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「おい、あんた……。こんな夜中に何をしてるんだ?」
現れた少女、藤原妹紅の瞳には、警戒心と隠しきれない空腹が混じり合っていました。俺は、箸に掴んだ黄金色のだし巻き卵を震わせながら、必死に叫びました。
「た、助けてくれ! 俺たち、道を迷ったんだ! この月が偽物になったせいで、方向感覚がめちゃくちゃで……もう何時間もここを彷徨ってるんだよ!」
「迷った?」 妹紅は眉をひそめました。
「ここは迷いの竹林。人間が一人で迷い込めば、二度と出られない場所よ。……でも、あんたたちは巫女と魔法使いじゃない。そんなに弱音を吐くなんて、よっぽどお腹が空いてるのね」
「そうなんだよ! 腹が減りすぎて、さっきから魔理沙が持ってる八卦炉がチョコパイに見えるくらいなんだ! ほら、この卵焼き、半分……いや、一切れあげるから! お願いだ、出口……いや、異変の元凶がいるところまで案内してくれ!」
俺は藁をも掴む思いで、焼き立てのだし巻き卵を妹紅に差し出しました。 湯気と共に、白だしの芳醇な香りが妹紅の鼻先を掠めます。
「……ふん。別に私はお腹なんて空いてないし、道案内なんて面倒なこと……」
――ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ。
静まり返った竹林に、妹紅の腹の虫が盛大に鳴り響きました。 彼女の顔が、一瞬で彼女の服と同じくらい真っ赤に染まりました。
「…………。……一切れじゃ足りないわ。三切れ。三切れくれたら、この先にある『永遠亭』って屋敷まで連れて行ってあげる。あそこに、月を隠した犯人がいるはずよ」
「本当か!? よし、決まりだ! 今すぐもう一個焼くから、火が消えないように見ててくれ!」
「……分かったわよ。ほら、そんなちっぽけなコンロの火じゃ時間がかかるでしょ。私が少し『火力』を足してあげるわ」
妹紅が指先をパチンと鳴らすと、小さなコンロの火がボウッ!と勢いよく燃え上がりました。 不死の少女が操る、千年変わらぬ紅蓮の炎。それが、俺の究極の白だしと出会い、竹林の中に「最強の料理」の音を響かせ始めました。
「うおお! すげえ火力だ! これなら完璧な余熱調理ができるぞ!」
「あんた、変わった人間ね……。死ぬほど怖い場所のはずなのに、料理のことしか考えてないなんて」
妹紅は呆れたように笑いながらも、俺の隣に座り込み、今か今かと卵が焼き上がるのを待つのでした。