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Doors好きな主
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似たような怪談はこれまで何度も語られてきただろう。
それでも、これから書くのは紛れもなく私自身の体験である。
大学時代、坂本と共通の友人を交えた3人で遊びに出かけた日のことだ。
これといった目的があったわけではなく、街をぶらつきながら店を冷やかし、くだらない話をして1日を過ごした。
異変に遭遇したのは、その帰り道だった。
「なぁ。前から歩いてくる女の人、なんか様子が変じゃないか?」
最初に口を開いたのは私だった。
人通りの少ない並木道の向こうから、1人の女性がこちらへ歩いてくる。
俯きがちに顔を伏せ、足取りは妙に重い。まさに「とぼとぼ」という言葉が似合う歩き方で、特別目立つ服装をしているわけでもないのに、なぜか視線を引かれた。
「変だな」
すぐに坂本も同意する。
ところが、もう1人の友人が怪訝そうな顔をした。
「女の人って、どこにいるんだよ?」
その一言で、空気が変わった。
目の前には確かに女性がいて、私にも坂本にも視えている。
それなのに友人は、前方を見て首を傾げるばかりだった。
坂本が、私にだけ聞こえる声で呟く。
「こっち側の人間じゃないみたいだ」
背筋を冷たいものが這った。
もともと私には、坂本ほど強い霊感などない。
ただ、当時は彼と行動を共にすることが多かったため、一時的に妙なものを視たり、気配を感じたりすることが増えていた。
一方、隣にいる友人にはそうした感覚がまったくなく、オカルトそのものを苦手としている。余計なことを言えば怖がらせるだけだ。
「ごめん。見間違いだった」
咄嗟にそう誤魔化し、坂本も何も言わず話を合わせた。
私と坂本は女性から目を逸らし、何も視えていないふりをする。
事情を知らない友人だけが楽しそうに話し続けており、私達はその会話へ無理に相槌を打ちながら、近づいてくる存在を意識しないよう努めた。
足音は聴こえなかった。
それでも、距離だけは確実に縮まっている。
視界の端に、女性の輪郭が入った。
(もうすぐ、すれ違う……)
私は友人の話に集中するふりをしながら、身体が強張っていくのを感じていた。
そして女性が、坂本のすぐ横を通り過ぎる。
――何も起きなかった。
こちらを見ることもせず、手を伸ばしてくることもない。
ただ静かに、私達の横を通り過ぎていっただけだ。
内心では拍子抜けしながらも、それ以上に安堵していた。
怪談でありがちな展開にならなかったことが、素直にありがたい。
横目で坂本を見ると、まだ表情を硬くしていたが、私は深く考えないことにした。
やがていつもの雑談へ戻り、それぞれ帰路につき、その日はそれで終わるはずだった。
2人と別れて数分ほど経った頃に、不意に鳴り響く携帯電話。
画面に表示されているのは、つい先ほど別れたばかりの坂本の名前だ。
電話に出ると、挨拶もなく暗い声が返ってきた。
『近くの○○公園に来い』
それだけ言って、通話を切る坂本。
忘れ物でもしたのかと思ったが、3人とも手ぶらだったはずだ。
嫌な予感を覚えながらも、指定された公園へ向かった。
先に到着していた坂本は、私の姿を見るなり尋ねてくる。
「お前は視たんだよな?」
その一言で、来なければよかったと後悔した。
「視たよ。暗い感じの女の人だった」
わざわざ確認するということは、やはりあれは視えてはいけない存在だったのだろう。
そう考えた瞬間、腕に鳥肌が広がった。
坂本は少し考え込んだあと、今度は別のことを尋ねる。
「じゃあ、聴こえたか?」
意味がわからなかった。
あの時、私の耳に入っていたのは、何も知らない友人が楽しそうに話す声くらいである。
「いや、何も」
「そっか。距離の違いか、霊感の違いか……」
距離。
その言葉で、3人の並びを思い出した。
左から友人、私、坂本。
そして、あの女性が通り過ぎたのは坂本のすぐ横だった。
「あんまり聞きたくないけどさ……」
意を決して口を開くと、坂本はその先を遮った。
「通り過ぎる時、喋ったんだよ。あいつ」
喉が鳴った。
自分が唾を飲み込んだ音なのに、やけに大きく感じる。
「……何て?」
坂本は、こちらの反応を窺うように一度黙った。
それから女性の声を真似るように、わずかに高い声で言う。
「『あなた達、視えてるんでしょ?』ってな」
その瞬間、ようやくわかった。
私達は、あの女性に気づかれないよう必死になっていた。
視線を逸らし、何も視えていないふりをして、ただ通り過ぎてくれることだけを願っていたのである。
けれど、最初から全部、気づかれていたのだ。