「……ずっと好きだったよ。かえるくん」
放課後の夕暮れ。俺は初めて、他人に告白をした。冷静を装っているけれど、本当は心臓がバクハツしそうだ。かえるくんは目を見開き、少し頬を染めたまま、黙ってしまった。
俺は知っている。この告白は、きっと失敗する。だって、かえるくんは、とーますくんのことが好きだから。かえるくんがとーますくんと一緒にいるときのあの表情。誰よりも、楽しそうで幸せそうな、あの顔。憎いほどに美しい笑顔。俺には――届かない。
かえるくんの返答を、ただエメラルドのように輝く瞳を見つめて待つ。十数秒の沈黙を貫き、一つの深呼吸を済ませたかえるくんは、静かに答えた。
「そっか。のじゃは、俺の事好きだったんだ」
「うん。好きだったよ。出会ったころから」
あの日、サッカー部で出会ってから、思えば好きだった。正直恋なんて小学生ぶりだし、自覚するまで多少時間がかかってしまった。そして、かえるくんがとーますくんのことを好きなことは、恋を自覚する前に、知ってしまった。……もしかしたらそのせいで知っちゃったのかもね。この恋心を。
この告白は、邪魔な感情を取り除くためのものだった。このままもし、かえるととーますくんが付き合ったら、この気持ちのやりようがないから。自分勝手に、不器用な言葉で伝えた。後悔はない。これでいいんだ。これで。かえるくんにはとーますくんがお似合いなんだ。
そうやって決別しようと思ったのに。かえるは、有り得ないことを言い始めた。
「ねぇ、のじゃ。俺たちさ、付き合おうよ」
「……は?」
初めは、テンションがおかしくなっているのだろうと思った。彼は時折半端じゃないほどおかしくなるから。けれど、告白した瞬間とか、今日一日中そんな様子は感じられなかったし、きっとおかしくなったのではないのだと思う。じゃあ、なんで。なんでなんでなんで。何を考えているのかが分からない。少し、コイツが怖い。
「なに、言って……?」
「え? のじゃ、俺の事が好きなんでしょ?」
違う。そういうことじゃない。
「かえるは、とーますくんのことが――」
「いやっ……そんなこと、ないよ」
一瞬震えた声を、俺は見逃さなかった。……なんで、その感情に蓋をしたのだろう。お願いだから、その蓋を開けてください。そう願っても、口から出ない。このまま蓋をさせてれば――俺は、かえると付き合える。
「この後、時間ある?」
「あるけど……」
「じゃあさ、ファミレスかどっか行こうよ。俺らの、初めてのデートしよ」
そう言って俺に手を差し伸べるかえるくん。俺はそれに応えた。応えて、しまった。それはつまり俺はかえるくんの恋心に蓋をした張本人というわけで。俺はしなかったくせに、あまりに思考がクズ過ぎるな、俺。こんな俺を嘲笑してしまう。……こんな形で恋が成就するなんて、あまりに残酷すぎて、逃げ出したくなる。
最初から最後まで自分勝手な俺は、かえるに引っ張られる形で共に歩き出した。