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白雪「まずは要求から答えてもらいんす。」
傾「内容は?」
白雪「ハグでありんす♡」
傾「はぁ〜〜〜〜〜…。」
傾は心底嫌そうに長く大きな溜息をつく。
白雪「わっちは先払いしたはずでありんすが。」
傾「ちっ。わかったわかった。手短に終わらせろ。俺が他者に触られるのが嫌いなのは知ってるだろ。」
白雪「もちろんでありんす。」
傾「それで聞きたいことは?」
白雪は傾を抱きながら答える。
白雪「主さんは随分と矛盾をしていると感じんす。」
傾「…というと?」
白雪「少々盗み聞きをしてた者に聞きんした。主さんは、テオスと呼ばれる偽神の保護を急ぎする必要がありんすと。しかし…主さんの足ならとっくに保護できてるはずでありんす。何故、あの二人を連れてゆくことに拘るんでありんすか?…わっちには他に目的があるように見えんす。」
傾「それを聞いてお前はどうしたいんだ。」
白雪「ただの知的好奇心でありんす♡」
傾「はぁ…。テオスの保護が目的なのは間違っていない。ただし、お前の言う通り他にも目的はある。…だが理由は知らん。」
白雪「というと?」
傾「俺は上に命令されただけだ。…杏とイドゥン教の接触を防ぎ、テオスの保護をしろと。その命令があった以降、上とは連絡が取れなくなった。…いや、正確には上が俺と連絡を取り合わなくなりやがった。」
白雪「成程…何を考えているのかなんて、こちらが知りたいと?」
傾「ああ。杏とイドゥン教になんの関係があるかも知らん。奴なぞただの臆病なガキだろ。自分で自分くらい守って欲しいものだ。 これで満足か。というかいい加減離せ。」
白雪「すぅ〜〜〜」
傾「吸うな馬鹿たれ!!」
ノア「遅いなぁ。」
ノアはアリィに目をやる。
アリィ「……。」
アリィはただただ眠り続ける。
ノア「…ボク結構寂しがりでさ。アリィまで置いてかないでよ。そしたらきっとボクは泣いちゃうから。無理しないでよ? 」
そうつぶやき、ノアはアリィの髪を撫でる。
体調が悪いと決まって悪夢を見る。夢と言っていいのかも分からない。深層心理の方がきっと正しい。暗闇の中で、ある一点を見つめる。
アリィ「……。」
それは蹲ってる自分だった。
傾の言葉を思い出す。
傾「怒りを覚えているのはお前の方だろう。」
アリィ「…私には本当になんの話か分からない。でも貴方には違う。そうでしょう?」
「童よ。」
心の中で聞きなれた威厳がありながら、優しい声が聞こえる。
アリィ「…ナストナ。」
ナストナと呼ばれた女性はただ静かにアリィを見つめていた。
ノア「おかえりー。なんかげっそりしてる…?」
傾「…放っとけ。薬は飲ませたか。 」
ノア「うん。今は眠ってるよ。あれ、白雪さんは?」
傾「その辺に転がってる。あぁ疲れた…。」
ノア「転がってるって…白雪さん何か言ってた?」
傾「そりゃもう、ハグだの、吸うだの…1つじゃなかった。」
ノア「それは…大変だったね。でもあのヒト凄い力だったけど、どうやって抜け出してしたの?」
傾「鞘で頭を。今頃腫れ上がったたんこぶでも冷やしてるだろう。」
ノア「うわっ!痛いやつ!」
傾「食い気はありそうか?」
ノア「多分ないと思う…。」
傾「では多めに作って携帯食にするか。」
ノア「今日は何を作るの?」
傾「寄るな鬱陶しい。」
ノア「いいじゃん、ボク料理って見るの好きなんだよね。なんだか魔法に似てる気がして。」
傾「魔法に?」
ノア「うん。考えて考えて改良してくのが似てる。」
傾「そうか。魔法の扱いが上手いアヴィニア人は料理が上手いと思うか?」
ノア「あはは!ボクが保証するよ。全然上手くないよ。テオスには可哀想なことしたなぁ。」
傾「振舞ったことがあったのか。」
ノア「うん。テオスって果物と水しか食べてこなかったみたいで、いっぱい食べて欲しくて。」
