テラーノベル
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「……これ、カタログのバグじゃないよね?」
異次元と化した校庭のど真ん中に鎮座していたのは、乗り物という概念を物理法則ごと無視したシロモノだった。
商品名:『銀河鉄道の慣れ果て・オープンカー仕様』。
見た目はクラシックなオープンカーだが、タイヤの代わりに巨大な「クジラのヒレ」がついており、ボディは半透明の琥珀色。座席はすべて、あさまろの語彙を具現化したような「雲のクッション」でできている。
「おっ、これ最高じゃん! 免許なんて持ってないけど、心拍数で運転できるって書いてあるぜ!」
みやがわが真っ先に運転席へダイブする。彼がワクワクすればするほど、エンジンの代わりに積まれた「巨大な懐中時計」が激しく時を刻み始めた。
「待ちなさい! 数学的に言って、その加速度は私たちの三半規管を破壊するわよ!」
ままむが文句を言いながらも、一番ふかふかそうな後部座席をしっかり確保する。
「まあまあ。豆知識だけど、この車、燃料は『未消化の宿題』らしいぜ。りばー、お前のカバンの中身、全部タンクにぶち込め!」
えんどーがニヤリと笑い、りばーのリュックから白紙のプリントをひったくって燃料口へ投入した。
「ああっ、僕の思考の形跡が……! でも、これで加速するなら安い散財だ!」
りばーが助手席に乗り込み、ダッシュボードにある「非日常行き」のレバーを引き下げた。
「みんな、しっかり掴まっててね。ふわっと、宇宙の裏側まで行っちゃうよ」
あさまろが最後尾で長い手足を広げると、車体から虹色の火花が散り、5人を乗せたオープンカーは校庭を滑走……いや、空の境界線を突き抜けた。
彼らが向かったのは、現世の地図には載っていない**『日曜日の落とし物市』**。
そこには、世界中の人々が「忙しさ」ゆえに捨ててしまった、ワクワクするような夢や、変な空想が山のように積まれているという。
「さあ、次はどんな『ありえない』を買おうか?」
夕焼けを追い越し、星を蹴散らしながら、5人の笑い声が異次元の空に響き渡る。
彼らの散財は、もう誰にも、この世界の法則にさえも止められない。
「……え、嘘でしょ」
『日曜日の落とし物市』。その入り口に、パイプ椅子を並べてどっしりと座っていたのは、紛れもない**「志村(ままむ)の母親」**……に瓜二つの、巨大な貴婦人だった。
「ちょっと! お母さん!? なんでこんなところにいるのよ!」
ままむが身を乗り出して叫ぶが、番人の女性は手に持った巨大なハリセンで、飛んできたオープンカーをピタリと静止させた。
「あら、志村。あんた、またこんな爪楊枝みたいな男の子たちとフラフラして。宿題はどうしたの?」
番人の声は、空全体を震わせるほど重厚だった。
「……いや、あれはままむの母ちゃんじゃねえ。この世界の『良心』が具現化した、**中ボスの【マザー・シムラ】**だぜ」
えんどーが冷や汗を流しながら、株価チャートのように変動する番人の威圧感を解析する。
「良心? 最悪の敵じゃん! 僕たちの散財が全部否定される!」
りばーが絶望しかけたその時、あさまろがふわっと車を降りて、番人の前に立った。
「ねえ、お母さん……じゃなかった、番人さん。僕たち、宿題なら全部この車の燃料にしちゃったから、もう戻れないんだ」
あさまろは、長い腕で空を指差した。「その代わり、この市にある『誰かが捨てた夢』を買い取って、もっと面白い宿題を作ろうと思ってるんだけど……ダメかな?」
番人の目が、鋭く細められた。沈黙が5人を包む。
だが、番人はふっと口角を上げると、背後に隠していた**「巨大な買い物カゴ」**を差し出した。
「……いいわ。ただし、このカゴを『一生分のワクワク』でいっぱいにしなさい。一つでも退屈なものを入れたら、あんたたち全員、現世の『月曜日の朝』に強制送還よ」
「望むところだ!」
みやがわが叫び、5人は一斉にバザー会場へと駆け出した。
そこには、『一生終わらない夏休みの味』がするソーダや、『猫と会話できる翻訳機』、さらには**『自分の寿命を1分削る代わりに、1分間だけ勇者になれる剣』**など、現世では「無駄」と切り捨てられた極上の品々が並んでいた。
りばーは震える手で、一番奥の棚に置かれた、埃を被った**「古いゲームボーイのようなデバイス」**を手に取った。
ラベルには、ただ一言。
『【非売品】物語の「完」を消し去る消しゴム』
「これだ……。これがあれば、僕たちのこの物語は、永遠に終わらない」
りばーがその消しゴムをカゴに入れた瞬間、世界がまばゆい黄金色に弾け、番人のマザー・シムラは満足げに笑って消えていった。
5人の旅は、もう「連載終了」を恐れる必要はない。
カゴから溢れ出したワクワクが、新しい月曜日を、火曜日を、そして全ての日常を「非日常」に塗り替えていく。
