「聖十字連合神聖国…?」
大臣の誰かが、聖奈さんが伝えたことを反芻した。
「はい。聖十字連合神聖国は魔族…この国の傀儡ですよね?」
「言い方…」
魔族の誰かが聖奈さんを咎めようとしたが、自分に矛先が向くのを恐れたのか、その声は酷く小さなものだった。
わかるよ。
「傀儡と言われるのは心外だが、否定もできぬ」
「それは始皇帝の三上さんのアイデアですよね?」
前に聞いた話によると、神聖国が出来たのは三上さんの死後のはず。
三上さんは皇国がいずれ困るだろうことをいくつか想定し、その為の策を後世に遺したそうだ。
時の皇帝はそのいくつかを困る前に実行した。
困ってからでは間に合わないものも沢山あり、神聖国もその中の一つだったのだろう。
人の寿命は短い。
案や策があっても三上さんの寿命では全てを実行できなかったのだろう。
それでも一から国を作った彼女の今世も、人の為に生きた前世もどちらも尊敬に値する。
俺なら両方とも呑んだくれる為に使いそう……実際そうだし。
「では、その始皇帝の策をお借りして、この問題を解決しましょう」
聖奈さんは楽しそうに話すが…皇帝と魔族達は一回りは老けたな……
あっ。皇太子だけは楽しそうだ。
変わった子だな…最初からだけど。
聖奈さんの提案は簡単なものだった。
元々神聖国は始皇帝が争いの多い隣国のを監視する目的で発案したもの。
それを利用する。
「三国同盟?」
「はい。実は三国同盟は初めてではないのですぐに思いつきました」
あの戦争の経験が生きた案だったのか。
「ただ前回…バーランド王国建国に纏わるモノとは違い、今回は神聖国に全てを委ねます。形上だけですが」
前回のエンガード王国・ナターリア王国・ハンキッシュ皇国の三国同盟の時は、新生バーランド王国に全て事後処理を委ねた。
その代わり建国を認められて、戦後多くの人の命を助けることに繋がった。
もし、俺たちが関与せずに三国同盟が成し得たとして、さらにシューメイル帝国に勝てたとしても、戦後処理や戦後の混乱により多くの命が失われ、最悪は元帝国領が混沌とした無法地帯となっていたことだろう。
俺は仲間や周りの事以外あまり考えていなかったけど、聖奈さんは無関係に近い人達が困ることの方が嫌だったみたいだ。
『だって私が帝国民だったら、何もしてないし何も知らないのにいきなり全てを奪われるんだよ?そんな理不尽許せないもん』
俺は仲間や身内、知り合いが幸せなら……
『わかってるよ。私に足りないモノはセイくんが補ってくれるから。だから私は遠慮なく自分のしたいことを考えられるの。
セイくんがいなかったら、知らず知らずのうちに私は仲間を都合よく使ってただけだったよ。そんなの仲間って言えないよね?』
聖奈さんに言わせれば為政者として二人で一人前らしい。
俺は10人前くらい酒飲んでるだけだけどなっ!!
今回の案は、簡単に言えば神聖国に対して二国で援助しようということ。
もちろんタダではない。
アーメッド共王国にとって小国は争い続けてほしいのだから、それ以上のモノを提示できるのかが、今回のカギとなる。
「しかし…それではアーメッド共王国にとってメリットが少ないのではないか?」
「はい。ですので、逆に三国同盟に従わないデメリットを強調しようと思います」
脅しだな!悪魔の得意分野だな!!
「セイくん。何か良からぬことを考えてないかな?」
「い、いえ。こういう場面の聖奈は普段と違い、凛々しくて美人だな…と……」
ミラン。倒れるから裾を引っ張るのはやめなさい。
後で高い高いしてあげるから。
「はははっ。武王と名高いセイも、妻の前では形無しであるな!して、その案とは?」
笑えよ…これでも付き合ってもいないんだぜ?
「まずは参加しないのであればジャパーニアからの輸出を止める」
「ま、待ってくだされ!それで断られては我が国の財政が…」
聖奈さんの案に大臣の一人が待ったをかけた。
恐らく財務大臣かな?
