テラーノベル
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「……妾たちの戦利品を盗もうとは……愚かな奴らがいたものよのぉ」
彩絲が綺麗な眉根を寄せる。
「子供たちなら慈悲を与える?」
「年齢は十前後じゃ。微妙なところかのぅ」
大量に湧いているモンスターを退治するのに専念し、ドロップアイテムを放置していたら、それらを無許可で拾おうとする輩が現れたらしい。
ダンジョン内で禁止されている行為の一つ、寄生行為に当たる。
例えば孤児や幼い子供などが行う場合は、目こぼしをするケースもあるとはいうが……。
「ぎゃあああ! 何をするんだよ? 離せよ!」
彩絲が操る子蜘蛛たちがリーダーらしき人物を見極めて、蜘蛛糸で捕縛。
ずるずると引き摺ってきた。
「妾たちが時空制御師最愛様のパーティーと、知っての狼藉か?」
「へ?」
「時空制御師最愛様のパーティーと、知っていて寄生をしようと思ったのかと聞いておる」
リーダーの捕縛に諦めたのか恐れをなしたのか、ぞろぞろと現れたのは十人。
多い。
しかも、どう見ても五歳児以下もいる。
「時空制御師最愛様……本当に、おられるんですか?」
「この方がそうじゃが?」
彩絲が私に目線を流す。
私はただ、威圧などをかけもせずに、じっとリーダーを見つめる。
リーダーは大きく目を見開いてから、蜘蛛糸で縛られて不自由な体ながらも、額を地面に擦りつけた。
「御身が最愛様とは知らず、大変な無礼をいたしました! 全ての咎は俺一人に! 他の奴らは見逃してやってくださいませ!」
うん。
潔い。
言い訳の一つもせずに、他の子を守るなんて簡単にできない犠牲だ。
「お、おにいちゃんがわるいことをしたのなら、ぼくたちもいっしょに、ばつをおあたえください!」
他の十人の子もリーダーに倣って地面に身を伏せる。
慣れているのかもしれない綺麗な土下座だ。
「貴男が、このパーティーのリーダーですか?」
「はい。小さい子ばかりなので、置いてはいけません。冒険者ギルドには自己責任でと許可を得ています」
「全員、身寄りがないの?」
「……あるものもいますが、孤児と変わらない状況ですので、本人の同意を得て、一緒におります」
「そうなのね。ノワール! 休憩小屋を召喚して、この子たちの面倒を見てあげて」
「よろしいのでございますか?」
「主人から何も言われないので、信用できる人物なのでしょう。戦闘はそもそも過剰戦力だから何も問題はありませんよね?」
リーダーも十五歳は超えていない。
だが夫はたとえ五歳でも邪な感情を抱いていれば、私に近づけようとはしないのだ。
ましてやストーカーに近い行為を認めるはずがなかった。
「私は時空制御師の最愛アリッサ。主人の名前にかけて、貴方方を保護いたしましょう」
「よ、よろしいのでしょうか?」
「二言はありません」
「あ、ありがとうございます!」
リーダーの瞳から涙が噴き出した。
いろいろと限界だったのかもしれない。
真面目に頑張っている人にはやはり報われてほしいものだ。
子蜘蛛の糸から解放されたリーダーが深々と頭を下げる。
他の子もそれに倣った。
一人ぐらい反発しそうな子もいそうだが、幼いせいだろうか。
全員が盲目的にリーダーを慕っている。
それがいいのか悪いのか。
今判断するのは早計だろう。
突然現れた小屋に驚きながらも、彼らはノワールに背中を押されて中へと入っていった。
「大丈夫なの?」
「何より主人の干渉がないもの。ないなら自分の良心に従うだけよ。続けましょう。囲まれちゃったわ」
「やっと我の出番じゃな! ウインドカッター!」
あ、ちゃんと詠唱している。
気合いが入ったのかな。
しかも範囲攻撃って全体攻撃じゃないよね?
よくよく見れば複数の範囲攻撃がされているようだ。
え?
一回の詠唱で複数の箇所を攻撃できるわけ?
