バスの床に伏せて、どれくらい経っただろう。
耳の奥に残っていた轟音が、だんだんと遠のいていった。
地面も揺れなくなった。空気も動かない。
まるで、時間が止まったようだった。
「……終わった、な の小さな声が、静寂を破った。
誰かがそっと息を吸い込む音。
それに続くように、毛布の中から次々と子どもたちが顔を出す。
🤍「音、もうしないね」
🩵「……生きてるな、、ちょっと帰ってない家族がいるから探してくるわ」
💛「気をつけてな」
🩷「みんな、ちゃんといる?」
手をたたき合って無事を確かめる子。
ただじっと、天井を見上げている子。
誰も泣かない。
泣きたいけど、泣いている時間があまりに少ない。
❤が立ち上がった。
服にうっすら灰が積もっている。
彼は窓の隙間から外をうかがって、数秒後にこう言った。
「ちょっと、見に行く。近くみたいだから、気をつけて行けば大丈夫」
反対する子もいたけど、❤の顔は真剣だった。
「物資が落ちてるかもしれないし、火事が広がってないかも見ておきたい」
そう言う彼の背中に、何人かの子がついていく。
自分も、その手の中にいた。
外に出ると、空はくすんだオレンジ色をしていた。
太陽があるはずの方角は、灰と煙でかすんで見えない。
歩きながら、何度もガラスを踏んで「シャリ……シャリ……」と音が鳴る。
アスファルトは黒く焼け焦げて、道の端にはこげた看板が落ちていた。
そして――
曲がり角を過ぎた先に、それはあった。
まっしろな灰の山。
かつて建物だったものの成れの果て。
鉄骨が折れて、黒こげの柱が斜めに突き出ている。
近づくと、熱の残り香が鼻を突いた。
でも、熱はもうない。かわりに、しずかなしずかな風が吹いていた。
「……これ、もしかして……」
💜のつぶやきに、他の子がぽつりと言った。
「ここ、🩵のうちだったとこじゃない?」
誰かが息をのむ。
言葉が、出てこない。
🩵は、さっき、「昨日から帰ってない家族を探しに行く」と言っていた。
でも、まだ戻ってきていない。
💜がゆっくりと目を閉じた。
「……急いで、帰ろう。もう、今日はこれ以上ここにいないほうがいい」
俺たちは、振り返らなかった。
白い灰が、しずかに降っていた。
それはまるで、誰かを葬る雪みたいだった。