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mogyumogyuGemi
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mogyumogyuGemi
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#AI
みら

110
第十六話 未練の定義
カチ。
時計盤の針が、不規則に揺れた。
回収者は動かない。
けれど、その無機質だった声に初めて“乱れ”が混ざる。
『定義衝突』
『感情体分類……再構成』
図書館中の星が共鳴していた。
白い光の波。
記憶の呼吸。
それら全部が、回収者へ流れ込んでいく。
⸻
司書が呆然と呟く。
「図書館が……学習してる」
「え?」
「違う」
彼はすぐ首を振る。
「修正してるんだ」
星々を見上げる。
「長い時間をかけて蓄積された未練が、“答え”を書き換え始めてる」
私は息を呑む。
つまり。
この図書館は最初から完成されたシステムじゃなかった。
人の記憶。
後悔。
愛情。
別れ。
そういうものを受け取り続けることで、少しずつ形を変えてきたんだ。
⸻
返却拒否体が、ゆっくり回収者を見る。
もうノイズはほとんど残っていない。
崩れていた輪郭も、少しだけ安定している。
『……ねえ』
掠れた声。
『わすれることって』
小さな星核が瞬く。
『ほんとうに、必要?』
回収者は沈黙する。
時計盤の針だけが震えている。
⸻
『忘却は』
機械音声。
でも以前より、ほんの少し遅い。
『観測対象保護のために必要』
「でも、それだけじゃない」
私は小さく言った。
回収者がこちらを見る。
怖い。
でも今なら、少しだけ分かる。
「忘れないから苦しいこともある」
「でも」
中央恒星庫の星を見る。
「忘れなかったから、生まれるものもある」
新しい恒星が、静かに瞬いた。
⸻
司書が目を閉じる。
「……未練は、異常値じゃない」
彼はまるで、自分に言い聞かせるみたいに呟いた。
「人が存在した痕跡だ」
返却拒否体が続ける。
『ひとりになりたく、なかった』
星核が揺れる。
『だから、しがみついた』
『でも』
長い沈黙。
『だれかを想っていた時間まで、なくしたくなかった』
その瞬間。
回収者の時計盤に、さらに深い亀裂が走る。
⸻
ゴォン――。
また鐘が鳴る。
でも今度は、以前と少し音が違った。
柔らかい。
どこか遠くで、夜明けが近づいているみたいな音。
⸻
回収者が、ゆっくり空を見上げる。
『……再定義開始』
図書館中の星々が光る。
『未練』
『修正前定義』
空間に、冷たい文字列が浮かぶ。
【未練:返却されなかった感情残滓】
その文字が、ノイズと共に崩れていく。
そして。
新しい文字が、ゆっくり刻まれ始めた。
⸻
【未練:存在していた時間の残響】
私は息を止める。
星が、一斉に瞬いた。
まるで祝福みたいに。
⸻
回収者は静かに立ち尽くしている。
もう敵意は感じなかった。
ただ。
長い間、間違った答えだけを与えられていた存在みたいに見えた。
『……確認』
時計盤の針が、初めて午前二時十三分から動く。
カチ。
ほんの一分だけ。
未来へ進む。
⸻
司書が目を見開く。
「針が……進んだ」
「それって」
彼は信じられないものを見る顔で呟く。
「回収者が、“時間停止状態”から解放された……」
回収者はゆっくりこちらを見る。
そして。
無機質だった声で、静かに言った。
『観測領域、修正完了』
短い沈黙。
『――ありがとうございます』
その瞬間。
時計盤の奥で。
誰かが、ほんの少しだけ笑った気がした。
コメント
1件
おお…第6話、めっちゃ良かった…!「未練」の定義が書き換わる瞬間、ゾワッときたわ。回収者の時計の針が初めて動いて、「ありがとうございます」って言ったところで完全にやられた。忘却だけが正解じゃないって、図書館自体が学習して答えを変えるっていう構造がすごく好き。この世界観、ガチで刺さる🔥