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それは傾がイニディア村で、のんびり過ごしていた時の話だった。
カイオス「お前いつまでここに居るんだ?手伝ってくれるのは有難いが…」
ベツレヘム「復興もあの二人が手伝ってくれたとはいえ、細かいところはまだまだだからね。」
傾「『鴉』から次の指示が来るまではここで休むかな。正直走り回されすぎて疲れてて…」
カイオス「お疲れ。でも自業自得だぞ?お前また最近リーダーを怒らせただろ?」
傾「ぐうの音も出ない…。」
ベツレヘム「でもテオスのことはアマラに伝えないとじゃない?」
傾「『梟』は今別任務中。砂漠超えするくらいなら、大人しく『梟』の任務が終わるまで待った方がいいでしょ?」
ベツレヘム「確かに…。」
傾「てことで、暫く暇なんだ。カイオス、手合わせしよう。」
カイオス「そんなキラキラな笑顔で言うのが手合わせかよ…。俺は暫く忙しいからやれない。」
傾「それは残念。」
ベツレヘム「私でよければ一緒にやる?」
傾「ベツと?万が一ベツに傷でも付けようものなら、僕は自責で死ぬ。」
ベツレヘム「んもぉ〜。」
カイオス「溺愛しすぎだろ。」
傾「当たり前でしょ??」
カイオス「澄んだ目で…。」
傾「ごめん、席外すね。」
そう言うと、傾は部屋から出る。
傾「何?」
赤い羽根を耳から外し、傾は羽根に向かって問いかける。
鴉「私だよ。鴉だ。『狼牙』に頼みたいことがあってね。」
傾「人違いです〜。」
鴉「あ、ちょ、こら!連絡遮断しないの!」
傾「僕疲れてるんだってば。もう切るね。」
鴉「あ、待って。僕って言った?じゃあベツが居るよね。ベーツー!」
傾「あ、おい!」
ベツレヘム「何ー?リーダーの声が聞こえたけど…」
傾「はあぁ〜…。」
傾は大きなため息をつく。
鴉「久しぶりだね。色々話は積もるけど、今は急いでいるから先に用件を伝えるね。」
ベツレヘム「久しぶりー、それでどうしたの?」
鴉「『狼牙』の説得をして欲しいんだ。聞く耳を持たなくてね。」
ベツレヘム「まーた、喧嘩してるの?」
傾「わかったわかった!大人しく聞く。」
鴉「そうそう、それでいいんだ。急に呼んでごめんね、ベツ。戻って大丈夫だ。」
ベツ「はーい。」
傾「…今度会ったら、その羽毟りとるからな。 」
鴉「おお怖い怖い。でもそんな暴言ばっかり吐いてベツが真似しないといいけど。」
傾「ぐ…。それで用件は?」
鴉「任務だよ。1つ、テオスの保護。2つ、アリィという人物のイドゥン教との接触を防ぐ。」
傾「いや誰?」
鴉「どうやら推定テオスと行動を共にしてるらしくてね。」
傾「…ベツ達と話してたの盗み聞きしてたと。感心しないね。」
鴉「でも知ってるだろう?私の行動には全て意味がある。テオスの事は君達から盗み聞きしていたが、アリィという人物については私の独断だ。その時は対して気にしていなかったんだけれど、ふと思い出してね。」
傾「そんな有名なやんごとなきヒトな訳?」
鴉「まさか。正反対さ。指名手配者だよ。確か悪魔ってことになっていたかな。」
傾「リーダー様は悪魔と思っているのか?」
鴉「ないだろうね。だって言語が私達の知ってる言語らしいから。私の勘はよく当たる。任せたよ。」
傾「待ってくれ、『黒馬』の捜索は?それとテオスのことを『梟』に伝えなきゃいけない。」
鴉「『黒馬』の捜索は私だけで続ける。『梟』 への報告はまたの機会でいいよ。砂漠超えは『梟』だから出来たことだからね。それと…」
傾「?」
鴉「君の羽は、もう後一度きりしか使えない。今後は緊急事態のみにしなさい。」
傾「無駄遣いしてるのはリーダーでしょ…。僕は元々緊急事態にしか使用しない。」
鴉「はは、そうだったそうだった。これだけ念を押して言っておくよ。1人で砂漠は渡らないように。商談に馬車に載せてもらうか、セヌス国方面に港があるからそちらに行くか…」
傾「分かった分かった。」
傾(俺に渡された任務は、何もおかしくはない。…おかしいのは…あのアヴィニア人だ。)
アリィ「急に止まってどうしたの?」
傾「前方からヒトが来る。道を譲る。」
