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夕焼けの滑走︰

次の日。リンク場には柔らかな光が差し込んでいた。

紬と凍はリンクの端に立ち、水江翼先生の滑走を見守る。

水江先生は2人の前に立ち、穏やかに微笑んだ。「今日のテーマは『夕焼け空』だ。」

紬は興味深そうに頷く。「夕焼け……」

凍は腕を組みながら、静かに視線を向ける。

水江先生は軽く準備をしながら、凍に向かって意味深に微笑んだ。「しっかり見ててね。」

凍は無言のままその言葉を受け止める。

水江翼先生は静かにリンクの中央へ進み、柔らかな息をついた。

「じゃあ、本気で跳んでみようか。」

そう言いながら、彼は助走をつける。

幅跳び型ジャンプ は彼の特徴でもある——ダイナミックで流れるような跳躍。トウループ、サルコウ、ループ……どれも高く、美しく、まるで風を切るような動きだった。

しかし、最も驚くべき瞬間が訪れる。

彼は躊躇なく、4回転半ループ に挑んだ。

氷を蹴る。

空中での回転は異常なほど鋭く、跳躍の幅も圧倒的だった。まるで重力の存在を感じさせないような浮遊感があり、その動きにはどこか儚さもあった。

紬は思わず息をのむ。「……すごい。」

しかし、それ以上に驚いたのは——凍だった。

普段は冷徹に技を分析するはずの彼が、その瞬間だけは何も考えずに見惚れていた。まるで、時間が止まったかのように——。

紬はそんな凍の横顔を見て、クスクス笑う。「凍くんもそんなに見惚れるんだね。」

その言葉に凍はハッとし、すぐに視線を戻した。

「は!?」

しかし——彼の頬は、ほんのり赤く染まっていた。

水江先生はリンクの端に戻りながら、楽しそうに笑う。「どう?俺のジャンプ、しっかり見てくれたか?」

凍は腕を組んで息をつきながら、「……まあ……」と呟くが、言葉の続きを飲み込んだ。

紬はのほほんとしながら、「凍くん、顔赤いよ?」と指摘する。

凍は目を逸らしながら、「……知らねぇよ。」とそっけなく返したが、その耳まで微かに赤く染まっていた。


海の舞︰

川島先生はリンク中央に立ち、軽く息を整えた。

「さて、私のテーマは『海』よ。」

そう言いながら、彼女はゆっくりと滑り出す。最初は穏やかな波のように流れるような動き。軽やかで優雅なステップが、まるで海面を撫でるような感覚を生み出す。

しかし、その流れが突然変わった。

「振付師だからって甜められちゃったら困るわよ!」

そう言いながら、彼女はリンクを蹴り、3回転ルッツの連続ジャンプ!

紬は息をのんだ。「えっ……!」

さらに、キャメルシットスピン! しなやかな姿勢のまま回転し、そこから高速での 3回転サルコウを繰り返す!

その演技はまるで荒れ狂う波——勢いのあるジャンプが、まるで波の飛沫のようにリンクに刻まれていく。

紬は目を丸くして驚いた。「先生、すごい……!」

しかし、凍は特に驚いた様子もなく、腕を組んだまま見ていた。

紬の驚いた顔を見逃さなかった凍は、にやりと笑う。

「お前もびっくりしてんじゃん。人のこと言えっこないよな。」

紬はむっとした顔で凍を睨んだ。「べ、別にそんなに驚いてないし!」

凍は冷静な口調で続ける。「川島先生は踏み切りの精度を向上させて、ジャンプの踏み切り位置を正確にすることで、無駄な力を使わずに跳んでんだ。俺もよくする。」

紬は悔しそうに口を結んだ。「……まぁ、それはそうかもしれないけど。」

川島先生は演技を終え、リンクの端で微笑んだ。「さて、振付師の実力、ちょっとは伝わったかしら?」

紬と凍はそれぞれの表情のまま、先生の滑りの余韻を感じ取っていた——。


舞い続ける二人︰

川島先生の演技が終わると、リンクには静寂が戻った。

紬はリンクの端で息を整えながら、目を輝かせて言った。「先生、本当にすごかった……!」

その感動は隠しきれず、彼女の声には興奮が混じっていた。

凍は腕を組みながら、淡々とした口調で言う。「まぁ、技術的には理にかなってる。」

その冷静な態度に紬はむっとしながら、「もうちょっと素直に感動してもいいんじゃない?」と不満そうに言う。

川島先生はクスッと笑いながら、「いいのよ、凍くんはこういうタイプだから。」と優しく言った。

水江先生は少し面白そうな顔をして、「でも、お前も影響受けたんじゃないのか?」と意味深な言葉を投げかける。

凍は少しだけ目を細めて視線をそらした。「……別に。」

しかし、その微かな沈黙を紬は見逃さなかった。「絶対感じてるじゃん!」

凍は「……うるさい。」とそっけなく言ったものの、さっきまでじっと演技を見ていたことを紬は覚えている。

川島先生は余韻を楽しむようにゆっくりとリンクを歩きながら、柔らかく言った。「スケートってね、ただ跳ぶだけじゃなく、感じるものでもあるのよ。」

紬はその言葉に小さく頷いた。そして、凍の方をちらりと見る。

「凍くんも、感じる時あるんじゃない?」

凍は少し眉をひそめた。「俺は跳ぶだけだ。」

しかし、その言葉の奥に、確かに何かがある気がした。

水江先生はクスクス笑いながら、「まぁ、君の『カラス』にも、もう少し余韻があってもいいかもな?」と冗談めかして言った。

凍はそれには答えず、氷を蹴るようにリンクへと向かった。

紬はその背中を見ながら、「……ちょっとは考えてるじゃん。」と静かに微笑んだ。

こうして、二人はそれぞれのテーマを胸に、新しい振付師の指導のもと、本格的な演技の構築へと進んでいく——。


つづく

氷上の音なき旋律

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