この作品はいかがでしたか?
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なおちゃんと付き合い始めて五年以上が経過した。
出会った頃は二十四歳だった私も、三十歳がすぐ目の前というところまで来てしまっていた。
「なおちゃん、私、やっぱり三十歳までには結婚したいな?」
そんなことを彼に言っても詮無いことだと知りながら、長いこと一緒にいると言う惰性が私の感覚をドロドロにダメにする。
なおちゃんは私がそういうことを言ったとき、何も言わずにただただ頭を撫でたり抱き締めたりしてくれる。
否定もしなければ肯定もしない。
昔は「妻がいるから菜乃香とは結婚できない」ってハッキリ拒絶していたくせに、そう言うことは言わなくなった。
けど、だからと言って結婚してくれるとも絶対に言わないし、奥さんと別れるというような甘い嘘も吐いてはくれない。
ある意味よく聞く不倫男のように体のいい嘘で浮気相手に夢を見させて繋ぎ止めるような卑怯なことはしない人だった。
でも――。
どのみち私たちの間に未来はないのだと突きつけられているようで、毎日が苦しくてたまらなかった。
何年経ってもなおちゃんは相変わらず優しくてずるい人で、それが分かっていても彼から離れられない私は結局のところバカで愚かな女なんだろう。
そんな折だった。
お母さんに、末期の癌が見つかったのは。
余命こそ宣告されてはいなかったけれど、インターネットを調べてみると致死率が極めて高い種類の癌だと分かって。
「なのちゃんの花嫁姿を見るのがお母さんの夢なのよ」
だからその夢が叶うまで死ねないの、と微笑むお母さんに、私の心は千々に乱れた。
なおちゃんと一緒に居続ければ、私は絶対にお母さんに花嫁姿なんて見せてあげることは出来ない。
でも、それを見るまで死ねないと思ってくれているお母さんに、その姿を見せずに親不孝な娘を続けていれば、あるいはお母さんは心残りで病気に勝てるんじゃないかとも思って。
なおちゃんと別れて、共に未来を見据えられる相手を見つけて結婚をして。
一日も早くお母さんを安心させてあげたいと希う自分と、大好きななおちゃんと離れたくないと思う自分。
相反する思いに右へ左へふらふらと揺れる私は、それでも必然と言うべきか。
お母さんの看病のため、なおちゃんと会う頻度自体はどんどん減っていった。
毎日仕事後に彼と逢瀬を重ねていた時間は、入院しているお母さんのお見舞いへ行く時間にすげ変わって――。
週末も、以前のようになおちゃんと遠出をして人目をはばからずにイチャイチャ出来る人並みの幸せよりも、いつ病院から連絡があるか分からないからと――。公然とはイチャつけなくても市内に居たいと言う思いに翻弄される日々。
決してなおちゃんへの愛情が冷めたわけではなかったけれど、自分の中で優先すべき相手が、確実になおちゃんからお母さんにシフトしていたのは事実だった。
以前、お母さんになおちゃんとのことがバレた時、彼女を悲しませたくないからとなおちゃんと別れようと頑張ったことがある。
だけど結局、私はその後何年も何年もお母さんを裏切り続けてなおちゃんと一緒にいる未来を選んでしまった。
その親不孝の罰が当たっている気がして、今度こそなおちゃんよりもお母さんを優先せねば、と思っていた。
なおちゃんも、事情が事情だからとワガママは一切言わずに私のペースに合わせてくれて。
優柔不断な私は、母に対する罪悪感に加えて、なおちゃんに対する申し訳なさまで育ててしまった。
そんな後ろめたさもあったんだと思う。
奥さんとはセックスレスだと話してくれていたたなおちゃんの、性欲処理をしてあげなくてはという変な義務感に駆られて。
