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「それなら安心だね」
女性が男性服を購入するなら基本はプレゼントだろう。
やり取りが楽しそうだ。
「おや。子供らが起きたようですね。こちらへお呼びしてもよろしいでしょうか?」
ノワールが子供の起床を察知したようだ。
先ほどの提案を子供たちは喜んでくれるに違いない。
私は大きく頷く。
「失礼します!」
入っておいでなさい! というノワールの声に、リーダーの声が続く。
さらには子供たちの、しつれいします! という可愛らしい声も続いた。
ノワールがセットした、座りやすいサイズの椅子に行儀良く座った子供たちに、飲み物が提供される。
寝起きならば喉が渇くだろう。
にこにこと見守るが、子供たちは一向に手をつけようとはしない。
ふと思い至り、許可を出した。
「寝起きで喉が渇いたでしょう? どうぞ、お上がりなさい。足りなければお代わりも許可しますよ」
そう、こういった場面では主人である私が許可を出さねばならない。
彼らと対等な話をするという意味合いもあった。
子供たちは喜んで飲み物を取り、リーダーは驚きに目を大きく見開きながらも喉を潤した。
子供たちの提案は雪華が引き受けた。
ランディーニや彩絲の口調は独特だから無難な選択だろう。
二人とも説明上手ではあるのだけれど、子供相手には向かない。
ノワールは子供たちの体調を窺いながら食べ物や飲み物を与えている。
かなり飢えていたようだったから必要な措置だと思う。
「安全に攻略ができる上に、訓練までつけていただけるなんて……ありがとうございます!」
ノワールが子供たちから聞き出してくれた情報によると、リーダーの男の子はレオンで十二歳。
大人びているのは苦労したからなのだろう。
更にノワールの情報によると貴族の庶子らしい。
乙女ゲームあるあるだ。
だから魅了少女に執着された。
このまま放置は危険なので、説明が必要かもしれない。
「ええ、ダンジョンの攻略は焦っていないから、しっかりと訓練して稼ぐといいわ」
「レオンにぃがたおした、もんすたーのドロップは、ぼくがひろうからね!」
これは最年少のナータン。
彼も貴族の庶子とのこと。
貴族の庶子多過ぎ! と思ったけれど、そういう経営方針の孤児院なのだろう。
そこに貴族や王族の意思が絡んでいるのか、犯罪組織が絡んでいるのか、はたまた両方なのか。
気になるので、夜にでも聞いてみようかな?
ダンジョンの中は時間の感覚がわからなくなるけど、今、何時ぐらいなんだろう。
「そういえば、今何時ぐらいなの?」
「夕食前に一狩り行こうぜ! って時間かな」
どこのゲーム! と突っ込みを入れたくなった。
まぁ、夕方ってところかな。
砂漠に日が落ちる様子も見てみたいなぁ……と思いつつ、皆が子供たちの装備を調える様子を温かく見守った。
顔つきまでもが変わった子供たちと一緒に二階へと進む。
子蜘蛛や子蛇は可愛いと好評で驚いた。
苦手な子がいそうなものだが、砂漠にはそもそも虫系は少ないらしい。
暑いから環境に適合しにくいのかしら。
虫が苦手な身としては、悪くない環境だ。
二階へ行くまでにモンスターは出なかった。
しかし、降りた途端にやってくる。
「ブルー ロング ワンピースね。需要の高いテントラインだわ」
だぼっとしたワンピースが億劫げな感じで近寄ってきた。
動きがゆっくりなのは生地が重いからなのかしら?
