テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
少年の剣は、天使たちの間を縫うように閃く。
しかしその一撃一撃は、致命傷を避けるように正確で、鎧や翼を削ぐ程度で止められていた。
倒れる天使たちは呻き、動きを封じられる。だが、命は奪われない。
「…くそっ、止まらない!」
一人の天使が怒声を上げるが、すぐに少年の鋭い視線に押し潰され、足がすくむ。
少年の背中では、黒く染まりかけた羽が揺れる。
闇の気配と光の意志が、共存しているかのように不安定に漂う。
「…守るべき人を守る。それだけだ。」
少年は心の中で繰り返す。復讐でも、怒りでもない。ただ、守りたい命のためだけ。
戦闘が最高潮に達したその瞬間――冷たい風と共に空気が変わった。
「…あれほどの力を、無駄に使うつもりか?」
低く澄んだ声が、処刑場を一瞬で支配する。
少年の剣先がわずかに止まり、振り下ろす角度を変える。
振り返ることなく、背後から迫る影。
石壁の影から、ミカリスが現れた。
表情には嘲りが混じるが、目はギラギラと光り、まるで獲物を狙っているかのようだった。
「…サリエルを、その手で潰す気か?」
声には、抑えきれぬ興奮と支配欲が混ざり、低く唸るように震え、全身に圧力が走る。戦場の天使たちさえ、息を潜めるしかなかった。
少年の胸がわずかに揺れる。
「…それは…」
言葉は止まる。目の前の絶対的な存在。自分の意志では、抗えない力。
瞬間、ミカリスの一歩が空気を切り裂き、鎖に繋がれたサリエルの前に立つ。
少年の胸を突き抜ける感覚。
「…動くな。」
ミカリスの声には命令ではなく、殺意そのものが宿っていた。
少年は一瞬の迷いに捕らわれ、剣を握る手がわずかに震む。
しかし、その瞳には守るべき人への決意がまだ残る。
ミカリスは軽く手を振ると、圧倒的な力を一点に集中させ、サリエルをめがけて叩きつけた。
空気が裂けるように震え、床の石板が微かに振動する。
一撃を受けたサリエルは吹き飛ばされ、鎖の金属音を響かせながら床に倒れ込む。
血と汗の混ざった匂いが、地下牢をさらに冷たく、重く満たした。
ーーーー
「ああ、だめだ…」
胸の奥で理性が警鐘を鳴らす。
だが同じだけの力で、抑えきれない衝動が膨れ上がる。
剣を振り下ろしたい欲望が、身体を震わせるほどに押し寄せる。
怒りが胸の奥でじわりと牙をむくーーサリエルに触れたミカリスの冷たい手を思い出すたび、許せない気持ちが込み上げる。
守るべき意志と、抑えきれぬ復讐心が交錯し、剣を握る手は震えた。
「…くそっ…!」
吐き捨てる声も震え、歯を食いしばる力と共に、理性と怒りがぶつかり合う。
黒く染まった羽が背中で大きく揺れ、胸の奥の熱を吸い込むように光を薄める。
それでも、少年は無意識に振り上げた剣を止められなかった。