会える頻度が毎日から週一程度に下がったというのに、私は彼との会話を楽しむよりも、なおちゃんの性衝動を受け止めることに全力を注いだ。
顔を見れば、彼に求められるまま身体を開く――。
それは生理中だってお構いなしで。
ラブホテルのお風呂場で、経血に塗れて初めてなおちゃんを受け入れたのは、まさにこの頃だった。
前までは生理中の行為はリスクが高いからって抱いてくれなかったくせに。
なおちゃんもきっと、会えなさ過ぎておかしくなっていたんだと思う。
行為のあとお風呂場で洗い流せば大丈夫だと、まるでそれを免罪符にしたみたいに貪り合うことに、最初こそ抵抗を覚えた私も、彼に激しく求められ、最奥までこじあけられ貫かれているうち、だんだん感覚が麻痺してきてしまった。
「なお、ちゃっ……、ぁあん。私っ、なかなか会えなくて……あ、……ごめんねっ」
ちょっと前まではほぼ毎日貴方に抱かれることが出来ていたのに。
週に一回しか彼を満足させてあげられない。
その後ろめたさが、私の倫理観をドロドロに溶かして……。
「お願っ、なおちゃ、今日は膣内に、出してっ?」
ゴムも付けずに睦み合って、生理中で弱った膣内に彼の性液を思う様ぶちまけてもらう。
冷静に考えればリスクの高すぎる行為なのに、そうすることでしか会えない寂しさを埋めることが出来ないと錯覚してしまった。
なおちゃんの精を自分の胎内に出してもらえる。
奥さんにしか許されない特権を与えられたようで、内ももの間を経血と一緒に彼の性液が流れ出てきた時はたまらなく嬉しかった。
「菜乃香のなかに出せるなんて夢みたいだ」
なおちゃんも同じように思ってくれたことが幸せで。
ぽろぽろと泣きながら「私、今すっごく幸せ」とつぶやいていた。
それからだ。
なおちゃんが、私のお尻をやたら触るようになったのは。
元々後孔に興味がある人だったのは確かだと思う。
エッチの最中にお尻の穴に指を入れられそうになったことがなかったわけじゃない。
その度にイヤだって言ってやめてもらっていたけれど。
生理中に中に出されて……そのことを嬉しいと認めてしまった私に彼は言った。
「菜乃香。お尻の穴なら、いつ出しても妊娠しなくて安全だよ?」
って。
妊娠しなくて安全、は要するに懐妊することを自分は望んでいないよ、と同義。
そう分かっているのに、弱い私はつい彼の言葉にほだされる。
きっと、お母さんの病状が芳しくないことが私の寂しさに拍車をかけていたんだと思う。
お母さんの前では笑顔を絶やさず。だけど心の中はズタボロで。
日々その心痛で、気が狂うほど誰かに甘えたいと願っていた私は、私を必要だと言ってくれるなおちゃんの申し入れを断ることが出来なかったのだ。
***
「菜乃香、痛くないか?」
蜜口から溢れ出る愛液を指先にまとわせて、なおちゃんの人差し指が私のお尻に差し込まれている。
「……痛く、はないっ。……けどっ」
「けど?」
「……気持ち悪、い……」
本来何かを受け入れるための場所じゃない後ろの穴への刺激は、ただただ気持ち悪くて。
なおちゃんには恥ずかしくて言えなかったけれど「トイレに行きたい。大きいのが出ちゃいそう!」と言いたくなるような、そんな不快感をもたらすばかり。
それでもなおちゃんに「イヤ」とは言わなかったから。
彼は私の反応を見ながら指を増やしていった。
人差し指と中指と薬指。
私の指よりはるかに太くて長い男の人の指が三本、お尻の穴を掻き回す。
彼の指が抜き差しされるたび、眉根を寄せてトイレに行きたい気持ちと戦う私に、なおちゃんが「だいぶ緩んできたな。そろそろ大丈夫かな」ってつぶやいた。
何がそろそろ大丈夫なんだろう?
