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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第71話 〚ねじれた噂の広がり〛(周囲/澪視点)
その噂は、
澪が知らない場所から始まった。
——中学二年生の教室。
「なあ、聞いた?」
「朝、三年の女子にずっと後ろ歩かれてたらしい」
昼休み、机を囲んだ数人がひそひそ声で話す。
「え、ストーカー?」
「怖くね?」
話の中心には、
朝逃げるように走ったあの男子がいた。
「追いかけられた、って言ってた」
「毎日同じ道でさ」
言葉は、
少しずつ形を変えていく。
“同じ道”が
“後ろをついてきた”になり、
“たまたま”が
“狙って”に変わる。
でも。
「いや、それ絶対違うだろ」
そう言ったのは、
窓際の席の男子だった。
「通学路、あそこ通る人多いじゃん」
「三年の先輩だろ? 偶然じゃね?」
「俺も見たことある」
「距離空いてたし、何もしてなかった」
別の女子も頷く。
「顔も普通だったし」
「ストーカーなら、もっと何かするでしょ」
——教室は、二つに割れていた。
信じる人。
疑う人。
そして、
「どっちか分からない」人。
噂は、
完全な悪意ではなかった。
でも——
不確かなまま、広がっていく。
⸻
一方、その頃。
澪は、そのことをまだ知らない。
いつも通り授業を受け、
ノートを取り、
えまたちと話していた。
でも。
廊下ですれ違った時。
下級生が、
一瞬だけ澪を見て、目を逸らした。
(……?)
二年生のグループが、
小声で何かを話し、
澪を見る。
——そして、黙る。
胸が、
小さく締めつけられる。
(気のせい……?)
予知は、来ない。
心臓も、静か。
なのに、
空気だけが、よそよそしい。
⸻
放課後。
二年生の教室の前を通った時、
澪は聞いてしまった。
「……三年の、あの人でしょ」
「やばいって」
足が、止まる。
言葉は、
壁越しに、はっきり届いた。
(……私のことだ)
澪は、何も言わずにその場を離れる。
追及しない。
否定もしない。
だって——
何を言えばいいのか、分からない。
“何もしていない”ことは、
証明しにくい。
心臓が、
少しだけ痛んだ。
これは、
未来じゃない。
予知でも、防げない。
人の言葉が作る、
今の現実。
⸻
その日の夕方。
二年生の中で、
こんな会話もあった。
「でもさ」
「あの先輩、悪い人には見えなかった」
「逃げた方が、勘違いしてただけじゃない?」
誰かが、そう言った。
小さな声。
でも、確かに存在する。
誤解は、
完全じゃない。
信じていない人も、
ちゃんといる。
——それが、唯一の救いだった。
⸻
澪は帰り道、空を見上げる。
曇っているけど、
雨は降っていない。
(……どうするか)
心臓は、
何も指示しない。
つまり——
これは、自分で選ぶ問題。
澪は、歩きながら考える。
逃げるか。
黙るか。
誰かに話すか。
噂は、
もう動き出している。
でも——
まだ、決まっていない。
誤解で終わるか、
現実になるかは。
それを決めるのは、
未来じゃなく——
今の選択だった。