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私と死神

2 - 第2話 死神

2023年09月09日

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〔死神〕と名乗るものの姿は見えなかった。でも、そこにいるのはわかった。私はついに狂ってしまったのだろうか。いや、もうそれすらどうでもよかった。

「うん。それ、使いなよ。楽になるよ?」

私の手にはいつの間にかカッターが握られていた。驚いた。私の部屋、いや、私の家に普段使わないカッターがあることすら知らなかった。違う、忘れていた。忘れようとしていた。よく見るとそれは小学校の時に図画工作の時間のために買ったものだった。

「まだ、残ってたんだ。捨ててなかったんだ…。」

小学校の楽しい、温かい記憶が胸に溢れ出る。思い出すと辛くなるからと無意識のうちに避けていた思い出。そんな思い出が、まるで形になったかのような結晶が私の瞳を、頬を、唇をそして、カッターとカッターを持っている右手を塩気のある水となって濡らした。

「それで、腕を切ってみなよ。楽に、なれるよ?」

「楽に…」

「ほら、こうやって」

自分のが意識してやっているのか無意識でやっているのかそれすらわからない。

右手首に、冷たく鋭いものが当たる。

私の胸は恐怖でいっぱいになった。自分で自分を傷つける恐怖。下手をすると、死ぬかもしれない恐怖。この、勉強しかしないせいで、嫌でも白くなっていく腕を紅に染めることに対する恐怖。今までの全てどうでもいいという思いも、溢れて出てきた楽しくて温かい思い出も嘘のように消え、それを遥かに超える恐怖に襲われた。

「いやっ!」

気がつくと私はカッターを床に投げていた。私の肌は白いままだ。

「切らないの?」

「なんなのあなた!?」

ここに親が居たら、大変なことになっていただろう。幸い今日は日曜日で父と母は共通の趣味であるゴルフに行っていた。

「何って、死神。あなたの死を望む存在。アニメとか漫画が好きなあなたならわかるんじゃない?」

死神。

アニメや漫画、ゲームなんかでもでよく出てくる、屍人の魂を連れてゆく存在。または、魂を狩る存在。私の中での死神はそれだ。おそらくこの死神も私の魂を獲りに来たのだろう。

「私、死ぬの?自殺?」

「カッターで手首もきれないイクジナシちゃんが何言ってるの。」

笑われた。確かにそうだ。死にたいと思ったくせに、手首を切る、俗にいうリスカもできない私が、自殺なんてできるわけない。

「じゃあ、なんで?」

「私はあなたの専属死神みたいなものだから。気にしないで。」

気にならないわけがない。

「私に何をして欲しいの?」

「死神にそれを聞く?死んで欲しいの。あなたに。」

やっぱりか。

「あなたは、私を殺す?」

「殺さないよ。死神は人を、あなたを直接殺せない。」

「私が死ぬまで、あなたは居るの?」

「うん。正確には、あなたが死ぬか、死ななくていいと思うようになるまで、かな。」

私が死ぬか、死ななくていいと思うようになるまで、か。どちらも近いようで遠い。イクジナシの私が簡単に死ねるわけないし、かと言って死にたいと思わないようになるにはこの中学をいや、高校を卒業するまでないかもしれない。

「それで、なんで切らなかったの?」

「…怖いから。悪い?」

「スパッ!とやりなよ。気持ちが晴れるよ。」

「うるさい。」

「悲しいなぁ。」

「宿題やるから、黙ってて。」

「…また来るね。」

もう来なくていい。いや、来ないで欲しい。なんだか、あの死神の前では調子が狂ってしまう。頭が回らなくなる。いや、死神が目の前にいるかもしれないのだから、それが普通なのか。

それから、数日が過ぎた。また、死にたくなった。

「ほら、ヤりなよ。楽になるよ。」

あの声が聞こえた。

変に明るくどこか懐かしさを覚える声。幼い少女のような声。聞いていて心地よいとさえ思う、鈴を転がしたような声。そして、おそらく、私の死を願う声。

「また来たの?」

「また来るねって言ったじゃん。」

確かに言った。あれは私の気が狂った幻聴なのだと思った。しかし、そうなると知らぬ間に握っていたカッターはなんだったのか。それが説明できない。

「ほら、ヤっちゃいなよ。このままは辛いだけだよ。」

「わかってる。ヤるよ。」

冷たく鋭いものを左手首に当てる。

あの時の、初めて左手首に当てた時の恐怖がまた胸を満たす。

「はぁ、はぁ。」

激しい動悸が襲いかかる。

「ほーら。」

このままやれば痛いだろう。でも、楽になれる気がする。母と父は買い物に行っている。今のうちに、今のうちに。そう思いながら何分いや、もしかすると何十分も経っていたのかもしれない。

「ただいまぁ。」

母の声が聞こえた。

「あ、おかえり!」

急いでカッターを隠す。家は小さく一階建てだ。それに、私の部屋は玄関の真っ正面にあり、部屋の一部はすぐに見えてしまう。幸いバレずにすんだ。

「早かったね。」

「そう?荷物運んでかるから冷蔵庫に入れてもらえる?」

「うん、わかった。」

気がつくと死神の声は聞こえなくなっていた。

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