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美咲が尋ね、麻里が落ち着いた口調で答える。
「あなたはそれでいいの? 子どもはどうするの? あなたたちの間に子どもが生まれたら、近親結婚で生まれる子どもになるんじゃないの?」
「それで条件を付けるんです。武司さんと結婚はするし、子どもも出来れば作ります。ただし、子どもは第三者からの精子提供で産ませて下さい」
麗子と美咲は思わず「あっ!」と声を上げた。
「麗子さん、アメリカの精子提供元を紹介して下さい。出来るだけ武司さんと似たタイプのアジア系の人の精子を探して欲しいんです」
麻里のその言葉に麗子は、茫然とした表情で、しかしゆっくりうなずいた。
麻里の父親がたまりかねて口をはさんだ。
「武司君、君はそれでいいのかね? 生まれて来るのは君の子じゃない、そういう事になるのだろう?」
武司は数秒、じっと目を閉じて考え込んだ後、きっぱりと答えた。
「それで麻里ちゃんと結婚できるのなら、僕はかまいません。僕だって昔そうやって生まれて来たんだし。僕の方が不妊手術を受けますよ。パイプカットってやつを」
「麻里、本当におまえはそれでいいのか? 愛する男性の血を引いていない子どもを育てられるのか?」
麻里は決然とした口調で父親に言う。
「あたしたちは遺伝子やDNAの入れ物じゃない。人間よ。生殖医療のせいで、こういう関係になってしまったのなら、同じ生殖医療で乗り越えて見せる。家族の絆は遺伝子で決まる物じゃないはずよ」