よくわからないなぁ、魔法の基本。
疑問に持ちながらもきっと、ランディーニがさすがだからに違いないと思う。
ここは、さすラン! としておこう。
見ていて便利な攻撃魔法なので、久しぶりの簡単コピースキルを発動して、ウインドアローとウインドカッターをコピーしておいた。
早速使おうと思ったら、他のメンバーの活躍により、大量のドロップアイテムを残してモンスターが全滅している。
「また寄生が出ても面倒じゃ。ドロップアイテムは子蜘蛛と子蛇に回収させることとするぞぇ」
代表なのか他の子より大きな蜘蛛と蛇がそれぞれリュックサックを背負っている。
うん、可愛い。
マジックバッグらしいそれに、他の子蜘蛛や子蛇がせっせとドロップアイテムを運んではしまい込んだ。
スタンピードですか? と思うほどのモンスターの猛ラッシュ。
何しろ過剰戦力なんで体力的な消耗は少なかったけれど、気持ちが消耗しました。
「ふむ……一階にいたモンスターは殲滅したようじゃのぅ」
「たまにあるみたいだから、危険を感じた冒険者のほとんどは一端離脱したみたいだね」
「愚かな者は若干いたようじゃぞ。まぁ、あの子らを唆したような輩じゃから、自業自得じゃろうて」
彩絲と雪華の言葉に胸を撫ぜ下ろし、ランディーニの言葉にぎょっとする。
「子供らはいい囮になるからのぅ。ま、想定外のスタンピードもどきで、それどころではなくなったのじゃわい。ま、因果応報じゃて」
ランディーニの言葉に二人も頷いている。
たぶん余罪もあったのだろう。
三人の態度からそう察せられた。
「では、休憩小屋へ入るとしようではないか!」
「子供らも幾分か落ち着いておればいいのぅ」
「大丈夫じゃない? ノワールの休憩小屋とか、子供たちにとっては夢のお城みたいだと思うし」
ランディーニがくちばしでノックをする。
可愛い。
何となくだが、ノックをしないでノワールに激怒された過去がある気がした。
「お疲れ様でございました」
入り口から見渡せる範囲に子供たちがいない。
時間的に考えて食事やお風呂を済ませて、睡眠を取っている……そんなところかしら?
木目が綺麗なテーブルには四人分の飲み物。
数種類のサンドイッチが置かれていた。
断面から見るに作り立てのようだ。
ノワールの場合、作り立てを何時でも出せるように準備はしていそうだが。
「子供たちは?」
「救急のちに風呂へ入れ、家庭料理を与えて就寝させました」
救急が必要な衰弱レベルだったのか……酷い話。
皆がりがりだったものね。
「リーダーに話を聞きましたところ、冒険者たちに囮として使われたようですね」
「使った奴らは因果応報にあったぞ」
「それは上々。話を聞くに相手は常習犯だったようです。リーダーは生き延びられるかもしれないと思い手を取った、と申しておりました。苦渋の決断ですね」
「それだけ追い詰められていたのかしら?」
「この街はどこまで荒れているの?」
少なくとも活気はあった。
宿への移動中に、うずくまる子供の姿は見なかった……と思う。
「小さいながらも孤児院はあるようで、そこの評判は悪くはなかった模様。ただ我儘な子供が入ってきてから状況が悪化したのだとか」
「我儘な子供?」
「桃色の瞳と髪を持った愛らしい少女だそうです」
ラノベなら魅了持ち確定のヒロイン枠といったところでしょう。
「リーダーは何故か異様に執着されたようですが、それを拒絶したら、孤児院に疎まれたと」
「孤児院出が孤児院に疎まれると面倒なことになるんじゃよ」
他の孤児たちを守るためにそれは、仕方のない態度なのだろうか。
もし少女が魅了持ちなら孤児院関係者も既に取り込まれている可能性が高そうだ。
「うーん。じゃあ、子供たちにはドロップアイテム拾いをやってもらいましょうか?」
「子蜘蛛と子蛇のガードをつければ安全に拾えるでしょう」
「リーダーは一緒に戦闘を?」
「他にも三人ほど磨けば光る者がおります」
「じゃあ、四人には戦闘を教える感じで」
「ノワールが言うのなら将来性があるのじゃろうて」
このままダンジョンを離脱して孤児院へ乗り込んでもいいが、それでは拙い。
魅了持ち少女やリーダーたちを理不尽な目に遇わせた大人たちへの、報復の意味もかねて、子供たちをしっかりと自立させたい。
「戦利品は如何でございましたでしょうか? スタンピードではなく湧きとされているようですが」
あんなに大量に出てもスタンピードじゃないところに驚き。
殲滅させなくても一定時間放置すると普通のダンジョンに戻るっていうんだから衝撃だよね。
このダンジョンに限らず、ダンジョンにはそんな特性を持つものも少なくないんだってさ。
そういえば決まった湧きの対処をする小説を読んだ記憶がある。
その作品は湧きの対処をしておかないとスタンピードが起きるっていう設定だったけどね。
「戦利品はなかなかじゃったぞ? さすがに色こそ制覇できなかったが種類は制覇したじゃろうて」
「……依頼分も達成しておりますね」
ノワールが懐から取り出した依頼書と照らし合わせてしっかりと確認した。
彩絲はドロップアイテムの数と種類を記憶しているらしい。
え、そんな凄いこともできるんだ!