その言葉の意味が分からないはずなんてなかったのに、不快感に耐えることで精一杯だった私は、なおちゃんのセリフに反応するのが遅れてしまった。
「菜乃香、挿入るぞっ?」
言われて、言葉とは裏腹。ズルリと指が後ろから抜き取られて。
私は「やっと終わったんだ」と油断してしまった。
それと同時。
「痛っ――!」
指なんて比べ物にならない質感が、後ろの穴を押し広げて割り入ってきて、皮膚が引き裂かれるような痛みに私は思わず息を詰めた。
「菜乃香っ、息。……止めたらダメだっ」
ギュッと唇を引き結んで涙をこぼす私の耳朶を、なおちゃんがクチュリと濡れた音を立てて舐める。
次いで、中の異物を追い出そうとでもするみたいに食い締めた私のお尻の穴をほぐしたいみたいに、なおちゃんの指が蜜口に伸びる。
すりすりと敏感な肉芽を擦り上げられて、快感と痛みと不快感とがごちゃ混ぜになって私は泣きながら喘いだ。
「ふ、ぁっ、痛い、……のっ! なおちゃっ、……あぁんっ、お願っ、抜い、てぇっ……」
グッとなおちゃんが腰を進めるたび、私のお尻が悲鳴を上げる。
「今、抜、いたらっ、……また最初からになるから……悪いけど、もう少し我慢……してっ」
なのになおちゃんは私の言うことなんて全然聞いてくれなくて。
ギリギリまで引いた肉棒を、まるでそこをこじ開ける感触を楽しむみたいに再度ゆっくりと押し進めてくる。
痛い!と悲鳴を上げるたび、なだめるみたいに秘芽に刺激を与えられ、ついでのように膣内にも指が差し入れられ掻き回される。
さっき後孔をほぐした方とは反対の手指を使ってくれているのは、感染症を懸念してのことだと思う。
そのくせ自分は避妊具なしで私のお尻に猛り狂った欲望を打ちつけてくるとか……。
(なおちゃんこそ、そんな真似して病気にならないの?)
矛盾している行為なのに、痛みと快感とでごちゃ混ぜになった私には、もう何が正しくて、何が間違っているのか、さっぱり分からなかった。
何度かなおちゃんが抽挿を繰り返すうち、あんなに痛かったはずの後ろの穴での行為が、痛みを伴わなくなっていって。
だからと言ってそこを犯されることに快感なんて微塵も見出せなかったのだけれど、最初に感じた痛みと、今、私、生で彼を受け入れているんだと言う事実が、麻薬のように脳内を満たしていくのが分かった。
「くっ、菜乃香っ、……俺、もうイクっ」
膣ほど敏感ではないのかな。
後ろでなおちゃんが欲望をぶちまけたけれど、私は生理中に感じたような、下腹部が内側からキュンキュンうねるような心地よさは感じなかった。
ただ、彼のものが中でビクビクと痙攣しているのは何となく分かったけれど、本当にそれだけ。
初めて捧げた後ろの純潔は、終わってみれば「こんなものなの?」程度の気持ちしかもたらさなかった。
ただ、膣内で彼の性液を受け入れた時と違ったのは、しばらくしてお腹が痛くなったこと。
きっと、直腸内に出された彼のものが刺激になって、お腹を下したんだと思う。
以後、まるでタガが外れたようになおちゃんが私のお尻を犯すたび、行為のあとでのトイレ籠城はセットになってしまった。
彼を受け入れるのも痛い。
出されたあとも苦しい思いをさせられる。
そんな思いをしても、私が彼の求めに応じてお尻での行為を受け入れていた理由。
それはひとえに痛みを伴うセックスが、私の中の背徳感を刺激したからに他ならない。
お尻でのエッチは、何度経験してもまるで初めてみたいに痛くて。
どんなに丁寧にほぐしてもらっても、なおちゃんのモノが私を貫く瞬間は、必ず目尻に涙が滲んでしまうくらい痛かった。
出血こそしなかったけれど、相当お尻の穴に負担をかけていたんだと思う。
でも、そう言う諸々の苦痛を我慢して彼に従順に尽くしていると思うと、そんな自分が何だか無性に愛しくて……。
私は多分、痛みに耐える自分に酔いしれていたんだと思う。
「菜乃香。痛いのにいつも俺を受け入れてくれてありがとう」
彼にもそれが分かっていたんだろうな。
後ろでの行為のあとのなおちゃんは、普通のエッチをした時よりも数倍私を甘やかしてくれるから。
なおちゃんの逞しい腕に抱かれて、私はその時だけはお母さんの病気のことを忘れて、幸せな気持ちに包まれることが出来た――。
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