ノア「別方向に同時に渡るにはこの道細いもんね。 」
傾「ああ。」
数秒待つと、向かい側から来た1人の男が細い道を渡ってこちらに来る。
男「ありがとうございます。…御三方は、静葉之町へ? 」
傾「ええ。」
傾は己の胸に片手を置き、丁寧に答える。
男「そうでしたか。いやなに、何やら騒がしくてですね。駐在するイドゥン教の者が多くて、噂では悪魔が出たとか…。それでも赴くというならどうかお気を付けて。」
傾「ご忠告感謝いたします。」
男が去ったのを見届けた後、アリィは傾に話しかける。
アリィ「アンタ敬語とか使えたの…?」
傾「最低限の教養くらいある。あえて使うような趣味は無いが、なんせ獣人とバレたら国家反逆罪と告発されそうだからな。」
ノア「嘘!?そんなことで!?」
傾「命の価値など無いに等しいというところは、悪魔と疑われる者となんら変わらないな。」
アリィ「確かに似てるかもね。」
傾「ところでお前は俺の記憶を覗き、フェニックスの1人だと見抜いた訳だが…前に交渉材料として『羊』の名前を出したな。」
(共に過ごした限りであれば、奴は理由がない限りは素直に答えるだろう。まずは直接聞いてみるとしよう。)
ノア「うん、出したけどそれがどうかしたの? 」
傾「何故俺が『羊』に執着しているのが、分かったのか興味があってな。杏も疑問に思っていただろう?」
アリィ「まぁそれなりには…『羊』つて言うヒトとアンタはどういう関係なんだろうとか。」
傾「試しに当ててみろ。」
ノア「いや難しすぎるでしょ…。無理だって。」
アリィ「やる前から否定…!?」
傾「なら次に出す問題は簡単なものにするとしよう。答えは俺が『羊』を一方的に殺そうしたことがある、だ。 」
アリィ「殺そうとしたって…」
傾「嘘は何も言っていない。が、『羊』の圧勝だった。その強さに惚れた。アレに勝てたらどれだけ格好良いだろうかとな。故にまだ死なれては困るというわけだ。」
アリィ「ちょっと癪だけどアンタも強いのにそれより強いの?」
傾「強いな。が、アレには欠点がある。言うつもりは無いがな。」
(今のでわかった。あのアヴィニア人は俺がフェニックスに入った切っ掛けからの記憶を覗いている。切っ掛けのみを覗くなどないだろう。…何せ、俺はいつ裏切ってもおかしくない。直近まで覗くべきだ。あの短時間でよくもそこまで覗けたものだ。奴は、イドゥン教と接触してはならない理由を恐らく知っている。 )
アリィ「『羊』ってその時からフェニックスのヒト?だとしたらよく入るの許されたね…。」
ノア「『羊』はカイオスのことだよー。指名手配された時用の予備の名前みたいなもの。リスクが高い場所では、 そういった名前を使うんだよ。」
傾「俺は『狼牙』、アマラは『梟』、『鴉』は…奴の本名は俺も知らないな。兎に角、別に俺は許されたわけじゃない。寧ろ許されてないから入ってるようなものだ。『羊』は許したが、『鴉』はかなり怒りを抱いていてな。 」
アリィ「え!?襲われた本人の方が怒るものじゃない!?」
傾「癪だが奇遇だな。俺も少しばかり『羊』はどうかしてると思う。まだ死ぬ訳にはいかない。だから俺はフェニックスに入ったわけだ。でないと今頃、俺は誰も立ち入らない水に沈んだ国の底で眠っていたろう。」
ノア「第3休憩所に着いたみたいだね。」
アリィ「今日は私が見張りをやるよ。2人とも連続で見張りしてくれてるし…」
傾「だとさ。 」
ノア「ううーん…大丈夫?風邪ぶり返さない?」
アリィ「それは気をつけるけど…絶対にとは言えない…」
傾「だろうな。シイシャン、お前が杏と交代で見張れ。」
ノア「分かった。傾は…」
傾「俺は1度休息をとる。が、その前に周りの様子を見てくる。」
ノア「ボク達でやれるよ?」
傾「お前達は簡易的な拠点を作成していろ。」
ノアとアリィを置いていき、傾は2人に姿が見えない場所まで歩みを進める。
白雪「傾。」
太い木の枝に腰掛けた白雪が傾へ声を投げる。
傾「どう思う?」
白雪「主さんになにかあったら、わっちは悲しゅうござりんす。故に調べんしたが…主さんのことを知っているような人物は居んせんでありんした。」
