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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第72話 〚声にする選択、動き出す守り〛(澪視点/海翔視点)
放課後、教室。
澪は、いつもより少しだけ口数が少なかった。
えま、しおり、みさと、りあ、玲央は気づいている。
——でも、誰も急かさなかった。
澪が、自分から話すのを待っていた。
「……ねえ」
その声は、小さかったけど、はっきりしていた。
「ちょっと、聞いてほしいことがある」
全員の視線が、澪に集まる。
澪は、一度だけ息を吸った。
「最近……通学路で」
「中二の後輩と、たまたま道が同じだっただけなのに」
言葉を選びながら、続ける。
「逃げられて」
「……ストーカーみたいに、思われた」
一瞬、静まり返る。
「え?」
えまが真っ先に声を上げる。
「何もしてないのに?」
しおりの声が低くなる。
澪は頷いた。
「本当に、何も」
「声もかけてないし、距離もあった」
りあが唇を噛んだ。
「……それ、噂になってるかも」
澪は少し驚いた顔で、りあを見る。
「やっぱり……?」
玲央が、ゆっくり言った。
「二年の方で、ちょっと聞いた」
「でも、信じてない奴も多い」
その言葉に、澪の肩がわずかに落ちる。
「……怖かった」
澪は正直に言った。
「初めて、何もしてないのに、そう見られて」
みさとが、澪の手をそっと握る。
「言ってくれてありがとう」
「一人で抱えることじゃないよ」
えまが、少し怒った顔で言う。
「それ、誤解だって分かってもらお」
「黙ってたら、余計に変になる」
澪は、みんなの顔を見る。
責める人は、誰もいなかった。
(……言ってよかった)
心臓は、静かに肯定していた。
⸻
その少し後。
廊下で、海翔は偶然、二年生の会話を耳にした。
「三年の先輩がさ——」
「朝、ついてきたらしい」
海翔は、足を止めない。
振り向かない。
割り込まない。
ただ、全部聞いた。
(……なるほど)
感情が爆発する前に、
頭が先に動いた。
——静かに、動く。
放課後、
海翔は担任に自然に話を振る。
「最近、通学路で誤解があったみたいです」
「二年の間で、噂になってるって聞きました」
担任は眉をひそめた。
「事実確認は必要だな」
「はい」
海翔は落ち着いて答える。
「澪は、何もしていません」
言い切る。
感情じゃない。
事実として。
さらに、
海翔は二年の知り合い数人に、さりげなく聞いた。
「実際、見た人いる?」
「距離、どのくらいだった?」
返ってくる答えは、
予想通りだった。
「遠かった」
「ただ歩いてただけ」
「逃げた方が勘違いしてたと思う」
——材料は、揃っていく。
⸻
夕方。
澪は昇降口で、海翔に呼び止められた。
「……もう、動いてる?」
澪の一言に、海翔は少しだけ驚いてから、頷いた。
「うん」
「でも、前に立つつもりはない」
澪を見る。
「澪が選んだことを、後ろから支えるだけ」
澪は、胸に手を当てる。
痛くない。
怖くもない。
「ありがとう」
「……一人じゃなかった」
海翔は、少しだけ笑った。
「最初から」
噂は、まだ完全には消えていない。
でも——
もう、澪一人の問題じゃない。
声にしたことで、
守る側が、静かに動き出した。
そして澪は知った。
誤解に対しても、
未来に対しても。
——選ぶのは、
一人じゃなくていい。
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