テラーノベル
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初陣は、正直地獄だった。
中尉と宮部さんの機についていくのが精一杯だった。
戦闘をし終え、帰還する。
滑走路が見えた頃、緊張の糸がぶちり、と勢いよく音をたてて切れた音がした。
ガクガクと震える膝を必死に押さえつけながら、僕はどうにか零戦を滑走路へと着陸させた。
風防を開けた瞬間、どっと流れ込んできた南洋の熱気が、全身の冷や汗をさらに引き立たせる。
コックピットから這い出た僕は、整備員たちに支えられるようにして、どうにか地面に足を下ろした。
その場にへたり込んでしまいたいほど、全身の体力が消え失せている。
「いやあ、見事でした、速中少尉殿!」
駆け寄ってきた整備兵たちが、なぜか興奮した様子で僕の肩を叩いた。
「初陣でいきなり一機撃墜なんて、兵学校出の秀才はやっぱり格が違いますね!」
「あの絶妙なタイミングでの待ち伏せ射撃、しびれましたよ!」
「え? いや、僕は……」
違う。狙ったんじゃない。
ただ怖くて目を瞑って引き金を引いたら、相手が勝手に突っ込んできただけだ。
弁解しようと口を開きかけた時、
「ははは!」
と豪快な笑い声が降ってきた。
「おいおい、速中。お前、とんでもない大物だな」
飛行帽を脱ぎながら歩み寄ってきた笹井中尉が、呆れたような、けれど底抜けに面白そうな顔で僕を見下ろしていた。
「後ろから見ていて肝が冷えたぞ。編隊から遅れそうになったかと思えば、突っ込んできた敵機に向かって、がむしゃらに20ミリを乱射し始めるんだからな。しかも、それを一連射で綺麗に喰うんだから恐れ入った」
「笹井中尉……。僕は、本当に必死で……」
「分かっているさ。お前、あの時『わあああ!』って叫んでただろ。伝声管から丸聞こえだったぞ」
「うぐっ……!」
顔がカッと赤くなる。
その時、僕たちの後ろから、宮部一飛曹がいつも通りの丁寧なお辞儀をしながら近づいてきた。
「速中少尉殿、ご無事で何よりです。初陣での撃墜、お見事でした」
「あ、宮部さん……。やっぱり、あんな撃ち方は邪道ですよね」
周囲に大物扱いされて身の置き所がなかった僕は、昨夜のあの冷徹な言葉を思い出し、宮部ならきっと厳しく諭してくれるだろうと縋るような目を向けた。
しかし、宮部一飛曹はひどく大真面目な顔で、静かに首を振った。
「いえ、素晴らしい判断です。ビビってがむしゃらに撃ったとおっしゃいますが、あの極限状態の恐怖の中で、敵の動線に弾幕を張って自ら飛び込ませるなど、並の搭乗員にできることではありません。やはり、生き残るための本能的なセンスがずば抜けていらっしゃる」
「……はい?」
「これなら、私の後ろを飛ばせても安心です。あの調子で、私の後ろに近づく敵をどんどん撃退してください」
「嫌ですよ! 狙って撃ったんじゃないって言ってるじゃないですか!」
僕の必死の抗議も虚しく、宮部一飛曹は
「さすが兵学校を一年半で出た天才は謙虚ですね」
と、本気で感心したように深く頷いている。
こうして、僕の「恐怖の乱射」は、宮部久蔵という天才の超解釈によって、『敵の動きを完全に予期した、冷徹な待ち伏せ射撃』へと美しく変換されてしまった。
その日の夜、この話は坂井一飛曹や太田一飛曹たちの耳にも入り、食堂は大爆笑に包まれた。
「なんだ速中、お前、叫びながら敵を落としたんだって?」
「さすが軍人一家の三男坊だ、気合いが違うな!」
「違います、本当にただの偶然で……!」
いくら否定しても、ベテランたちは
「まぁ、落とした奴が一番偉いんだよ」
と、ヤシ酒を片手に面白がって僕の肩を組んでくる。
十六歳の僕の初陣は、こうしてラバウル航空隊の格好の「語り草」として、賑やかに刻まれることになったのだった。
コメント
3件
わあ、初陣の緊張感がひしひしと伝わってきました……! それなのに、まさか「わあああ!」って叫びながら撃ったのが、周りにはカッコいい待ち伏せ射撃に変換されちゃうなんて(笑)。宮部さんの超解釈が面白すぎて、思わず笑っちゃいました。主人公の「違うんです!」って必死に否定する姿に愛着が湧きます。ベテランたちにからかわれながらも温かく迎えられる空気が、読んでいてほっこりしました。次も楽しみにしてますね🌷
#学パロ?
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ユイ
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