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少年は剣を握りしめ、天使たちを見据えた。
その瞳に迷いはない。
処刑場の沈黙を裂くように、低く、決定的な声が響く。
「もう、君たちのためには戦えない。」
一瞬、天使たちの剣が止まる。
「私が振るうのは…自分のためじゃない。守るべき人を守るためだ。」
声は静かだが、揺るがぬ力を帯び、空気ごと押し返すようだった。
世界の呼吸が一瞬止まったかのように、処刑場の石壁に反響するのは、剣の軋む音と、背後で微かに揺れる羽の影だけ。
黒く染まりかけた羽が、闇を吸い込むように背中から広がる。
完全に堕天したわけではない。だが、天使としての枠を超えた覚悟の象徴だった。
天使たちは警戒の構えを崩さない。だが、剣先に込められた意思の重みに、体がわずかに震く。
その震えは、恐怖から来るものだった。
目を見開き、息を詰め、誰もが少年の決意の力を前に、瞬間的に戦慄している。
石の床に滴る湿った音、剣を握る手の微細な震え、緊張で張りつめた空気が全身を締め付ける。
少年は振り返らず、淡々と、だが決然と口を開く。
「もう迷わない。」
その瞬間、剣先に力が込められ、羽が黒く光を吸い込む。
沈黙は文字通り世界の呼吸を止めたかのように重く、痛いほどに張りつめる。
サリエルは鎖の中で全身を震わせる。恐怖と希望が交錯し、胸の奥を締め付ける。
剣の向こうに映るのは、堕天の象徴ではなく、守る意思だけを宿した揺るがぬ瞳だった。
その瞳は金色に光り、覚悟の熱を静かに、しかし確実に周囲に伝えている。
足音が止まり、時間が一瞬凍る。
そして、少年が剣を振り下ろす直前、処刑場の空気全体がその覚悟を押し込められるように震えた。
背中の黒く染まる羽と、胸の奥に残る微かな光ーー
それは、世界の理に逆らう覚悟であり、決して失われない守る心の象徴だった。
周囲の天使たちの視線は、少年から完全に離れることができない。
その視線は驚きと警戒、そしてわずかな畏怖が混ざり合い、誰もが無言のまま立ち尽くす。
処刑場に差し込む薄明かりが、黒く染まる羽の輪郭を浮かび上がらせ、剣先に宿る意思の力を余すことなく照らす。
少年の胸中で、怒りも恐怖も、すべてが一つの光に変わった。
それは決意であり、信念であり、守るべき者への愛であり、未来を切り開く力そのものだった。
そして、その光は、剣先、羽、そして金色の瞳に宿り、処刑場を満たす緊張と共鳴していた。