フロントに立つ華の顔は、どこか硬かった。
笑顔を作ろうとしても、胸の奥に残る父の声が邪魔をする。
『無駄なことに時間を割くな』
その言葉が何度も頭の中で反響した。
「……いらっしゃいませ」
宿泊客に声をかけるが、声はわずかに震えていた。
そんな華の様子に、律はすぐに気づいた。
書類を整理する手を止め、横目で彼女を見やる。
(……また、何かあったな)
普段なら明るく振る舞おうとする華が、今日はまるで影を落としたように見えた。
律は胸の奥に小さなざわめきを覚えながら、静かに彼女の横顔を見つめ続けた。
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