懐から出した紙には、ずらっと男性服の名前が並んでいる。
下着、タンクトップ、シャツ、ワイシャツ、シェフパンツ、チノパン、ポロシャツ、スウェット、スラックス、カーゴパンツ、ジーパン、ジージャン、カーディガン、パーカー、ベスト、スーツ、テールコート。
ドロップの多い順番だ。
向こうの世界で普通に着られていた物ばかりなのに驚く。
これも服ダンジョンの特性なのかしら?
王都はもっとこう……中世頃の服が多い印象だった。
こういった軽装が王都では好まれないのかもしれないし。
ん?
もしかして例の寵姫もどきのせいかも。
豪奢な服が好きそうだったもの。
下着が一番多いのはそれだけ需要があるから。
ぶっちゃけ下着姿でうろうろしていても大丈夫な街らしい。
パンツ一枚でうろうろするならせめて、トランクスタイプであってほしい、とこっそり願ってしまう。
暑い地域なら空気の出入りが良さそうなトランクスが幅を利かせているに違いない、と信じておこう。
さすがに高級宿の周辺やダンジョン周辺にはいませんので安心してください。
肌が強くなければ難しい格好ですからね。
夫から囁かれた。
あちらの砂漠地帯の服装だって基本的には肌を隠すものだしね。
宗教的な意味合いが強いのかもしれないけれど。
何しろ強い日光は肌を傷めるのだ。
幾ら暑くても肌が傷つく服装をしないのが一般的だろう。
「この街で需要が見込める物も多いけど、交易に回す用が多いところがいいわよね。アリッサがドロップさせたテールコート一式とか、オークションでいい値段がつくわよ」
確かに一流テーラーに飾られていそうな一式だった。
基本男性が許されない一行だが、女性に着せていいなら置いておきたい気もする。
男装の麗人執事にアフタヌーンティーのサーブとかされてみたい。
……男装の麗人なら許可しますよ。
あ、渋々だけど夫の許可も下りた。
今のメンバーならフェリシアが似合いそうだけど、案外ノワールも似合いそうだ。
「テールコートは残しておきたいかな」
許可が下りた妄想は伝えずに言えば、他のメンバーはきちんとした収納を約束してくれる。
「うん。引き受けた依頼品も全部揃ったわ。カーゴパンツ一ダースは、もう少し時間がかかると思っていたから嬉しい」
「職人が好んで穿くズボンじゃからのぅ。消耗も早いが、ポケット数の多さと頑丈な割に涼しいから重宝されておる。その癖意外とドロップされぬからなぁ」
「みたいだね。基本的にこの街で着られそうな服のドロップが一番多いみたいだし。カーゴパンツは誰もが着たいわけじゃないからねー」
「下着、タンクトップ、シャツは全色出ておりますから……揃いで売りに出した方がよろしいかもしれません」
「あ、もしかして自分で売ってもいいの?」
食べ物屋の屋台も考えていたけれど、服飾小物系の屋台も考えていた。
洋服も数が多くないなら試しても良い気がしている。
オタクとしてはコンプリートされたものって、思い入れがあるのですよ。
「洋服屋さんをお望みですか? 屋台でもそこそこ出ておりますし、案外出物も多いので可能でございますよ?」
「ほぅ。アリッサが服の屋台を出すと希望するとは思わなかったぞぇ」
彩絲に流し目で見られた。
「揃っているものに弱いのよね。テールコートみたいに取っておきたい執着はないんだけど、自分で着てくれる人に売りたいなぁって」
「揃いであれば転売屋も寄ってくるからねぇ。ま、私たちが不逞の輩は寄せないけれどさ」
「女性専用の売り場で販売なさればよろしいかと思います」
というか。
そちらでの販売しか御方様は許されないかと思われます。
ノワールの言いたかった言葉は、何となく脳内に届いた。
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