傾「そうか。…ということはあの時から雪兎の獣人の立場は悪化したんだな。」
白雪「主さんのせいでは…」
傾「知っている。悪魔を追跡してるだけの可能性にかけたいところだな。」
白雪「またわっちの幻術は必要でありんすか?」
傾「いいや。俺は逃げ続けるのは性にあわない。ここで仕留める。」
白雪「1人で仕掛けるつもりでありんすか?」
傾「さぁな。白雪、お前はもう用済みだ。とっとと俺達から離れろ。」
白雪「嫌でありんす♡」
傾「はぁ…。」
傾(足音は4人分、暗殺には向いてない人数だな。…隠す必要などないということか。やはり場所はこの付近。1人では不利だな。)
傾「1度戻る。」
傾はそう言い、白雪に目をやる。
傾(動く気はないか。 )
傾は白雪を置いて、アリィ達の元へと戻る。
見れば2人で薪を取ってきていたようで、今から焚き火を起こそうと組み立てているのを見る。
ノア「あ、おかえりー。」
傾「薪を取っていたのか。少なくないか?」
ノア「それが触ってよコレ。」
傾「湿気っているな。これでは燃えない。」
ノア「こんなのばっかで全然見つからなくて。つい最近雨が降ったみたい。」
アリィ「…雨が降ったのは昨日だよ。地面が湿ってるし。」
ノア「でも昨日は降ってなかったよ?」
傾「俺も知らなかったが…白雪は雨を弾くことも出来たのだな。」
ノア「なにそれ凄い。」
アリィ「それはそうとどうしようねこれ。これで火が付いてくれるといいんだけど…なしでいく?」
ノア「ここ寒いし、それはやめた方が…」
傾「薪になるものか。そういえば…ベツから聞いたが再現魔法というもので炎で乾かせないのか?携帯暖火では乾く前に消えるだろうが、魔法は燃料が魔力なのだろう?」
ノア「それだ!」
ノアは早速湿気っている薪を乾かそうと並べる。
傾「杏、場所を変えて話したい。」
アリィ「急にどうしたの?」
傾「場所を変えたら話す。」
アリィは疑心を抱きながらも一先ず、傾に従い白雪とは反対方向、ノアの見えない所まで移動する。
アリィ「それでなに?」
傾「前にイドゥン教の人物が近くに居たと伝えただろう。」
アリィ「…振り切れてなかったの?」
傾「いや、分からないな。別の者かもしれないし増えたのかもしれない。以前それを伝えた時は2人分の会話しか聞こえていなかった。だが今は恐らく4人いる。状況は芳しくない。聞こえた会話の限り今夜に奇襲をこちらに仕掛けるそうだ。」
アリィ「でもなんでばれて…私はずっと食べる時もお面を付けてて、寝る時しか外してないし、シイシャンも…変装する前に見られたとか?」
傾「それは分からないが、これをお前だけに話したのには理由がある。」
アリィ「…そうだろうね。」
傾「十中八九シイシャンは対策されている。奴がたとえシイシャンとして戦えたとして、奴の力には限りがある。」
アリィ「魔法封じの何かはまぁあるだろうね。そうなれば本当の姿が見える懸念も…」
傾「それが1つ目の理由だ。2つ目は恐らく俺も対策されている。 」
アリィ「どういうこと?アンタは悪魔でもなんでもないのに…」
傾「…ある事件を切っ掛けに、兎の獣人とりわけ雪兎の獣人のただでさえ悪かった立場は更に悪くなった。白雪に聞いたが今のこの国ではソレは見つけ次第処分との事だった。なにも難しい話じゃない。協力していてもおかしくはないだろう。俺の対策がされていないという不確定な希望を持つより対策されていると考えた方が良い。故に恐らく対策のされていないお前が居たほうが勝算がある。」
アリィ「私は対策されていない根拠は?」
傾「アヴィニア人とちがって食事で魔力の補給ができる。だか奴らにとって食事の意味は重要では無い。人を食べないそれ即ち人間と思い込んでる可能性が高い。」
アリィ「言いたいことは大体分かった。でも私はそんなに強くないよ。」
傾「アレは使えないのか?前に霧を消したやつ。」
アリィ「アレはどっちかと言うと…魔法特攻だよ。基本的なのは筋力の増強くらい。」
傾「まぁ十分か。これでも食っておくといい。」
アリィ「これってシイシャンから聞いた保存食?」
傾「ああ。白雪を遠ざけたいのであれば、ソレを投げつけると良い。」
アリィ「そんなことしないって!」