テラーノベル
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そう言った彼の手は、少しだけ震えていた。
それでも、しっかりと自分の手を引いて、バスの中に案内してくれた。
中は思ったより広くて、埃っぽいけど、あたたかさが残っていた。
何かの布を重ねてつくったベッドが3つ、壁には誰かが描いたクレヨンの絵。
星。花。笑っている顔。
「ただいまー。って言っても、みんな聞こえてる?」
💜が声をかけると、奥の座席の陰から何人かが顔を出した。
みんな、自分と同じくらいの年か、それより少し小さい。
おそるおそる、けれど興味深そうにこちらを見てくる。
🩵「その子、新しい子なん?」
💜「そーそー、そこで拾ったんよな」
🩷「名前なんて言うの?」
「💛、」
🤍「…..あの、よろしく」
「、よろしくな」
❤︎「傷大丈夫か??」
「大丈夫」
🩷「おなかすいてるでしょ? これ、さっき拾ってきたやつ」
そう言って、別の子が缶詰を渡してくれた。開けてある桃の缶詰。
冷たくて、甘くて、やさしい味がした。
そのとき――
ズシン……!
空気が、重くなる。
音が地面を伝ってくる。
どこか、遠くで何かが爆発した音。空気が震えてる。
💜「……また来た」
💜の顔が、かすかに強ばる。
遠くから聞こえてくる、低い唸り声のような機械音。
あれは、前にも聞いた。
夜が白く光った“まえ”に聞いた音。
――空襲。
「❤︎、ブランケット持って! 🩵、人数確認!」
💜の声が変わった。
ふだんの優しいみたいな声じゃない。
兵隊みたいな、指示を出す声。
みんな、それに従って動く。
小さな手、小さな足。それでも、迷わない。
――この子たちは、何度もこれを経験してきたんだ。
誰かが自分の手を取る。
さっき缶詰をくれた子。瞳が不安そうに揺れているのに、強く手を握ってくれた。
🤍「……きっと大丈夫だよ」
こわい。
だけど、うなずいた。
バスの床に身を縮め、毛布にくるまる。
外の音はだんだん大きくなって、壁がカタカタ揺れた。
――また、誰かがいなくなるかもしれない。
そんな恐怖が、喉の奥を締めつける。
それでも、手をつないでいた。
初めてあった人たちなのに、こんなにも温かい。
このちいさなバスの中に、たしかに“生きようとする音”があった。
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