傾「塩と砂糖の違いが目で見分けることが出来ない限り上手くはならないだろうな。」
ノア「砂糖なんて高いもの手に入らないよ。ボクがあの時やらかしたのは他のヒトが言うには、塩の入れすぎだって。やっぱり見様見真似はだめだね。」
傾「ふと思ったんだが、お前は直接見ずに他の奴に他者の記憶を見せることはできるのか?」
ノア「出来るけど…急だねどうしたの? 」
傾「出来るというのであれば、俺の記憶は武器になると考えた。死の記憶というのはそれ程までに強烈だからな。」
白雪「傾の記憶を覗きたいのであれば、わっちの記憶を貸しんす。」
ノア「あ白雪さん。」
傾「白雪お前…」
白雪「気になるんでありんしょう?」
傾「やめろ。」
白雪「事実、わっちの記憶を覗いた方が幾分かマシざんしょ。」
傾「はぁ…俺は推奨しない。」
ノア「えーと…ありがとう。でも今はいいかな。ボクは今杏によって生かされてること自体は自覚してる。杏がご飯を食べれないんだ。そんな魔法をポンポン使えないよ。今は生命維持に集中させたい。」
傾「それでいい。」
白雪「面白くない。」
白雪はノアの答えを聞き、口を尖らせる。
傾「俺達はお前の玩具ではなく、ヒトだからな。」
白雪「故に良いのでありんす。」
冷たい風が肌に触れるのを感じる。
暗闇から瞼を開ける。
アリィ「……。」
まだ寝ていたいと訴える身体を無視して、テントを開ければ、焚き火に薪をくべているノアがいた。
ノア「おはよう。寒いの苦手だったよね、確か。ここで暖まるといいよ。」
そう言い、ノアは焚き火を指す。
アリィ「覚えてたんだ。」
ノア「覚えてたというか…身体で覚えていたというか…ほら、アリィって寒いとボクのこと強い力で抱きしめるでしょ?たまに形が細長くなって戻らなくなるくらい。」
アリィ「う…温かいからつい…ごめん。」
ノア「いいよいいよ。」
アリィは焚き火に両手をかざし、暖まる。
ノア「体調はどう?」
アリィ「…昨日よりは大分良くなったよ。薬が効いたのかな。」
ノア「まだ少し悪い?」
アリィ「少しだけ…身体が重たい。」
ノア「この辺りは寒いからそれで体調を崩しちゃったのかもね。」
傾「であれば、お前は昼まで寝ていろ。 」
傾もテントからいつの間にか出て、アリィにそう指示する。
アリィ「…その…2人とも…昨日はごめん。」
ノア「いいよー。でもこれ以上無理はしないでね。」
アリィ「…うん。」
傾「お前は何に対して罪を感じている?」
アリィ「何って…」
傾「よもや、病を隠し身体を引きずり歩いた事ではなく、病に罹患したことではないだろうな?」
傾の質問にアリィは答えることが出来ず、口を噤む。その後しどろもどろに答える。
アリィ(…嘘を言っても…バレる気がするし…)
アリィ「……どっちも…思ってる。…そもそも風邪なんて、引いてなければ…って。」
傾「片方だけでないだけ及第点か。病など誰でも罹患する。俺でもな。適当な商人に聞くといい。病に罹患した商人のことを。適切な治療や休息をとれば無事だったものを、無理に身体を動かした結果死んだ者は多くいる。実際にお前は倒れた。俺が受け止めず、打ちどころが悪ければ死んでいたのだ。罪の天秤の重さはどちらが重くて、どちらが軽いか分かったか?」
アリィ「…ごめん。」
ノア「傾、流石にちょっと言い過ぎなんじゃ…心配だったのは分かるけど…」
傾「そんなことは一言も言ってないが?」
傾はそう言いながら、ノアを睨みつけ鞘から刀を出し始める。
ノア「ちょちょ、ごめんってば!その鞘から出しかけてる刀をしまってしまって!」
アリィ「ふふ…じゃあ私寝てるね。 」
ノア「ゆっくり休んでねー。」
アリィがテントに戻ると傾とノアは見合わせる。
傾「アレは…いつもああなのか?」
ノア「そうだよ。君にはちょっと苦手な相手かもね。 」
傾「ヒトの記憶で邪推をするな。が、そうだな。確かに苦手ではある。…ベツのようにそこそこに子供らしく我儘でいれば、扱いやすいというのに。」
