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「ハァ……ハァ……、待ちやがれ、キッド……!」
重い鉄扉を勢いよく押し開け、工藤新一は東都美術館の屋上へと飛び出した。息を切らす新一の目に飛び込んできたのは、満月の光を背に浴びて、すでにハンググライダーの白い翼を大きく広げている怪盗の後ろ姿だった。
今夜のお目当てだったビッグジュエルは、すでにその白い手袋の中に収まっている。
「おやおや、お遅いお着きですね、名探偵? 楽しみにしていたあなたとの知恵比べ、今夜は私の不戦勝のようです」
キッドは振り返り、シルクハットの奥の瞳を悪戯っぽく細めた。
「くそっ……! 待てってんだ!」
新一が捕まえようと一歩踏み出した瞬間、キッドは白いマントを美しく翻し、ふわりと防護フェンスの上に飛び乗った。
「おっと、そこでお止まりなさい。追ってくるよりも、そこの『今夜の仕掛けの種明かし』を回収する方が、探偵のあなたにとっては有意義だと思いますよ?」
キッドが手袋をはめた指先でツンと指差した先――屋上の給水タンクの根元に、一通の鮮やかな青い封筒が落ちていた。
「種明かしだと……?」
新一がほんの一瞬、その封筒に視線を奪われた隙だった。
「では、また次の舞台で。愛しい名探偵」
キッドは不敵にニヤリと笑うと、そのまま夜空へと鮮やかに身を投げた。白い翼が風を捉え、あっという間に満月の海へと溶けていく。
「あ、おい……っ、待ちやがれ!」
空中へ消えていく白い影を悔しそうに見送った後、新一は盛大に舌を打って、床に落ちた青い封筒を拾い上げた。
「舐めやがって……。どんなトリックを使ったか、秒で暴いてやるよ」
すぐにでも鼻を明かしてやると息巻き、封を乱暴に千切り、中の便箋を開く。しかし、そこに書かれていたのは、暗号でもトリックの解説でもなかった。月光に浮かび上がったのは、キッドのサインとともに、情熱的で恥ずかしいほどストレートな「愛の手紙」だった。
『親愛なる名探偵へ。
今夜はゆっくり知恵比べができなくてごめんね。
でも、どうしてもお前に伝えておきたいことがあって、この手紙を残します。
風の噂で聞いたよ。お前がいつだったかの夕暮れ、誰もいない教室で、俺のことを「最高の相棒(パートナー)」だとか、「あいつと頭脳戦をやってるときが一番生きてる実感が湧く」なんて言ってくれたんだって?
……ずるいよ、名探偵。そんな可愛いこと、俺のいない場所で言わないでくれ。
実は俺も、お前と同じなんだ。夜の闇の中で、お前の鋭い視線に射抜かれるたび、俺の心臓は狂ったように跳ね上がっている。お前が仕掛けるトラップを切り抜ける瞬間、世界で一番贅沢なスリルに、俺の脳は震えてる。
お前が俺に執着してくれることが、嬉しくてたまらないんだ。泥棒という仮面を被っている以上、俺はお前と光と影だ。だけど、お前が「いつか仮面を剥ぎ取ったその時は、一生俺の隣に繋ぎ止めておきたい」と願ってくれるなら、俺は喜んでお前の鎖に繋がれよう。俺はお前に捕まるその日を、誰よりも心待ちにしている。
世界中の誰よりも、お前を愛しているよ、俺の可愛い名探偵。』
「――――――――――は!?」
読み進めるうちに、新一の思考は完全にフリーズした。そして、最後の数行に目を通した瞬間。ボォッ、と音がしそうなほどの勢いで、新一の顔が髪の毛の生え際まで真っ赤に染まった。
「な……っ、ななな、何言ってんだこいつ……!? 誰が可愛いだ、誰が……ッ!!」
脳裏に、あの夕暮れの教室の記憶が鮮明にフラッシュバックする。
黒羽の前だからと完全に油断して、キッドへの熱い執着をノンストップで語り尽くした、あの気恥ずかしい時間。
(な、なんでキッドがあれを知ってるんだ!? 誰か教室に盗聴器でも仕掛けてたのか!? 恥ずかしすぎる、死にたい……!!)
正体が目の前の同級生・黒羽快斗だとは1ミリも気づかないまま、新一はただただ「自分の痛い妄想のような本音をキッドに知られ、しかもキッドからそれ以上の熱烈な告白を返された」という事実に完全にノックアウトされていた。
「う、嘘だろ……あいつ、全部知ってて、しかもあんな……っ」
新一は両手で顔を覆い、その場にへなへなとへたり込んだ。あまりの恥ずかしさと衝撃に、自慢の脳細胞が完全にショートしている。
――その様子を、すぐ上の時計塔の陰から、ハンググライダーを素早く畳んだ快斗がじっと見下ろしていた。
「ぶっ、はは……っ! やべぇ、想像以上のいいリアクション……!」
快斗は自分の口を手でギュッと押さえ、屋根の上で必死に笑いを堪えていた。肩を小刻みに震わせながら、望遠鏡越しに、耳まで真っ赤にして悶絶している愛しい探偵の姿をこれでもかと瞳に焼き付ける。
(「誰から聞いたんだ!?」ってパニックになってるな、あの名探偵。俺本人の前で全部お前が言ったんだよ、バーカ!)
正体は絶対に明かさない。けれど、あの放課後に無自覚な爆弾を落としていった探偵への、これ以上ない完璧なリベンジだった。
「待ってろよ、新一。いつかお前に捕まってやるから、それまでもっと俺に溺れろよ」
快斗は妖しく微笑むと、手紙を握りしめて頭を抱えている探偵を愛おしそうに見つめた後、今度こそ本当に、夜の闇へと静かに溶けていった。
コメント
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第5話、読みました…!💌 キッドからのまさかの“愛の手紙”、あのクールな名探偵が真っ赤になってパニックになるの、めちゃくちゃツボでした😂 お互いに知らないところで執着し合ってるのがもう…尊すぎて言葉にならないです。快斗がこっそり見下ろしてニヤニヤしてるシーン、最高でした。続きが気になりすぎる…! 作者さんの手腕、本当に素敵です🖤