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9 ◇秘密
―― 匠平視点 ――
あの日、何があったのか圭子に言いつけてやると淳子が脅してきたあの日とは……
妻が娘を連れて実家から戻って来た前日のことになる。
淳子に頼まれて電球を替えるため、彼女の部屋を訪れた日のこと。
翌日帰宅した妻の顔を見ると何とも言えない気持ちになった。
前日のことを圭子に話しておくべきか、否か。
あの直後から、困ったことになったという思いは消えず、随分と悩んだ。
だが、男の自分が小泉淳子を襲うことはあっても、
淳子から自分が襲われたなどと誰が信じるだろうか。
ちゃんと説明したとして、最後まで落ち着いて俺の話を妻は聞いてくれるだろうか。
説明の途中の事象に触れた時点で早合点をし、興奮してしまうおそれがあり、
そもそもちゃんと公平にジャッジできる状態で聞けるだろうか。
予測されるのは俺への非難ばかりになりそうで、それを鑑みてみると、
とても話す気にはなれなかった。
ひとまずは淳子の様子見してからでも遅くないかもしれないと考え、妻に話すことは
なんとか踏みとどまっていたわけだが。
相手を宥めるために彼女の家へ出向くというのは、一番の悪手に違いないことは、明らかだ。
……となると、どちらにせよ遅かれ早かれ圭子の耳にあの日のことが
入ってしまうだろう。
黙っていればそれこそ、あの女にどんなふうに話をされるか
たまったものではない。
近日中に折を見て自分から圭子にことの顛末を話すしかないだろう。
そう、匠平は腹を括った。
10 ◇そもそもの発端
そもそもどうしてそのような状況になったかというと、発端は彼女、小泉淳子の
来訪からだった。
あの日……俺は土砂降りの雨の中スーツを濡らしたまま帰宅し、身体をタオルで拭き、
着替えを済ませたところで小泉淳子の訪問を受けたのだった。
妻の圭子は義母が体調を崩していて、介護のため実家へ帰っており自宅には
いなかった。
彼女の申し出というのは、申し訳ないが電球の玉を替えてほしい、という
ものだった。
そもそもこんな時間に非常識だとは思いつつ、妻の学生時代の先輩ということで
断るわけにもいかず、疲れた身体で彼女と一緒に部屋へ向かった。
電球の取り替え自体はすぐに終わった。
それで帰ろうとすると
『お食事もまだのところをお願いごとをしてしまい、申し訳ありません。
いただきもののトロの刺身があるので召し上がっていってください』
と提案を受けた。
一度は辞したのだが、多過ぎて困っていると言われ、それならと呼ばれた。
そして食後、お礼にとマッサージを勧められた。
予想もしていなかった申し出に一瞬躊躇したものの、ただの社交辞令とも思えないような
積極的な申し出だったため、拒否もできずなし崩し的にマッサージを受けることになった。
彼女は妻の学生時代の部活の先輩で、昨年7階に住む我が家の同じマンションの
2階に引っ越しして来て以来の付き合いになる。
付き合いといっても、自分は妻繋がりで面識があるだけ。
たまに合うと、挨拶を交わす程度の関係だったのだ。
俺は勧められるままアロママッサージサロンとして使われている部屋の一室で
施術台に乗り、促されるままうつぶせ寝になった。
11 ◇自宅でマッサージ
しなやかな手が、うつ伏せになっている俺の首筋から肩へと滑らかに滑り、
マッサージが施こされていく。
一日の仕事終わりのあとのこと、たまらなく気持ちいい。
その肩に降りてきた指先は次に肩甲骨でしばらく留まり指圧を繰り返される。
そのあと、上腕二頭筋、上腕三頭筋から腕橈骨筋へと降りてきて、
力の入ったマッサージを両腕に受ける。
そこにしばらく時間を掛けたあと、背中にも力を入れて指圧される。
『あーっ、天国に行きそうだ。
ここが自分の部屋だったならどれほどよかったろう』
などと思うほど気持ちよく、本当に自室じゃないことが残念だった。
自宅の寝室であったなら、そのまま眠ることができたからである。
そんなふうに考えながらも天国への階段を駆け上がろうとしていると、今度は
腰辺りで動いていた指先が、尻の割れ目付近すれすれまでやってきた。
そしてその手は、尻のすぐ下の太腿へと移動した。
あぁ、何という気持ちよさ。
多少の快感の混じる心地よさを感じながら、このまま両足首の辺りまで丹念に
施術されるのだと思い、肩から力を抜いて先程の天国の階段を続けて上ろうとしたのだが……。
「加納さん、もっと気持ちよくしますから、はいー、上向いてください」
と声が掛かる。
『いやぁ~、このまま続けてほしいのですが……』とも言えず、天国の階段で
足踏みしたところで俺は嫌々上を向いた。目は瞑ったままで。
すると、彼女の指先は素早く器用に、脚の付け根の溝の円側にある三角形状の下腹部分である
鼠径部を縦斜めのライン上10cm前後に指を移動させながら微妙な力加減でリンパマッサージ
と称して押し始めた。
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