テラーノベル
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星野さんの旦那さんといっしょに取った梅は山盛り。きれいな梅は梅干しと梅シロップにして、傷んでる梅は傷んだところ取って梅ジャムにするつもり。
星野さんの分の梅干しも作る予定だけど、それでも梅が余るから誰かにあげたいな。和束ハルと狭山先生とか? いや、あの2人は梅干しにしてからのほうが喜ぶかな。梅仕事しそうな人は……そうだ、雁ヶ音さん! 雁ヶ音さんは料理好きだから、生の梅持っていったほうが喜ぶかも。
雁ヶ音さんに『南高梅の完熟梅いりませんか?』と連絡すると「欲しいです!」とすぐ返事が来た。
「梅ダージリン作りたかったんですよ!」
『あっそれいいですね、うちでも作ろ。いつ持っていきましょうか?』
「明日土曜だからいつでも空いてます! どうせなら、お昼ご一緒しません? いろいろ作るんで」
『いいんですか!? ありがとうございます!』
そういうわけで土曜日、雁ヶ音さんちにお邪魔した。
『こんにちは! これ梅です』
「わーたくさん! ありがとうございます!」
奥に入れてもらって、そしたら雁ヶ音さんはたくさん料理を出してきてくれた。赤白緑のカプレーゼ、エンドウ豆の緑がきれいなポタージュ、旬のアジフライ、ハーブローストチキン。
「張り切っちゃいました」
『すごい! ごちそう!』
「お昼だけど、アルコールも行きます?」
『じゃ、ちょっともらいます』
よく冷えたスパークリングワインも開けて、2人で食べ始めた。ほとんどコース料理じゃん、どれもめちゃくちゃうまい。カプレーゼはキリッと冷えて、トマトの甘味とモッツァレラのミルキーさが合うし、ポタージュはエンドウ豆の風味が立ってるし、アジフライはサクサクジューシーだし。ローストチキンはローズマリーの香りが効いて、皮がパリパリでたまらない。
『おいしいー……最高……』
もぐもぐしながら言うと、雁ヶ音さんは苦笑した。
「作るのは楽しいんですけど、食べてくれる人があんまりいないんですよね」
『彼氏作るんじゃなかったんですか?』
「マッチングアプリ、料理好きって言うと割と釣れはするんですけど、それが私が料理振る舞いたい人かって言うとまた別なんですよね」
『料理だけ目当てとか?』
「それもだし、料理好きってだけですべての家事をやってくれる女だって勘違いされたりもするし」
『それは嫌ですね』
令和は、彼氏作るだけでも大変なんだな。和泉にも彼女作らせたいけど、それも大変なのかなあ。あ、そう言えば、雁ヶ音さんにも和泉の事相談してたし、筋としてどうなったか話そう。
デザートのコーヒーゼリーを食べながら、ワシは雁ヶ音さんに和泉とのことを話した。
『そう言うわけで、一度振ったんですけど、思い直して5年だけ恋人をやることにしました』
「でも、絶対5年じゃすまなくありません?」
『そうなんですよ! 和泉、好きな人ができるまで恋人でいてとか言うから、仕方ないなって言ったら、ワシほど好きになれる人はいないから一生だよとか言うんですよ!!』
「うーん、ガチ惚れ」
『5年ちょっきりで諦めさせるには、どうしたらいいですかねえ』
ワシがぼやくと、雁ヶ音さんは首を傾げた。
「うーん、5年経ったら嫌われることをするとか?」
『嫌われるのは……悲しいです』
和泉に嫌われるとか、想像もできない。ずっと優しくしてもらってきたから、大事にしてもらってきたから、和泉に嫌われたら、地面が崩れ落ちたような気持ちになると思う。
雁ヶ音さんは、ワシに聞いてきた。
「ちっちさんは、スプにゃんさんといて幸せなんですか?」
『幸せですけど……ワシじゃ和泉を幸せにしてあげられないから……』
「え、なんでです?」
きょとんとする雁ヶ音さん。そうだ、雁ヶ音さんにはワシの事情、あんまりちゃんと話してなかったな。
『ワシ、子供産めないんです。ワシ、ぱっと見女だけど、本当は男でも女でもなくて、孕むのも孕ますのもできないんです』
「え、そうなんですか!? えっ、てっきり女の子だと……」
『どっちでもないんです。ワシが子供産める女だったらよかったんですけど、ワシじゃ和泉に子供作ってやれないから、だから、和泉を幸せにしてやれないんです』
「それ、和泉さん知ってるんですか? 子供産めないって」
『知ってて、それでも好きだって言うんです』
「そうですか……」
雁ヶ音さんは驚きつつも頷いて、でもワシは言葉を止められなかった。
『でも、子供いなくても幸せなの絶対若いうちだけだと思うんです、年取ってから和泉に子供欲しかったなって思われたら、ワシを恋人にしなきゃ良かったなって思われたら、ワシ、死にたくなっちゃうと思う……』
「うーん、スプにゃんさんそんな人に見えませんけど、スプにゃんさんに自然にちっちさんから離れてほしいなら、スプにゃんさんが子供欲しいなって思ったタイミングで話を切り出すしかないんじゃないですか?」
『それは……そうかも……でも和泉があんまり年取りすぎた後だと、結婚してくれる人いなさそうで……』
雁ヶ音さんは、ワシに優しく言った。
「それに、子供いるだけが幸せじゃないですからね。スプにゃんさん、とっくに子供を持たない人生を描いてるんじゃないですか?」
『ワシのせいでですか?』
しょんぼりしながらそう言うと、雁ヶ音さんは「そういうの、自分のせいだと思っちゃいけませんよ」と優しく笑った。
「スプにゃんさんが勝手に好きになって、勝手に覚悟してるわけですから。ちっちさんのせいとかじゃありません」
『うーん……』
でも、ワシは和泉に子ども持ってほしいよ。あいつは、きっといい父ちゃんになるから。
とりあえず、和泉が子供欲しいなって思ったタイミングが恋人をやめるときか……5年ちょっきりで、そう思ってくれないかな……。
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コメント
1件
ああー、もうこのエピ泣けるわ…。最初は梅仕事と雁ヶ音さんのごちそう描写で「いいなあ、おいしそう」ってほっこりしてたのに、千歳の「子供産めない」って告白から一気に空気変わったよね。ワシも「ワシじゃ和泉を幸せにしてあげられない」って自己否定するところ、胸がギュッてなった。でも雁ヶ音さんの「子供いるだけが幸せじゃない」って言葉が優しくて、良い友達だなって思った。5年ちょっきりで和泉が子供欲しがるのを願う千歳、切なすぎる…😢