最初は、ただ寂しかっただけだった。
小さな声で「助けて」と言った夜、
携帯の画面は真っ暗で、通知は一つも光らなかった。
息をしているのに、空気が重くて苦しかった。
部屋の隅に置いた時計の音だけが、生きている証みたいに響いていた。
誰かが来てくれると思っていた。
でも、来なかった。
次第に、声を出しても何も起きない日が続く。
涙を流しても、誰にも見つけてもらえない。
まるで、自分の存在が薄く透けていくようだった。
朝になっても太陽が冷たく感じた。
窓を開けても風は通り抜けるだけで、
「おはよう」と言っても、誰も返さない。
“世界”が、彼女のことを忘れ始めていた。
そして、ある夜。
彼女は机の上に小さなメモを残した。
『ごめんなさい、頑張れなかった』
それだけ。
翌朝、その部屋に光が差し込んだ時、
もう彼女の姿はどこにもなかった。
机の上のメモだけが、かすかに震える風に揺れていた。
誰も気づかない。
誰も探さない。
学校では空席のまま時間が過ぎ、
誰かがふと「そういえば、あの子最近見ないね」と呟く。
その声も、すぐに忘れられた。
やがて、メモも色褪せて、
埃にまみれて、読めなくなった。
それでも、最後の一行だけは――
まだ残っていた。
『どうか、誰かが生きていてくれますように。』
世界は静かだった。
彼女のいない朝は、いつも通りに始まり、
いつも通りに終わった。
何も変わらない。
何一つ。
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