どうでも良いことを考えていると、レオンが動く。
「行きます!」
掛け声とともに果敢に挑んでいった。
手にしているロングソードは中古品よりも廃棄品に近い気がする。
相手が布でも壊れそうなレベルだ。
「あ!」
案の定斬りかかったら、ばきっと派手な音をたてて壊れてしまった。
「使い慣れた剣で頑張ろうとするのは悪いことではないが、寿命の見極めの方が肝腎じゃぞ?」
「御主人様は寛容でお金に不自由していないから、次からはきちんと皆が納得する剣で戦いなね?」
「……はい。申し訳ありませんでした」
装備を調えたはずなのに、おかしいなぁと思っていたら、そんな事情があったらしい。
逃したワンピースはノワールの指導のもと、しっかりと女の子が倒していた。
ショートボブで勝ち気な印象を受けるその子はディアナ。
レオンのサポート役の立ち位置。
きちんと畳まれた状態でドロップしたワンピースは子蜘蛛と子蛇に守られたナータンが、しっかりと拾って自分に与えられたマジックバッグにしまっている。
役に立てるのが嬉しいのか満面の笑みを浮かべていた。
「なーたん、ずるぃ! でぃあねぇのどろっぷあいてむは、わたしがたんとうのなのにぃ!」
ぷーと可愛らしく頬を膨らませたのは、銀色の髪と神秘的な紫の瞳が愛らしい女の子、ヒルデ。
誰がどう見ても高位貴族の御落胤《ごらくいん》ですね? といった容姿のせいか、魅了少女に随分と虐められたらしい。
必死に庇ってくれたディアナを慕っているからこその発言だろう。
「そうね、ナータン。ダンジョンルールはきちんと守らないと余計なトラブルを招くわ。貴男はレオンが倒したドロップアイテムだけを拾うのがお役目よ。ヒルデにごめんなさいをしましょうね」
「……ごめんなさい、ひるで。はい、どろっぷあいてむ」
雪華に説明されたナータンは涙目で、ドロップアイテムをヒルデに手渡した。
「わかってくれればいいの。でぃあねぇがそんするの、いやだったから。れおにぃや、なーたんがきらいなわけじゃ、ないよ?」
「うん。わかってるよ。これからも、ぼく、きをつけるから!」
「わたしもきをつけるから、がんばろうね!」
見守っている最中に仲直りまですませてしまった。
他のメンバーは戦闘をしているので、ほっこりを堪能している場合じゃないのだけれど。
レオンの新しい剣はノワールが用意したようだ。
中古品にしては新しい。
だが大きさや持ったときの感じなどは、今まで使っていたのとほとんど変わりがないようで、レオンが驚きながらも感謝している。
ノワールには何時だって抜かりはないのだ。
空気を読んでいるのか、大きい通路にもかかわらず、女性服モンスターたちは、一体一体ゆっくりと歩み寄ってくる。
誰かが調節をしているのかな?
ランディーニの姿が見えないので、彼女の仕業らしい。
そのおかげで訓練&攻略は順調だ。
「えーと? 相変わらず私には不思議なモンスターが割り当てられるんだなぁ……」
他のメンバーをその視界にすら入れない勢いでやってきたのは、まるで中に人が入っているんですか? といわんばかりの動きをするベリーダンスの衣装一式。
うん、一式。
ドレスだけじゃなくてね?
豪華な装飾品とか靴とかフル装備の個体。
しかもね?
襲ってくるんじゃなくて、踊ってくれるんだ、これが。
超絶本格的なベリーダンスを!
格好良いわ、セクシーだわ、それでいて何処か可憐だわ。
何にせよ、一流のベリーダンスを見せてもらった心持ちでした。
何処からか音楽まで聞こえて気がしたよ。
子供たちも戦闘を忘れて見惚れてた。
彩絲たちも、ちらちら見てたなぁ。
他にもモンスターがいたから警戒をしないとなんだけど、それを放置してでも見たい! そんな気配が察せられた。
じゃーんとドラが鳴るような音が聞こえて、華麗なベリーダンスが終わる。
目一杯の拍手を送ったよ。
本当に素敵だった。
あ、おひねりとか投げるのありかな?
……と迷っているうちに、カーテシーをされた。
ベリーダンサーがカーテシー? 一瞬不穏なものを感じたが、次の瞬間にはドロップアイテム化している。
またしても服がトルソーにかかっていた。
今度はトルソーの足元に綺麗な小箱が幾つか置かれている。
たぶん靴とか装飾品が納められているのだろう。
「今度はベリーダンスの衣装一式とは……しかも、この街を治める者が好む真紅。さすがは我が御主人様じゃ」
「あら、献上とかした方がいいのかしら?」
「いいえ。彼らの矜持にかけて高額で引き取っていただくのが、よろしいかと」
そういうものらしい。
「ごしゅじんさま、すごいねぇ!」
「こんなにきれいなどれす、はじめてみました!」
ナータンとヒルデの尊敬の眼差しが痛い。
全て夫が過保護なおかげなんだけどね。
それだけではないと思いますよ?
