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少年の剣は、天使たちの間を縫うように閃く。
しかしその一撃一撃は、致命傷を避けるように正確で、鎧や翼を削ぐ程度で止められていた。
倒れる天使たちは呻き、動きを封じられる。だが、命は奪われない。
「…くそっ、止まらない!」
一人の天使が怒声を上げるが、すぐに少年の鋭い視線に押し潰され、足がすくむ。
少年の背中では、黒く染まりかけた羽が揺れる。
闇の気配と光の意志が、共存しているかのように不安定に漂う。
「…守るべき人を守る。それだけだ。」
少年は心の中で繰り返す。復讐でも、怒りでもない。ただ、守りたい命のためだけ。
戦闘が最高潮に達したその瞬間――冷たい風と共に空気が変わった。
「…あれほどの力を、無駄に使うつもりか?」
低く澄んだ声が、処刑場を一瞬で支配する。
少年の剣先がわずかに止まり、振り下ろす角度を変える。
振り返ることなく、背後から迫る影。
石壁の影から、ミカリスが現れた。
表情には嘲りが混じるが、目は凍てつくように冷たく、全ての空気を凍らせる。
「…サリエルを、その手で潰す気か?」
声は柔らかいのに、全身に圧力が走る。戦場の天使たちさえ、息を潜めるしかなかった。
少年の胸がわずかに揺れる。
「…それは…」
言葉は止まる。目の前の絶対的な存在。自分の意志では、抗えない力。
瞬間、ミカリスの一歩が空気を切り裂き、鎖に繋がれたサリエルの前に立つ。
少年の胸を突き抜ける感覚。
「…動くな。」
ミカリスの声には命令ではなく、殺意そのものが宿っていた。
少年は一瞬の迷いに捕らわれ、剣を握る手がわずかに震む。
しかし、その瞳には守るべき人への決意がまだ残る。
だが――間に合わなかった。
ミカリスは軽く手を振り、空間の理をねじ曲げるかのように、サリエルに一閃の力を叩き込む。
サリエルの体が吹き飛び、鎖の音と共に床に倒れ込む。
血と汗が混ざった匂いが、地下牢をさらに冷たく、重くする。
ーーーー
少年の胸の奥で、怒りがじわりと芽を出す。
サリエルに触れたミカリスの冷たい手
――許せない。
その瞬間、守るべき意志と、抑えきれぬ復讐心が交錯し、剣を握る手が震えた。
「…くそっ…!」
心の中で小さく吐き捨てる。怒りが、痛みが、胸を締めつける。
黒く染まった羽が背中で揺れ、まるでその感情を吸い込むかのように光を消していく。
少年は、振り上げた剣を止められなかった。