りばーが震える手で「完」の文字を消しゴムでこすると、真っ白になった紙の上に、あさまろがふわっとした筆致で新しいタイトルを書き加えた。
『第一章:散財の果て、僕らは「世界」を買い取ることにした』
「……買い取るって、あんたね。国家予算どころの話じゃないわよ!」
ままむのツッコミが響く中、校庭のオープンカーが突如として巨大な「移動式司令部」へと変形を始めた。
車体からは無数のモニターが飛び出し、そこには現世のあらゆるマーケット、オークション、そして「あっち側」の闇市までがリアルタイムで映し出される。
「いいか、みんな。今まではバラバラに散財してたけど、これからは『共同投資』だ」
えんどーがキーボードを叩き、全校生徒の「ワクワクの残高」を一箇所に集約するプログラムを走らせた。
「俺の株知識と、りばーの目利き、ままむの計算、みやがわの機動力、そしてまろの『運』。これがあれば、この世界の『所有権』すら落札できる」
「所有権を買ってどうすんの?」
みやがわがハンドルを握り直す。
「決まってるじゃん。『毎日を日曜日の夜にする』とか、『数学の公式を全部ギャグに変える』とか……僕たちの都合のいいように書き換えるんだ」
りばーが不敵に笑う。
その時、司令部のメインモニターに、一通の黒い招待状が届いた。
差出人は——『現世の管理者』。
『警告:世界の買い取りを希望するお客様へ。最終オークション会場は「卒業式のあとの誰もいない体育館」です。競合他社は「大人になった君たち自身」です。』
「……未来の自分たちがライバル?」
あさまろが、少しだけ真面目な顔でモニターを見つめた。
「面白いわね。今の私たちの『無駄』を、未来の私たちが『正論』で叩き潰しに来るってわけね」
ままむが、母譲りの不敵な笑みを浮かべ、腕をまくった。
5人を乗せた司令部は、時空を歪めながら、最終決戦の地へと加速する。
そこは、非日常と日常が、そして「今」と「未来」が、一つの散財を巡って衝突する場所。
「行こう。僕たちが、僕たちであるために……一番高い買い物をしに!」
卒業式の夜、静まり返った体育館。
ステージの上には、古びた「学校のチャイムの押しボタン」がポツンと置かれていた。
『出品物:【一点物】「今」を止めるための、最後の一押し』
『価格:君たちの、これからの「輝かしい未来」すべて』
暗闇の中から現れたのは、スーツを着て、少し疲れた顔をした5人の大人たちだった。彼らは「未来の自分たち」であり、このオークションの競合他社だ。
「それを押しちゃダメだ、りばー」
大人のりばーが、落ち着いた声で諭す。
「そのボタンを押せば、非日常は永遠になる。でも、僕たちは『大人』になって、もっと大きな場所で、現実を面白くする力を手に入れたんだ。今の時間を買い占めるのは、もうやめろ」
「……うるさいわね、カイリキーの一撃を食らわすわよ」
女子高生のままむが、大人のままむ(やり手の会計士のような姿)を睨みつける。
「未来の力がなんだっての。私たちは今、この5人で、このバカげた散財を続けたいのよ!」
会場に張り詰める緊張感。
えんどーが、ポケットから最後の一枚の麻雀牌——「發」を取り出した。
「大人の自分たちに勝つ方法は一つだ。あいつらが持っていない『最強の無駄』を提示する」
えんどーの合図で、5人は一斉にボタンに向かって駆け出した。大人の自分たちが「正論」という名の壁で遮ろうとするが、あさまろがふわっとその壁をすり抜ける。
「ねえ、大人の僕たち。……これ、あげるよ。君たちが一番欲しくて、でももう買えないもの」
あさまろが差し出したのは、あの日、水没都市で手に入れた「5人の姿が映るアクスタ」と、これまでの冒険で使い古した「謎のガムのカス」だった。
それは、大人から見ればただのゴミだ。
しかし、大人の5人にとって、それは何兆円を積んでも買い戻せない「無実のワクワク」そのものだった。
大人のりばーが、そのガラクタを見て、ふっと目元を緩めた。
「……参ったな。そんなの出されたら、競り落とせるわけがない」
大人の自分たちが光の中に溶けて消えていく。
最後に、大人のりばーが微笑んで言った。
「いいよ。そのボタン、好きに使いな。……散財は、君たちの自由だ」
りばーは、みんなと顔を見合わせ、頷いた。
そして、そのボタンを思い切り押し込んだ。
リィィィィン……。
鳴り響いたのは、終わりのチャイムではなかった。
それは、新しい世界の「開店を告げるベル」の音だった。
体育館の壁が崩れ落ち、そこには現世と非日常が完全に融合した、見たこともない街が広がっていた。
5人は、もはや高校生でも、ただの大人でもない。
この新世界の「最初の住人」として、新しい一歩を踏み出した。
「さあ、開店セールだ! 何から買おうか?」
りばーがスマホを掲げると、そこには無限のリストが並んでいる。
5人の物語は、これからも「完」の文字を消しながら、永遠に書き足され続けていく。
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