テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
お見通し(笑)
ググッと晴永に詰め寄る形でそう尋ねたら、「そんなに身、乗り出したら見えるぞ?」とにやりと笑われる。
慌てて裾を引っ張った瑠璃香に、晴永が戸棚からコーヒーカップをふたつ取り出しながら告げるのだ。
「とりあえず風呂入ってこい。湯、張ってあるから」
「でも……」
「分からねぇのか? お前の服は、下着も含めて脱衣所にある」
「え……?」
「本当は全部洗っとくつもりだったんだがな」
そう言って、晴永は一瞬だけ言葉を切る。
「……すまん。女性ものの下着は、どう扱えばいいのか、分からなかった」
下手に洗濯機で回したり、乾燥機に掛けたりしてダメになったらいけないからと、手つかずのまま脱衣所に置いてあるらしい。
(あれ? でもちょっと待って? いま課長、女性ものの下着は、って……)
そう瑠璃香が思い至ったと同時、
「服だけは洗っといた」
晴永が意味深な笑みを浮かべる。
「まだ乾いてねぇから、代わりに今着ているのをそのまま着ておけ」
当然のようにそう付け加えられて、瑠璃香は晴永をじっと見つめた。
「……課長」
「晴永」
短く訂正される。
それ以上の言葉はなく、けれどそれだけで今までの呼び方を拒否されているのが分かった。
瑠璃香は吐息を落とすと、腹をくくる。もう、どうせ――記憶にはないけれど――、一線は越えた仲なのだ。今更呼び方だけ取り繕ったって仕方がない。
「……晴永さん、さっき逃げるか? って聞いてきましたけど……実際は私のこと、最初から逃がしてくれる気なんて、なかったですよね?」
下着を取り戻したところで、こんな格好のままでは、外に出られない。
瑠璃香がジトッとした目で晴永を見やったら、晴永が一瞬瞳を見開いてから、「バレたか」と言って悪戯っぽく微笑んだ。
瑠璃香は、会社では見たことのなかった晴永の子供みたいな笑い方に、心臓がトクン! と跳ねるのを感じてしまう。
(こ、これは気のせい! 変な状況にいるから吊り橋効果に陥ってるだけよ!)
別に生命の危機にあるわけでも何でもないのだから、吊り橋効果なんて起こりようがない。そんなこと瑠璃香にだって分かっていたけれど、無理矢理そう考えて、自分を納得させないと、なんだかダメな気がした――。
***
「ううう……」
瑠璃香は結局、記憶のない金曜の夜に続いて、土曜の夜も晴永の家に泊まることになってしまった。
「夫婦になるんだから、問題ないだろ?」
あっさりそう言われたけれど、瑠璃香としては大問題だ。
下着の替えもないし、服だって借り物のままでは落ち着かない。
必死になって訴えた結果、ようやく吐息を落とした晴永が「一度だけな」と言ってくれた。
自宅に荷物を取りに行く――それだけの約束。
(よし……!)
内心で小さく拳を握った瑠璃香だったのだが。
服がまずいので、瑠璃香のマンションまでは晴永が車で送ってくれることになった。それは分かる……。というか大変ありがたいことだとも思う。
でも――。
車を降りた瞬間、気づいてしまう。
晴永が、ぴったりと隣を歩いていることに。
「あ、あの……」
「なんだ?」
「部屋、散らかってるかもしれないですし……その……私一人で……」
言い終わる前に、
「却下だ」
即答だった。
「なんでですかっ」
「お前、一人で戻したら……絶対帰ってこなくなる」
そう言われて、瑠璃香は思わず身体を跳ねさせた。
(ば、バレてる……!)
慌てて取り繕うように、にっこりと笑う。