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◻︎鍵?
ホウキで、綿埃ごとそのキラリと光ったものを掃き出す。それは小さな鍵だった。
___なんの鍵だろう?
住居や乗り物の鍵ではない。小さくてそんなに頑丈そうなものじゃない。例えたら、ロッカーか机の引き出しくらいの、それも安物の鍵。思い返してみても、心当たりはない。
___子どもたちのものかな?
埃を払って、ポケットに入れた。あとで確認してみよう。
書けなくなったペン類がほとんどで、書けるものは6本しかなかった。ボールペンとサインペンとシャーペンと弔辞用の筆ペンだった。普段から使わないものは、いつのまにか使えなくなってるんだなぁと思う。
「人間と同じかも?」
思わず心の声が漏れた。
「え?何が?」
「あ、なんていうか、普段から使わないと知らないうちに使えなくなるもんなんだと思ったんだよね。それってさ、人間と同じかもって。脳も筋肉も普段から使ってないと、気がついたら使えなくなってる……と思って」
「怖いこと言うね、涼子ちゃん。じゃあいつも頭も体も使うようにしないとね。ということで、壁の色はこれでいい?天井はこれでさ。決めたら手伝ってね。普段から使わないと、でしょ?」
なんだかうまく光太郎に丸め込まれたようだけど。
「うん、やれることはやるよ」
まとめたゴミを廊下に出した。まだまだいろんな物が、こうやって捨てることになりそうだ。
「本当に仲がいいんですね、羨ましいですよ」
「特別仲がいいとは思いませんけど。本村さんのとこはこんな感じじゃないんですか?」
「うちは、僕が退職する前からパートの時間を延ばしましてね、できるだけ僕と顔を合わせたくないそうです。それもあって料理教室なんて入ったんですが」
「それならうちも似たようなもんだ、ね?涼子ちゃん」
そうだった、私が“自分のことは自分でできるようにしてくれないと離婚する”と言ったからだった。
「うん、そうそう。うちも似てるね、私が自分のことはやってって言ったからだもんね」
「そうなんですか!どこも同じか。僕は定年退職したら、夫婦であちこち出かけたりすると思ってたんですけど、嫁さんは違ったんですよ。誘ったら嫌がられました」
「私もその口です」
あははと笑い合う。無意識にポケットに手を入れたら、さっき拾った鍵が指先に触れた。
「ね、光太郎さん、これ見覚えある?さっきテレビの裏で見つけたんだけど」
キッチンの設計図のようなものを書いていた光太郎の目の前に、その小さな鍵を出した。
「あっ!それ、僕のだ。ずっと前に失くして諦めてたんだよ」
私の手から鍵を受け取ると、しげしげと確認している。
「うん、間違いない」
「何の鍵?」
「えっと……宝箱?」
「へ?」
「まぁ、いいじゃん、僕には大切なものだけど、涼子ちゃんにとっては、いらないものだよ、きっと」
説明になってないセリフを残して、またキッチンに戻って行った。
「えー、なんのこと?教えてよ」
返事はなかった。