◻︎雪平さんからのお誘い
「うーん、書き出しが決まらないっ!」
秘密基地でスマホで小説を書こうと、登録はしてみた。
が、先へ進まない。
なんとなく書きたいことはあるんだけど、まとまらない。
コンコンコン!
「ねぇ、ちょっとお茶しない?美味しいワッフル買ってきたから」
「いいねぇ!ちょうど煮詰まってたとこ」
煮詰まるも何も、まだ書き出してもいないのだけど。
ベランダのテーブルには、ガラスの皿に盛られたフルーツたっぷりワッフルと、あったかいコーヒーがあった。
ベンチには礼子が座ったから、私はハンモックに腰掛ける。
「はぁーーーっ!風が気持ちいい」
さっきまで部屋で縮こまっていた体を伸ばした。
「ここは高台だし、そのうえ3階だから眺めもいいし、空気も綺麗な気がするよね?」
「うん、家だとこの感じは味わえないよ」
秘密基地は秘密のままで、家族の誰も知らない。
昼間は誰もいないから、当たり前といえばそうだけど。
「で?小説の方は?」
「まだ始まってもないよ、書きたいことはあるんだよ。ギラギラしてない穏やかな大人の恋…なんだけどね」
「主人公は美和子自身でいいとして、相手になりそうな人は?」
ふんわりワッフルを半分、大きな口に放り込む。
「美味しい!!フルーツたっぷりがいいね」
「ごまかさないの!いるんでしょ?いい感じの人が」
「なんでわかるの?」
「なんか、最近スマホを持ってため息ついてることが多くなったから。それって小説を書きたいからというより、誰かのことを考えてるように見えたんだよね」
「鋭いっ!礼子。そうなの、この前知り合った人でね…、雪平大樹って名前、わからない?」
「雪平…ドラマ?」
「ちがうっ!ケーブルテレビのニュースって、見てない?あ、でも少し前までだけど」
「あー、なんかそんな人いたね、ニュース読む人」
「そう!その人と知り合って連絡先を交換したのっ!」
「いつのまに?」
それから私は、居酒屋で知り合って小説の相談をしたことを話した。
「それは、わかる、美和子の好きそうな人だわ。清潔感と頭が良さそうなとこ、でしょ?」
「見た目もいいわよ、ナイスミドルだよ」
「あ、私は若い方がいいから、どっちかっていうとその銀行マンの方が気になるけど」
「あ、そうですかぁ」
あの後、ごちそうさまでしたとメッセージを送った。
それから少しやり取りをした。
来週、講演会をやるので来ませんか?とお誘いまで受けて、行こうかどうしようかずっと考えていた。
「そのまま、書いてみたら?」
「え?」
「出会いから、その後も。名前と設定を変えてさ。その方が書きやすいと思うよ。感情移入しやすいだろうし」
「なるほど!いいこと聞いた。どこから書こうかな?」
私はスマホを出して、メモにプロットを書いていくことにした。
そして、講演会に行きますと返事をした。
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