うん。
夫の囁きは無視です。
私自身にそこまでの力はないのです。
たとえここが異世界なのだとしても。
「えーと。ここまで凄いのが出たら、この階は普通に戦えるかしら?」
「主様に関しては、間違いなく、と申し上げられないのが、申し訳なく思います」
ノワールの言葉にランディーニが笑う。
速攻で頭を叩かれていた。
「まぁ、まずは依頼分をしっかりこなすとしようかのぅ。まだまだ足りぬでな」
「どれだけ、依頼を受けたのよ?」
「数だけはこなせるようになったのじゃ、問題もなかろうて?」
彩絲が優しく子供たちを見つめる。
頼られていると感じたのだろう。
戦えるメンバーが我先にと走って行った。
小さい子供たちも必死に追いかけてゆく。
転んだ子供のフォローをきちんとしているところも愛くるしい。
「では私は大人しくレア物でも……」
大人しくレア物を狙うというのも変な話だが、子供たちの邪魔はしたくない。
だからといって呟いた途端、目の前に現れるのは心臓に悪いから止めてほしかった。
「……ブラック ロング ワンピース総レースとは……初めて拝見いたしますね」
「美しいレースじゃのう……」
ふわーっとスカートの裾を膨らませながら降臨したのは総レースのワンピース。
見るからにお高そうだ。
ワンピースの色は黒なのだが、白いインナーと一緒なので繊細な模様がよくわかるようになっていた。
しかもタートルネックで、首元には粒ぞろいな真珠のネックレス。
袖口には同じく真珠のブレスレット。
腰には真珠のベルトまでついていた。
「真珠はそれぞれ別売りしたくなるほどの逸品でございます」
ノワールがひそりと囁いた。
「なるほど。そもそもワンピース自体装飾がない方がいい気もするわね。せっかくの素敵なレースみたいだ、し?」
言葉を最後まで言ったか言わないかの微妙なラインで、ワンピースはドロップアイテムとなった。
どうやらワンピースも同じ考えだったようだ。
「……御主人様の倒し方は、特別じゃのう……」
誰よりも私がそう思っているからね! と口にはせず、代わりに生温い微笑を一つ、浮かべておいた。
摩訶不思議な倒し方をする私に羨望の眼差しを向けながらも、子供たちは懸命にモンスターへと挑んでいた。
「やぁ!」
掛け声とともにレオンが剣を振るう。
新しい武器は既にその身に馴染んでいるようだ。
違和感がない。
相手のモンスターは、ホワイト ナガソデ ブラウス……でいいのかな?
レギュラーカラーだから需要は高そうだ。
「くぅっ!」
仲間があまりにも規格外過ぎるので、一般人の戦闘は貴重だ。
レオンはブラウスの袖に剣を絡め取られそうになり、バックステップで逃れた。
剣に絡めたら生地が破れそうな気がするけど、そこはモンスターだから大丈夫なのかな。
体勢を整えたレオンが果敢に挑んでいく。
今度はブラウスの片袖を切り落とした。
しかしブラウスも負けていない。
反対側の袖を突き出して、レオンの頬に切り傷をつけている。
どんな鋭い布なのかと!
「レオン!」
対峙していたモンスターを片付けたディアナがレオンのサポートに入る。
そうだよね。
本来はこういう連携が必要なのがダンジョン攻略。
うちのパーティーだと、連携はたぶんボス相手ぐらいだろうなぁ。
下手したらボス相手でも、一人で挑んで軽く勝ちそうな気がする。
特にノワール。
ショートソードを巧みに操りながら所謂ヘイトを集めているディアナの反対側へ、素早く移動したレオンがブラウスを背後から切り裂いた。
致命傷だったらしく、ブラウスが消える。
一瞬の間を置いてドロップアイテムへと変化した。
「助かったよ、ディア」
「強い皆様につられないようにしないとだよ、レオン」
アドバイスがすばらしく的を射ている。
講師陣が強すぎると、自覚しないうちにつられるケースは少なくないだろう。
講師の実力を自分の実力と錯覚してしまう状況だ。
レオンはもしかしたらそんな傾向にあるのかもしれない。
乙女ゲームの攻略対象者っぽいしね。
ヒロインに助けられて欠点を克服するなんて展開は鉄板だ。
だとすると、ヒロインはディアナに手を出してきそうな予感がする。
孤児院に巣くっているヒロインは自分の手を汚さない、いやらしいタイプとみた。
「ああ、気をつけないとだな! でぃあ! うしろっ!」
孤児たちのフォローには子蜘蛛や子蛇をつけているが、命にかかわらない限り手を出してはいけないと命じている。
そうでなければ訓練にはならないからだ。
小さい子たちは勿論、怪我をしそうになったら手を出していいとしている。
現に子蜘蛛たちがいなかったら、重傷とまではいかずとも間違いなく怪我を負う子がいただろう。
#女主人公
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