ノア「ベツレヘムさんはもう大人だよ。」
傾「俺からしたらまだガキだ。」
ノア「前から思ってたんだけど…君何歳なの?」
傾「数えてないから知らないな。お前も己の年齢を答えられないだろう?」
ノア「確かに…。傾もまだ寝る?」
傾「いや俺は寝ない。白雪。」
白雪「ここに。」
傾「何度撒いても撒いてもしつこく俺達に着いてきていた人間がいたんだが、こちらに来る気配、あるいは通り過ぎたり等見ていなかったか?」
白雪「わっちがかけた幻術の範囲内で、感知はしておりんせんよ。それと…わっちには少数が主さんらにずっと着いてきているというより、そこら中に居るのが正しいと思いんす。 」
傾「…トスク国は物資の補給に使えるちょうど良い位置にある。はぁ…邪魔で仕方がないな。」
白雪は傾を不思議そうな表情で見つめる。
傾「なんだ白雪。…言っておくが俺一人ならこれぐらい余裕だ。」
白雪「あぁなるほど、守ることが苦手と。」
ノア「ボクらも戦えはするけど… 」
傾「お前はそこそこに強いから問題ない。問題は奴だ。…『鴉』の奴…俺に面倒事ばかり任せやがって…。 」
ノア「信頼されてる証だよ。」
傾「嬉しくない証だな。いつか見てろよ…。」
ノア「今の『フェニックス』のリーダーは、かなりの切れ者らしいね。いつか会うのが楽しみだ。 」
傾「奴が切れ者?はっ!馬鹿の間違いだろ。」
ノア「その馬鹿に一回も勝ててないのに?」
傾「…ぐ…。」
ノア「怒らないの?」
傾「負けを認めないのは、それこそ愚者であり、弱者である証だ。 」
ノア「傾ってやたら強さに拘るけど…昔からこうなの?」
白雪「いいや?昔はもうそれは素直で可愛うて…」
傾「その尻尾を抜いてやろうか。」
ノア「まぁまぁ…それより2人はまだ朝ごはんを食べてなかったよね?食べなくて大丈夫なの?」
白雪「わっちはその辺で獲物を獲ってくれば、良うござりんすが…」
傾「お前が離れたら幻術が解けるだろうが。これでも食ってろ。」
白雪「まさか兵糧丸でありんせんでしょうね…?」
傾「兵糧丸もあるが、ただのおにぎりだ。」
ノア「兵糧丸って昨日作ってたやつ?」
傾「ああ。ここらじゃ有名な保存食だ。材料がこの国にしか無いものがあってな。俺としては干し肉よりこちらの方がマシのため、作った。因みにコイツは大嫌いだ。」
傾はそう言いながらおにぎりを頬張っている白雪を指す。
白雪「呼びんした?」
傾「いいや?」
太陽が真上に登る頃、ノアはアリィを起こそうとテントを覗く。
ノア「杏大丈夫?そろそろ起きれそう…?」
アリィ「…ん…うん。だいぶ良くなった。」
ノア「それなら良かった。また倒れられたら面倒だから今日もゆっくり行くって。」
アリィ「…分かった。すぐ準備する。」
ノア「傾、杏起きたよ…ってあれ?」
ノアは後ろを振り返り傾に話しかけるが、肝心の傾は不在だったようで、ノアは肩を竦める。
ノア「ま、いいや。多分ボクの声は拾ってるでしょ。」
アリィ「アイツいないの?」
ノア「うん。でもすぐ戻ってくると思うよ。兎の獣人は耳がいいし。白雪さんとは知り合いみたいだし、2人きりでいてもおかしくないよ。」
アリィ「凄く嫌ってる印象だけどね…。」
傾「今戻った。」
ノア「ほらね。」
アリィ「本当に戻ってくるの早かったね…。…薬、ありがとう。」
傾「ああ。駄目にするより薬も使われた方が本分だろう。獣人の風邪は獣人からしか移らないしな。」
アリィ「そうなの?」
傾「気分が良いから、歩きながらであれば説明してやる。用意はできたか? 」
アリィ「うん。体調も大分いいよ。後はテントを片付けるだけだよ。」
傾「そうか。病に打ち勝ったことは誇るといい。 」
アリィ「ほこ…?」
白雪「傾にとっての褒め言葉でありんす。」
傾「お前が気絶してからはこいつが、幻術というもので俺達を周りから見えなくし、匿っていた。礼を言っておけ。でないと喰われるぞ。」
アリィ&ノア「話題を急に変えた…。」
