渡辺ver.
 最初に出会った時から、もう、逃げられなかったんだと思う
 社会人3年目に入るタイミングで転勤になって引っ越した先のマンションは、部屋は広くて快適なものの、ワンフロアに2部屋だけという少し変わったマンションだった
隣人が変な人じゃないといいな、と思いながら引っ越し業者が帰った後の部屋を片付けていた
少し陽が傾いてきて、電気の取り付けをしてもらい忘れたことに気づき、脚立に登って設置しようとするも、前の家よりも天井が高くて微妙に届かない
「まじかよ…どうしよ」
1人絶望を感じているとチャイムが鳴った
外玄関ではなく部屋の前の呼び鈴だ
そっと扉をあけてみると、スーツを着こなした爽やかな長身の男が立っていた
ざっと見積もっても180cmはゆうに超えているだろう
「こんばんは。隣の部屋の目黒です。これ落としてませんか?」
そう言われて手元を見ると、作業途中に落ちたのか、何かの部品らしきものが乗っていた
「あ!すみません!わざわざありがとうございます」
「今日、引っ越してきた渡辺です。よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
にこっと笑い返されて、つい見惚れてしまうほどのイケメンだ
「じゃあ、また」
「はい、ありがとうございました」
すっと立ち去ろうとする長身を見上げて、あ、と思って思わず引き留めてしまった
「あ、あの!いきなりで申し訳ないんですけど、お願いがあって…」
 咄嗟に声をかけてしまってから、しまったと思ったものの、目黒さんは優しい笑顔で快諾してくれた
「よし、これで付くんじゃないかな?」
電気の設置をしてくれた目黒さんが、そう言いながら脚立から降りる
試しに電気のスイッチを入れると部屋の中が煌々と照らされた
「ほんとにありがとうございます!すみません、お仕事終わりなのにこんなお願いをしてしまって…」
「いいんですよ、これくらい。これからお隣さんですし、困った時には助け合わないと」
「いや、でも初対面でいきなり…すみませんでした」
「もういいですから。渡辺さんは…学生さん?」
「…いや、今年で社会人3年目です…」
「あ、そうなんですね。若く見えたから、ごめんね」
「いえ!目黒さんは大人っぽいですよね」
「俺は今年で30歳、8年目になるかな?」
「じゃあ5つお兄さんなんですね」
「ふふ、お兄さんて照れるね。他に何か手伝うことはない?」
「いや!もう!大丈夫です!十分すぎます!」
「そう?じゃあ残りの作業もがんばってね」
そう言って目黒さんは自分の部屋に帰って行った
 
 
コメント
1件
あら?新作?😳楽しみ💙