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 あれから目黒さんとは、たまにエレベーターで一緒になったりして世間話を交わすくらいには仲良くなれた
大手企業の営業さんらしく、いつ出会っても前髪をセットしてビシッとスーツを着ていて格好良かった
5つも下の俺にもフランクに話しかけてくれて、目黒さんに会えた日は少しテンションが上がった
 新しい職場にも徐々に慣れて生活のリズムも掴めてきた頃、突然のゲリラ豪雨に見舞われた日のことだった
幸い傘を持ってはいたものの、折りたたみ傘だから少々頼りなく、小走りで駅から家まで向かう
マンションの共用玄関にたどり着くと、誰かが座り込んでいた
ちょっと警戒しながら近づくと、聞き慣れた声が耳に届いた
「あ、渡辺くん。お帰りなさい」
「え、目黒さん?どうしたんですか?」
「いやぁ、家の鍵が後輩のとよく似ててねぇ。うっかり間違って持って帰っちゃったみたいで。今向かってくれてるんだけど、しばらくかかりそうなんだよね」
そう言う目黒さんは雨に降られたのか、びしょ濡れだ
「え、びしょ濡れじゃないですか!風邪ひいちゃいますよ!俺の家で雨宿りしていってください!」
「そんなの悪いよー」
「困った時はお互い様って言ったの目黒さんじゃないですか、ほら、行きましょう!」
目黒さんの腕を取って立ち上がらせて、引っ張っていく
エレベーターに乗ったところで、腕を掴んだままなのに気づいて慌てて離す
「あ!ごめんなさい!」
「ふふ、いいよ、ありがとうね。正直ちょっと寒くなってきてたから助かるよ」
柔らかな笑顔を向けられて耳が熱くなる
ちょうどエレベーターが着いたから、隠すようにして急いで玄関の扉を開けて、半ば無理やりお風呂場に押し込む
「ちょっと小さいかもしれませんが、着替えは用意しておくので!」
 「あがったよ。ありがとう、ほんとに」
お風呂から上がった目黒さんは、いつもしっかりとセットしている前髪を下ろしていた
前髪越しに瞳が見えるのがセクシーで、 思わず見惚れてしまう
「ん?どした?」
「いや、前髪、新鮮だなと思って…」
「あぁ、いつも上げてるもんね。ふふ、ドキッとしちゃった?」
「………っ!……はい」
「え、冗談だったんだけど。ふふ、渡辺くんはかわいいね」
「っ!からかわないでくださいっ」
「ごめんごめん」
頭を撫でられて顔が上げられない
「今度さ、今日のお礼させてよ。うちにご飯食べにおいで」
「えっ!そんな、いいですよ!大したことじゃないし!」
「美味しいワイン貰ったんだ。渡辺くんはお酒は?」
「強くはないです。少しだけなら」
「じゃあ、決まり」
「でも…!」
「んー、そうだな、じゃあ、俺が渡辺くんと仲良くなりたいから来てくれない?」
「……っ!…わかりました」
笑顔でそう誘われては、断ることなんてできない
「よかった。そうだ、日程も合わせたいし、連絡先教えてくれない?」
「あ、はい」
「へぇ、翔太くんって言うんだ。いいじゃん、これからは名前で呼ぶね」
「あ、はい…お好きなように…」
「翔太くんも俺のこと、名前で呼んでよ」
「え、あ、……れんさん?」
「うん。嬉しい」
「………っ」
特大の笑顔は心臓に悪い
「あ、後輩がもうすぐ着くみたい。今日は本当にありがとうね」
「いえ、風邪ひかないようにしてください」
「うん、また連絡するね」
ひらひらと手を振り出ていく目黒さん…蓮さんを見送る
 「連絡先交換しちゃった…それに、翔太くんって……」
俺はしばらく玄関を見つめてぼーっとしてた