テラーノベル
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「ねぇ、もし私が死んだらどうする?」
「君が死んだら僕も一緒に死ぬよ」
「じゃあ、私が生きてって言ったら?」
「…そんな悲しいこと言わないでよ、僕のことも連れてって」
そう言いながら彼は寂しそうな顔をしながら私を抱きしめた。
「先にいくなんて許さないから…。 」
潰れそんなほど強く抱きしめる彼に私は愛を感じて、その腕の強さが心地よかった。このまま彼に強く抱きしめられて苦しくなって呼吸が出来なくなって死んでしまいたいと思った。だけど私の首筋に顔を埋めて泣く彼を見て、先に死ぬなんてことはしたくなかった。
「大丈夫だよ、絶対に置いていかないから」
私は彼を安心させるように抱き返して彼の頭を撫でた。
「ほんとに?」
「ほんとだよ。」
そう言って顔を上げる彼の顔には涙の跡があった。私の首筋も彼の涙で濡れていてその涙が空気に触れて冷たかった。
その日は2人ソファに重なって眠りに落ちた。
朝起きたら乱れた服の隙間から彼の腕が見えた。そこにはいくつもの古い傷痕が残っていた。私はそれを見て不快に思うよりも綺麗だと思った。いつの間にか私は、彼の腕の傷痕をなぞっていた。
「何してるの?」
「何って?」
「僕の腕 」
「…なんでもないよ。」
「変なの。」
そう言って彼は笑った。そうやって子供みたいに笑う彼を見てなぜか安心した。
この人だけは、私を置いていかない。
そう思った。
「ねぇ、お揃いにしよ?」
「え?何を?」
彼が起き上がり私に笑いかけながら言った。
「傷、一生残るでしょ?」
「だからお揃いにしよ?」
そんなことを言う彼の瞳は真っ黒で何を考えているのかさっぱりわからなかった。
だけど甘い声でお揃いをねだる彼が愛おしくて私はその頼みをいつの間にか了承していた。
「いいよ。」
「ほんと?やった」
満足そうに笑う彼を見て私も嬉しくなった。
私たちはガムテープで両方の腕をくっつけて線を描くようにカッターを走らせた。その痛みがどこか心地よくてやがて痛みなど忘れて快楽に浸っていた。
「ねぇ、」
「ん?」
「私たちずっと一緒だよね?」
彼は少しだけ考えてから、私の目を見て笑った。
「もちろん」
その言葉が嬉しくて血だらけの手で彼の手を握ったお互いの血が混ざり合うのを感じながら 。
私には彼が必要だった。彼にも私が必要だった。
それだけで世界の全てがどうでもよくなった。
学校も友達も家族も
私たちのことを理解してくれない人たちなんて必要ない、だって私たちにはお互いさえいれば幸せだから。
それから少しづつ私の世界から人がいなくなった。ある日私は彼に聞いた。
「ねぇ、私たちが初めて出会った場所覚えてる?」
「もちろんだよ」
「どこだった?」
「…」
彼は答えなかった。考える素振りも見せなかった。
「…どうしたの?」
「いや、君が覚えてるならそれでいいよ」
「…変なの」
彼は笑った少し寂しそうに。
その日から気になり始めた。私たちが出会った場所。初めて話した日。彼が好きなもの。彼の友達。彼の家。どれを考えても、何一つ思い出せないしわからなかった。
私が知っているのは今隣にいる彼だけだった。
「ねぇ、」
彼が私を呼ぶ声が聞こえた。
「何?」
「もし僕がいなくなったらどうする?」
「なんでそんなこと聞くの?」
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「なんとなくかな」
彼は笑った。
「いなくならないでしょ?ずっと一緒って言ったじゃん」
「そうだね。」
少し俯きながら寂しそうに笑う彼を見て、胸の奥が締め付けられた。まるでもう一緒にいられないとわかっているかのように。
「ねぇ、どこにもいかないで」
「うん、いかないよ」
「ほんと?絶対だよ」
「絶対、どこにもいかないよ」
そう言って彼は私の頭を優しく撫でた。その優しさに涙が溢れた、泣いている私を見て彼は笑いながら私のことを抱きしめてくれた。
「好き、大好き。」
「うん、僕も大好き、愛してるよ」
そう言って彼は私の唇にキスをした。柔らかくて優しいキスだった。 その日はちゃんと二人でベッドで寝た。
朝、目を覚ます。
「…おはよう、」
返事がなかった。
「ねぇ?」
隣を見ても誰もいなかった、いつもならそこにいるはずの彼がいなかった。私はベッドから飛び起きて家中を探した、だけどお風呂にもトイレにもどこにも彼の姿はなかった。 私は震える手でスマホを開いた、二人で撮ったはずの写真を見る…、
そこには私一人しか写ってなかった。
「…え、なんで。」
次の写真もその次の写真も彼は写っていなかった。私は必死に彼の連絡先、 電話番号を探した履歴も全部、だけど彼の名前は出てこなかった。
彼は、最初から存在してなかったのだ。
「…どうして。」
床に座り込んで私は泣いた、声を上げて泣いた、彼の名前を呼ぼうとした、だけど彼の名前が思い出せなかった。それが悲しくて寂しくて悔しくて泣いた。
私の中に確かに彼はいた、私の世界で彼は笑って、怒って、泣いていた。私を必要としてくれた。
でも、彼を必要としていたのはきっと私の方だ
寂しかったから、一人になりたくなかったから私を必要としてくれる人が欲しかったから、だから私は隣に彼を作ったのだ。そしていつの間にか彼に依存して、現実よりも彼を大切にしていた。
「……ごめんね、」
誰もいない部屋に向かって私は囁いた、返事なんて返ってくるわけないのに、
それでも私は、二つのカップをテーブルに並べた。
一つは私の、もう一つは彼の
もう返ってこないとわかっていても、どうしても彼を求めてしまう、そんな私が惨めに思えた。
窓から差し込む朝日が空っぽの椅子を照らしていた。私はその椅子を見ながら笑った。
「…今日も一緒だよ。」
返事なんてない、だけど、どうしても私は彼がそこにいるような気がした、そう思わないと死んでしまいそうだった。
貴方が消えたこの世界で、私はいつも生きる意味を探しているよ、
もう貴方はいないとわかっているのに、あの時つけたお揃いの傷痕が私の腕に残っている、それを見るとまだ貴方はいるんだとそう思ってしまう。貴方にもう一度会えるまで死ぬのはやめておくよ、あの時置いていかないでと泣いた貴方を思い出してしまうから。
あとがき
このお話は人によって読み取り方が変わると思います。読み取り方やこのお話への解釈は人それぞれです。どうゆうお話かの正解はないのでぜひ自由に読んでいただけたら幸いです。
コメント
1件
読み終わってしばらく放心しちゃった……。最初は甘くて幸せな雰囲気なのに、途中からじわじわ不穏になって、写真に彼が写ってないところで全部ひっくり返る感じ、鳥肌立ったわ。彼を必要としていたのは実は自分の方で、いつの間にか依存してたっていう主人公の内省が刺さる。最後の二つのカップを並べるシーンが切なすぎて……。お揃いの傷痕だけが確かな証拠として残ってるの、せつない。続き、気になる……。