『みんなと仲良く?』
「うん。」
俺の言葉を反復したトラゾーに、俺は返事をした。意味を理解できないトラゾーは『今も仲良いだろ?』と聞いてくる。
けど、俺はよく知ってる。歌っていうものは自分をリラックスさせてくれる。楽しくさせてくれる。ワクワクさせてくれる。そして…みんなで楽しく歌った方が、心が一つになるってことも。
歌が好きな俺だからこそ、よく知ってる。
そう説明すると、トラゾーは喜んだような、嬉しいような声で返事をした。
『そっか。じゃあ俺は応援してるぞ!』
「おう。お前に俺らの歌を届けてやるよ!!」
トラゾーとは、笑って通話を切った。
……………
「…っふー……。」
大きく息を吸って、リラックスさせる。そしてヘッドホンをつけて、俺は歌の練習をした。
今は2022年______1月1月だった。公開まで約2ヶ月前。イラストも依頼して描かれている途中で、作曲も作詞も出来上がっていた。
あとの問題は_______クラリネットだった。クロノアさんはクラリネットを買い直したらしく、今は練習中。
けれど…買い直したと連絡を受けた日から、音信不通だ。何を連絡しようが既読無視か未読無視の2つ。でも最近は未読無視が増え続けている。
「……っくそ!」
2ヶ月前にしてこれはやばいと感じた俺は寒空の下、厚着のジャンパーを着てしにがみに電話をかけた。
「しにがみ!」
喋るたびに、息を吐くたびに俺の息が白くなっては消えていく。手は冷たくなって、スマホすら持つのも嫌だと思うほどだった。
それでも、やっぱり心友の声を聞いたら心も体もポカポカした。
『え、な、なんか走ってます…?』
困惑した声と共に聞こえたしにがみの音声は涙が出てきそうなほど安心した。けれど、俺は一言だけ告げた。
「クロノアさんの安否確認しよう!だから、待っててくれ!!!」
…………………………
クラリネットから綺麗な音が出ている。
切なくて、悲しくて、響いていて、つい泣きたくなるようなそんな音色。
「違う…」
1人暗い部屋でそう呟いた。
俺が求めているのは明るくて楽しい音。それが日常組なのだから当たり前だ。でも、楽譜を暗譜しようが、何回練習しようが、楽しげな音色になることはなかった。
「くそぉ……」
ブーッと通知音がスマホから聞こえる。そういえば数日前からスマホなんか見ずに永遠とクラリネットを練習しているような気がする。けれど、今はそんなことに構っている暇はなかった。一刻も早く楽しげな音色を、日常組の音色を弾かなければならないのだから。
何回も全部通して、特にダメなところを直して、また全部通して、またダメなところを……。
「っ……あー、やべぇなぁ…。」
涙が溢れ落ちそうになった。いくら弾こうが楽しげな音色にはならなくて…。
才能がないのかもしれない。無駄なのかもしれない。もう諦めるしかないのかもしれない。この選択は間違えていたのかもしれない。俺には向いていないのかもしれない。
そんないくつもの考えが、頭をよぎる。その度に自分という人間が小さく見えて仕方がなかった。
(楽しい音って……どんな音だっけ?)
数日間聞いていない真友の楽しそうな声が、聞きたかった。
コメント
4件
投稿感謝です〜!✨ 二酸化炭素さんの作品は やっぱり神✨
とりあえずめっっちゃ♡押しておきました。神です!ありがとうございます!😭