
「ヒザ枕をしてあげる。ピロシ、頭をのせなさい。私の頭にピザをのっけてもオッケーだぞっ!」
「いや、ムリだ。こんな状況でトキメクわけねーからッ!! で、なぜにピザ?」
「ダメかしら? じゃあ、ピッッツォォォー!」
「本場イタリアを超えたな!」
ヒロシには本物のお姫様抱っこ(お姫様に抱っこされている)を堪能する余裕がない。
「エモーション・ドゥラァァァイ、ブ?」
ターボ王女が叫ぶ。
疑問形で。
王女が、もうひとガンバリする。
「無鉛プレミアムぅ、王女パワぁーっちょ!」
加速を続ける玉座。
やがて、時速300キロを超えた。
吹き飛ぶ風景。
ついでに、“人っぽい何か”が、どえらい勢いで飛んでいった。
お姫様に抱っこされていたはずのヒロシの姿は、ない……。
かくして、大国の王女とフツーの高校生だったヒロシの逃避行がはじまる。