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口ごもっていると、佐々木先輩も箸を止めて様子を見に来てくれた。やっぱり優しい。
祐希「…し、資料作成の件、いつ時間空いてますか。」
俺が口篭りに言葉を発すると、声を上げるのも面倒くさいという風に言葉を発する伯木先輩。
翔「あー、いつでもいーよ。」
祐希「…じゃあ、明日とか空いてますか?」
翔「その時の気分次第〜。」
楓「翔。」
翔「…あー、わかったよ、明日ね明日。」
祐希「…はあ…ありがとうございます。それじゃあ、明日生徒会室で待ってます。」
翔「はーい。」
伯木先輩は無関心そうに手をヒラヒラとさせながら席に戻っていく。すると佐々木先輩が申し訳なさそうにこちらを見ながら言う。
楓「ごめんね、相場くん。約束とか破らないし、ほんとに悪い人じゃないんだけど…。」
祐希「えっ、だ、大丈夫です!気にしてないです。」
楓「そう?一応明日は俺も生徒会室まで着いていくから、安心して待っててね。」
祐希「あ、ありがとう…ございます。」
やっぱり、やっぱり超いい人だ。俺も見習おう。
翌日の放課後、前日と同じように友達と別れ、鍵を持って生徒会室へ向かう。鍵を開け中に入ると、一人でホッチキスの準備や書類整理をしながら先輩たちが来るまで準備をしていた。
無言で作業していると、ガラガラッと教室の扉が開く音がして、そちらに目を向ける。
楓「遅くなっちゃってごめんね、待った?」
祐希「いえ、全然!」
楓「…そう?でも、書類整理ありがとうね。」
佐々木先輩はにこやかに言う。
楓「それで、翔連れてきたから、あとはお願いしてもいいかな?」
祐希「はい、ありがとうございます!」
任せてくださいとサインを送ると、佐々木先輩は安心したような表情で別れの言葉を述べて去っていった。
祐希「…えっと…。」
翔「…しゃーねぇ、やるかー。」
伯木先輩は溜息をつきながら書類とホッチキスに手をつける。
祐希「あっ、その書類まとめて留めるやつと、あと資料5が載ってるページは別で…。」
翔「えー、めんどくさ。もう適当に全部留めればよくね?」
祐希「…。」
翔「…わかったってば、そんな目で見んなよ。」
一通り説明してからは二人黙々と作業する。何時間経過したのかわからないが、ホッチキス留めはあまり進んでいなかった。
沈黙の中で、伯木先輩が声を上げる。
翔「なあ。」
突然のことにビクッとして、伯木先輩の方に様子見程度で目を向ける。
祐希「…はい。」
翔「…趣味とかあんの?」
祐希「…趣味、ですか?」
急に?とも思ったが、確かにこの雰囲気を破るには話題が必要だ。
祐希「……………勉強?」
翔「…ん?」
祐希「勉強です。」
翔「……………勉強?」
後の沈黙の間、俺の頭にはぐるぐると思考が渦巻いていた。
祐希(え、変なこと言った?もしかして趣味勉強は変?)
趣味といったら、なにがある?囲碁?散歩?
そう考えている間に、伯木先輩がまた、今度は少し落ち着いたトーンで話し始めた。
翔「変わってんね。」
祐希「そ、そうですか。」
…。
気まずい、俺は何を間違えただろうか。このままだとまずい、生徒会ライフが崩れるなんて耐えられない。そう思って声を上げる。
祐希「…あの!」
翔「うお、なに。びっくりした。」
失敗した。元気に話しかけようと思ったのに、驚かせてしまった。
祐希「あ、いや…その…、すみません。伯木先輩の趣味はなんですか。」
翔「俺の趣味?ん〜、女の子と遊ぶことかなー。」
祐希「………へぇ。」
翔「何か言ってよ、冗談だって。その遠い目やめてくれる?」
翔「てか、他人の恋愛話とか気にしないタイプかと思ってた。恋愛とか興味あんの、きみ?」
いきなり予想外の質問を投げられて、慌てて返球を考える。
祐希「…“興味”って、なんですか。」
翔「いや、そのまんま。気になる人がいるとか、付き合ってる人がいるかとか。」
祐希「…付き合うって、よくわかんないです。なんのためにするんですか?」
我ながら無神経な質問だったと思うが、伯木先輩は苦笑いで言葉を返してくる。
翔「なんのためって…好きだからとか、そういう…雰囲気のためじゃねぇの?」
祐希「“雰囲気”。曖昧ですね。先輩はそういう感情で女性と交際したことはあるんですか?」
正直、この人になら何を言ってもいいと思った。女の子たちを散々たぶらかしてきただろうし、言っても心が軽かったのがその証拠だ。
翔「ん〜?俺はないけどー、本命の子見つけんのは歳とってからでいいかな〜。」
祐希「…好きじゃない彼女さんはいるってことですか?」
翔「うん。」
祐希「…。」
信じられない、こんな人が身近にいたなんて。しかしまあ先輩との会話を途切れさせてはいけない(普通に気まずい)ので、慌てて頭の中で考えをめぐせらせる。
祐希「…俺は。」