白雪「んもう!そのような事はしんせん!」
アリィ「ええと…」
ノア「白雪さんだよ。ありがとう助けてくれて。 」
アリィ「ありがとう、シラユキさん。」
白雪「どういたしまして。わっちも久方ぶりに傾と触れ合えて幸せでありんす。では行きんしょう。 」
アリィ「え、一緒に来るの?」
傾「とっとと帰れとは言ってるんだがな…。まぁそのうち飽きるだろう。放っておいて問題ない。」
ノア「移動中は白雪さんの姿が見えないんだよね。不思議。」
傾「白雪、お前もテントを片付けるのを手伝え。」
白雪「わっちにはこれの片付け方が分かりんせんよ。」
傾「一回しか教えん。こちらに来い。」
白雪「主さんには片付け方がわかるんでありんすか?」
傾「じゃない教えようと思えないだろ。」
白雪「…成長したんでありんすね。」
白雪はポツリと呟く。
傾「何年経ったと思っている。」
傾は小さな音を拾い、答えた。
傾「今日行くのは第3休憩所までだ。」
ノア「かなりのんびりだね。」
傾「理由は2つだな。昼からの出発が1つ。もう1つは、第3休憩所から第4休憩所がかなり離れてるからだ。安全地帯が極端に無いと考えた方が良い。村はあるかもしれないが…不確定なものに希望を持つものでは無い。 」
アリィ「第4休憩所のあとは、確かすぐに静葉の町だよね?」
傾「ああ。肝心の零れ月の門は奥まった場所にあるがな。」
白雪「傾。」
どこからともなく白雪は姿を現し、傾に呼びかける。
傾「なんだ。」
白雪「主さんらは、トスク国から出たいのでありんすか?」
ノア「そうだよ。大切な仲間が居て追いかけてるんだ。」
白雪「なら急いでるということ。何故…主さんは風花の地に向かわねぇでありんすか?主さんであれば…」
アリィ「…どういうこと?」
傾「言っておくが、お前らを騙すなぞしていない。白雪、時が経ちすぎてボケたか?…俺にそんな権力はない。寧ろ入れば速攻で殺されるだろうよ。普通に秋月の山に行った方が早い。」
白雪「風花の地に、ヒトと呼べる者はもはやおりんせん。…せめて… 」
白雪が言いかけた言葉を傾は、食い気味に否定する。
傾「俺は二度とあの地には行かない。」
白雪「…そうかい。」
白雪は諦めたのか再び姿を消す。
傾「先程の獣人の風邪についての話だが…」
ノア「今物凄い雰囲気悪そうだったけど、話題変えちゃって大丈夫そ?」
傾「問題ない。今のは喧嘩では無い。…それは奴も分かっているだろう。それで、獣人というのは人間より免疫力が高い特徴にある。 」
アリィ「そうなの?」
傾「ああ。だから人間側の風邪が獣人に移ることは滅多にない。だから獣人同士でしか風邪は移らない。がしかし、それは逆に獣人の風邪が人間に移った場合危険な状態になるということ。アヴィニア人であれば、体の構造に違いがありすぎる故に問題ないが、杏は覚えておくと良い。万が一俺が病に侵された場合は近付かないように。お前は恐らく耐えられないからな。 」
ノア「獣人同士だと君達は大変そうだね。フェニックスにはベツさんもいるし。」
傾「ベツはもう正式なフェニックスのメンバーではないが、当時は苦労した。俺が風邪を引いている時に限って会いたがったからな…。あの我儘娘も、今ではかなり落ち着いた。寂しいくらいだ。 」
アリィ「前から不思議だったんだけど…フェニックスって辞めれるものなの?」
傾「というと?」
アリィ「フェニックスってかなり大事な情報をかなり握ってるでしょ?私なら情報を漏らされるのが怖くて辞めさせられないなって思って。」
ノア「お目付け役なのがカイオスなんじゃない? 」
傾「いやアイツは、ただの手伝いだ。俺達がベツの願いを聞き届けたのはただの信頼だ。ベツと、情報統制を行っている『梟』に対してのだ。」
ノア「性格終わってるけど、君って結構仲間のこと好きだよね。」
傾「これは俺だけの意見だけでなく全員の総意だ。」
アリィ「性格終わってるのは認めるんだ。」
傾「やかましい。」