テラーノベル
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体育祭から、数日。
キーンコーンカーンコーン
「はぁ〜……やっと授業終わったぁ……」
大きく伸びをする渚。
「体育祭終わった後の授業って、なんでこんなにやる気出ないんだろうね」
「それは元々では?」
紅葉の鋭いツッコミ。
「ひどくない!?」
いつも通りのやりとりに、こはるはくすっと笑った。
窓の外に目を向ける。
空は少しだけ高くなっていて――
夏の終わりを、どこか感じさせていた。
「えっと……月城さんいますか?」
知らない生徒に呼ばれた。
リボンの色を見る。
どうやら一年生のようだ。
「あ、はい。私です」
こはるを呼んだ生徒の元へと歩くこはる。
「その……校門のところで……妹さん……なのかな?が呼んでました。」
「……え?」
思わず、聞き返す。
「こはる妹いたんだ」
「知らなかった。親と一緒に海外にいってたとか?」
後ろで渚達がざわざわしている。
「これくらいの身長で髪が長い子」
「……」
そんな人、いたはずがないのに。
「ありがとうございます」
小さく頭を下げ、教室を出る。
⸻
廊下を歩く。
足音だけが、やけに響く。
(……妹……?)
胸の奥に、小さな違和感。
校門へ向かう。
少しずつ、周りの声が遠くなっていく。
校門には小さな人影が………
「……こはるおねぇちゃん♡」
「……っ」
足が止まる。
ゆっくりと、振り返る。
そこにいたのは、
見慣れた、小さな少女が、にこりと笑っていた。
「……て、天ちゃん……!?」
⸻
「久しぶりじゃの」
「な、な、なんでここに……!?」
服装はカジュアルな服になっているが……
月の城で見たままの姿の帝釈天……
思わず声が大きくなる。
「しー……」
唇に指を当てる帝釈天。
「……あ、すみません」
慌てて口を押さえるこはる。
「……えっと……」
周りを見回す。
まだ、帰っていない生徒もいる。
「……あとは帰りのHRだけなので、少し待っててください!」
「うむ」
満足げに頷く帝釈天。
こはるは一度お辞儀をし、走って校舎へと戻っていった。
⸻
教室に戻るこはる
「おかえりーこはる妹いたんだ!知らなかったよ!」
「あ、いえ、そのー妹ではなくてですね……」
「ん?」
頭を傾げる渚達。
「い、従姉妹なんです!」
「へぇ〜……」
「でもこはるも、急に学校にこられたらびっくりしちゃうよね。大丈夫だったの?」
「あ、はい!ちょっと今日はHR終わったらお先にしつれいしますね!」
そんな話をしているうちに、HRが始まった。
⸻
チリン
「待たせました!」
HR後、急いで校門へ向かうこはる。
「相変わらず忙しないのう」
くすっと笑う帝釈天。
「とりあえず……場所を変えましょうか」
「そうじゃな」
近くの喫茶店。
カラン、とベルの音が鳴る。
「いらっしゃいませー」
「へぇ……今はこういう場所もあるのじゃな」
興味深そうに辺りを見回す天ちゃん。
「普通の喫茶店ですよ」
くすりと笑うこはる。
案内された席に着く2人。
「何にしますか?」
「う〜む……甘いものがよいのう」
「……変わってないですね」
しばらくして運ばれてくるうさぎ形をしたバニーケーキ。
「……おぉ」
目を輝かせる天ちゃん。
「なんじゃこれは!うさぎなのか!?」
「そもそも食べられるのか?!!」
「それはそれは……実にもったいない……♪」
そう言いながらも次々と口にケーキを運んでいった。
「……」
その様子を見たこはるも、
つられるように笑って、ケーキを食べ始めた。
⸻
「どうじゃ、地上は」
スプーンを動かしながら、帝釈天が言う。
「……楽しいです」
少しだけ、迷うように。
「すごく」
少しだけ間を置いて、答える。
「みんな優しくて……毎日があっという間で」
「そうか」
小さく頷く。
「ちゃんとやっておるようじゃな」
フォークでケーキを食べ、慣れた手つきでカップの紅茶を飲むこはる。
「所作も問題なさそうじゃな」
こはるの動作を見て、帝釈天は優しく微笑んだ。
「……それは」
少しだけ、照れる。
「ちゃんと修行しておいて良かったじゃろ?」
「……はい」
顔が真っ赤になっていた。
⸻
「妾もな」
ふっと、息を吐くように。
「……はるか昔、一度だけ地上に来た事があっての」
「……そうなんですか?」
「本当に……久しぶりの地上じゃな」
そう言って、少しだけ寂しそうに紅茶を口に含む。
「……それでだ」
「え……?」
「少しばかり、楽しもうと思ってな」
にやりと笑う帝釈天。
スプーンをくるくると回しながら、
「こはると、月見でもしようと思ってな」
「月見、ですか?」
「今はちょうどその時期なのじゃろう?」
「十五夜……ですか?」
小さく頷く。
「明日は満月じゃ」
そう言って窓の外を見る。