「大丈夫です。その分はセイの所有する商会で買い取らせてもらいますので」
「そ、そんなことが可能なので?」
買うだけなら金さえあればいい。
しかし、この大臣が聞いてるのはそんなことではなく、輸送の話だろう。
皇帝は知ってるけど、大臣は俺が転移できることを知らんもんな。
「それは余が保証しよう」
「ヘ、カイゼルが仰るのであれば…」
「続きを話しても?」
「頼む」
「まずは…」
その後の話は止められることもなく終わった。
なんだかんだ言って、弱肉強食が一番気に入らないのは聖奈さんだもんな。
次いでミランかな。
俺は自分が出来ることはしてあげたいけど、無理なもんは無理って考えだし。
長い目で見ればその時強いモノが全てを手に入れるのは必然だと思うし、歴史なんてそんなもんだし。
俺は目の前で困ってる人をその時助けられる力があるなら助ける程度のエセ聖人なんだよなぁ。
さて、聖奈さんの話も済んだし後は実行するだけだな!
そう!俺の出番だ!!
その日の内に俺の魔法でアーメッド共王国と神聖国に連絡を取り、三国同盟の話をする為の日時と場所を伝えた。
そして2ヶ月後。
ついにその日がやってきた。
その間なにしてたんだって?
俺は地球の会社の仕事と貿易をこなして、聖奈さんはバーランド王国の政務に励んでいたよ。
ライル以外のみんなには普通に過ごしてもらって、ライルには悪いが帝国の監視を頼んでいた。
もちろんマリンに悪いから、二日に一度は迎えに行っていたけど。
「凄い河だね!!異世界でも地球でも見たことがないよ!」
場所はアーメッド共王国と小国家群の国境である、小国側の河川敷だ。
ジャパーニア側は船で海からやってきた。
船は驚いたことに鉄で出来ていた。
正確には木造船に薄い鉄板を貼り付けてあるのだろうけど、それでも凄い。
南東部では製鉄が盛んだと聞いていたけど、ジャパーニアも優れているじゃないか。
恐らくこういうことに不慣れな三上さんだが、想像である程度の案を遺していたんだろうな。
船の動力は魔族による魔法らしい。
船に鉄板を貼り付けることにより、沿岸部に生息する海の魔物から船を守れる様だ。
アーメッドにこの技術はないらしく、アーメッド共王国の港に来る外国船はジャパーニアのモノだけであり、外国に出港する船もジャパーニア船のみとのこと。
ちなみに外洋にはこの船でも出られない。
海の魔物こえー。
「来ました」
河を眺めていたミランから声が上がった。
ついに三国が顔を合わせることになるのだ。
正確には神聖国は皇国の属国の様なモノだけどな。
「初めてお目にかかる。余はアーメッド共王国国王ブリリアント3世である」
今日は天気が良い。
よって、三国会談は晴天の下で行われた。
この方が見ている方も話の内容は聞こえないにしても安心だからな。
折り畳みの椅子やテーブルは俺がセッティングしてあげた。
四次元ポケットがあるからな!お安い御用よ!
三カ国の挨拶が済み、いよいよ俺の番だ。
「見届け人のバーランド王国国王セイだ。 二人とも知らない仲ではない為、俺が証人となる。異論ないな?」
「是非もない」
「了承した」
ま、俺というか聖奈さんがこの場にいる理由付けなんだけどな。
両国の決定権を持つモノが集まったことにより、話はとんとん拍子にすすんだ。
えっ?神聖国?皇帝に右に倣えだったからモノの数にはいれてないよ?
「ジャパーニア皇帝はそれで良いのか?」
「小国もいずれ纏まる。その時に慌てるよりは、お互い備えている状況での併合が望ましいと思わないか?
バーランド国王という傑物がいる機会を逃すのが悪手であるのは、理解したことであろう?」
どうやら話の決め手は俺のようだ。
こうすれば脅して話を進めるより将来に遺恨が残らない可能性が高い。
いざとなればこの話を持ってきたバーランドを敵視すればいいし、ウチとしてもこれだけ離れていれば敵視されてもどうもならん。
両国にとっても無駄だしな。
しかし、俺には転移魔法がある。
だからこそ、この会議の見届け人としての価値が高いのだ。
バーランドにとっては利益はない。
しかし、約束を守らなければ俺が飛んできて、最悪は片側の国に肩入れしてしまう。
これは受けざるを得ないだろう。
皇国がおかしな動きをした場合は斬り捨てるんだよと、聖奈さんからも口を酸っぱくして言われてきた。
皇帝にもその旨を伝えて大分脅しておいたから、むこう50年くらいは約束を守ってくれるだろう。
俺が死んだ後はしらん。
その時代を生きる人達で頑張ってくれ。
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