……渚がこちらをのぞいていた。
⸻
「あ〜、こはるじゃん!急いでたからもう帰ったのかと思ったよ!」
そう言いながら隣のテーブルに座り始める渚。
「あ、その子が学校に来てた従姉妹?」
そう言って紅葉も手を振りながらテーブルに着く。
まさかの遭遇に、こはるはびっくりしていた。
「いや〜雪斗君がバニーケーキをどうしても食べたいって言うからね……みんなで仕方な〜く来たってわけよ」
「言ってねぇよ」
そう言いながらも2人も席についた。
「んで、こんなとこで何してんの?」
「えっと……」
一瞬だけ迷う。
「えっと……初めまして!わたしはこはるお姉ちゃんの従姉妹の、月城天音です♪」
「天の音と書いて天音と言います♡天の漢字から、昔から天ちゃんってこはるお姉ちゃんから呼ばれているので、皆さんもぜひそう呼んでください♡」
そう言って座りながらも軽く会釈をする天ちゃん。
「そ、そ、そ、そうなんですよ〜。久しぶりに会いに来てくれたので、ちょっとおしゃべりをしていたところでして…」
明らかに動揺しているこはる。
みかねてこはるの脛を軽く蹴飛ばす天ちゃん。
「………いっ!!」
「久しぶりに会いたくなっちゃって♪そしたらここを案内してくれたんです!ここのケーキ美味しいですよね♡」
「あぁ!そういうこと!」
「お、天ちゃんもバニーケーキ食べてたんだ!これ美味しいよね。ね!雪斗!」
「なんで俺に振るんだよ……」
みんながいつもの感じに戻って一安心のこはる。
視界の端に映った帝釈天が、
ほんの一瞬だけ、釘を刺すような視線を向けていた気がした。
が……
気づかないふりをすることにした。
「あ、でもごめん。迷惑じゃなかった?2人で話してたのに。」
みんなの分のオーダーを終えた紅葉がこはるに向き直す。
「…ぜ…全然大丈夫ですよ!」
「そろそろ十五夜ですし、こはるお姉ちゃんとお月見でもしたいですよね!って話をしてたんです♪」
「それなら良かった」
柔らかく微笑む紅葉。
「ん?月見?」
陽向が雪斗の方を見る。
雪斗は視線を不自然に逸らしていた。
「だってよ雪斗」
ニヤニヤしながら陽向が雪斗の肩をつつく。
それに気づいた渚も
「あ〜、確かに久しぶりだしねぇ♪」
同じようにニヤニヤしながら雪斗の方を見ていた。
こはる、天ちゃん、紅葉の3人が首を傾げていると……
「雪斗のお母さん、そうイベントとか祭り事好きなんだよね」
「そうそう、おばさんそう言うの好きだから、やるってなると結構張り切るタイプなんだよ(笑)」
「月見も小学校の頃は良くやってたし、久々にやってもいいんじゃない?ねぇ雪斗くぅん♡」
そう言いながら絡んでいく陽向と渚。
「え!」
「いいんですか!?」
目を輝かせるこはると天ちゃん。
「まだやるとも言ってないけどね。」
ボソリと突っ込む紅葉。
「…………」
頭を掻きむしる雪斗。
観念したかのようにため息をつく。
「……わかったよ、一応聞いてみるよ……」
「「おおー!やったー!」」
各々が盛り上がる中、1人肩を落とす雪斗。
そんな彼を見た紅葉がこはるに何かを耳打ちをする
「え?………わかりました。」
耳打ちが終わると、耳を赤くしたこはるがゆっくりと雪斗の方に身体を近づける。
そして……
「雪斗くん……」
テーブルの上の雪斗の手を両手で包み込む。
「!?!?」
突然の出来事にびっくりし、顔を上げる雪斗。
そんな雪斗の目を見て……
「……いつもありがとうございます」
「………い、一応大丈夫だとは思うけど、ダメだったとしても文句言うなよ!!」
顔が真っ赤な2人を見て笑いを堪える紅葉達。
「……ほぅ」
そんな様子を見て、小さく笑う帝釈天であった。
⸻
その後、
母親に連絡をした雪斗。
返事はもちろんOK
明日。
雪斗の家で、月見をすることになった。
⸻
店を出る。
夕暮れの空。
少しだけ丸くなった月が、
静かに浮かんでいた。
「お兄ちゃん達!今日はありがとう!明日楽しみにしてるね♪!」
大きく手を振り、雪斗達と別れたこはると天ちゃん。
「……」
こはるは、何も言わずに空を見上げていた。
「ふぅ……」
「天ちゃん……凄いですね……」
「何がじゃ?」
「いや……キャラというか何というか……」
「まぁ……年の功というやつかの……」
「クスッ」
「逆にお主が馬鹿正直すぎるのじゃ」
「………はい。」
「こっちまでヒヤヒヤしたわい」
「……すみません……」
その反応を見て、優しく笑う帝釈天。
「それでは――妾はこの辺りで失礼するかの」
「え?」
「明日の夜、月見が終わったら妾も月へ帰る。その前に少しやりたいこともあるからの」
「月へ……?」
「それじゃ、また明日」
そう言った次の瞬間、
目の前から帝釈天の姿が消えていた。
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