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技の洗練︰
リンクに立つ紬は、静かに深呼吸をした。22日間にわたる技練習の成果を、今日確かめるためだった。
最初の1日目、川島先生は紬にこう言った。「まずは、演技の流れを作ることからよ。」
彼女はリンク中央に立ち、軽く腕を広げた。そして、1回転アクセルを跳ぶ——演技の中で自然に組み込むことを意識しながら。スムーズな流れを作るため、何度も跳び、微調整を繰り返す。
5日目には、安定した着氷を目指してトリプルフリップの練習に集中した。紬の得意技だったが、時折バランスが崩れることがあった。川島先生は紬の足元をじっと見つめながら、「踏み切りのタイミングを少し修正すれば、もっと安定するわよ」とアドバイスした。
6日目から10日目にかけては、トリプルルッツとの組み合わせを強化した。フリップからの流れをスムーズにし、技術点を確実に取るための工夫。紬は何度も挑戦しながら、流れの中でジャンプを繰り出せるように調整していった。
「紬ちゃん、助走を意識すると跳びやすくなるわよ。」川島先生の言葉に頷き、紬はリンクを蹴る。
11日目には、トリプルループの修正を行い、ジャンプの軸を安定させることに集中した。そして、コンビネーションジャンプの練習が始まる——トリプルフリップから2回転トウループへ。
「スピードを落とさずに、流れの中で跳ぶのがポイントよ。」
16日目から18日目は、スピンの強化だった。
「レイバックスピンは優雅さを出すために大切な技よ。」
紬は腕の位置を調整しながら、回転の滑らかさを意識した。スピン中、力を抜くことを川島先生に何度も言われ、その動きを自然に取り入れるようにした。
そして、ビールマンスピン——最初はバランスを崩したが、練習を重ねるうちに完璧なポジションへと仕上がっていった。
「これでいい……!」紬は息を整えながら、完成した技を確信した。
そして22日目。すべての技を組み合わせ、流れるように演技を作り上げた。
紬はリンク中央に立ち、深く息を吸う。アクセルで演技にアクセントをつけ、コンビネーションジャンプを美しく決める。レイバックスピンからビールマンスピンへ——全ての技が一つの流れとなり、演技が完成していく。
川島先生はリンクの端で微笑みながら、紬の演技を見つめた。「いいわね、紬ちゃん。その調子!」
紬は満足そうにリンクを蹴り、一歩前へ進んだ。
こうして、22日間の練習を終え、紬はさらに洗練された演技へと進んでいく準備を整えた——。
冷徹な跳躍︰
凍はリンクの中央に立ち、静かに息を整えた。
22日間の技練習——ただ技を磨くだけではない。「カラス」というテーマを体現するため、冷徹な美しさを演技に宿らせることが求められていた。
水江先生はリンクの端から凍をじっと見つめ、「まずは、お前の跳躍を極めることからだな。」と静かに言った。
凍は無言のまま、リンクを蹴る。
1日目——トリプルアクセル(3A)の安定化 凍の得意技。男子選手の象徴とも言えるジャンプだった。助走を整え、氷を蹴り、鋭く回転する。着氷はブレることなく、氷の上にしっかりと刻まれる。
水江先生は腕を組みながら「悪くない。でも、もっと研ぎ澄ませる余地はあるな。」とぼそりと言った。
凍は視線を下げながら、跳躍の感触を確かめる。微調整を繰り返し、跳び続けた。
6日目——コンビネーションジャンプ(3Lz+3T) 「流れるように跳ぶことがポイントだ。」
水江先生の言葉を聞きながら、凍は踏み切りの位置を細かく調整する。無駄な力を使わず、鋭く跳ぶ——着氷が決まるたび、凍は冷静に次のジャンプへとつなげた。
カラスのように、無駄のない動き。知的で、冷たく、鋭利な存在。
11日目——スピンの研ぎ澄まし 凍はフライングシットスピンへと移る。高速回転から姿勢を崩すことなく、氷の上に完璧な旋律を刻む。キャノンボール、ブロークン——回転速度を最大化し、鋭い雰囲気を演技に染み込ませる。
「回転はいい。でも、ただ速いだけじゃダメだ。」
水江先生の声が冷静に響く。「お前のスピンには、カラスの知性を感じさせるものが足りない。」
凍はしばらく黙った後、再び氷を蹴った。
彼のスピンは変わっていく。無駄のない流れ、冷徹な視線、計算された速度——カラスの知的な空気を纏うスピンへと進化する。
18日目——ターンとエッジワークの洗練 水江先生は氷を指でなぞるように言った。「カラスの動きは冷たいだけじゃない。滑らかで、緻密で、計算されている。」
凍はターンを繰り返しながら、鋭さを増していく。シャープなエッジワーク、無駄のない軌道——その動きが、演技の中に完全に溶け込んでいった。
22日目——仕上げ 演技の流れを作りながら、凍は自分の滑りを確かめた。ジャンプは完璧、スピンは鋭く、ターンは緻密。
水江先生は最後に言った。「お前の演技、カラスになってきたな。」
凍は無言のまま、冷たい視線のままリンクを蹴った。
こうして、22日間の技練習を終え、凍はさらに洗練された演技へと進む準備を整えた——。
約束の大会︰
午後7時、リンク場の玄関。
紬は軽く息をつきながら、自動ドアをくぐった。22日間、技の練習に集中しすぎて、凍と顔を合わせることすらなかった。
「久しぶりに会うと、なんだか変な感じ……。」
そんなことを思いながら、一歩踏み出したその瞬間——
「……あ。」
凍がいた。
彼もまた、リンク場の出口へ向かって歩いていた。紬と同じく、練習漬けの日々を過ごしていたはずだった。
二人の視線が交差する。
一瞬の沈黙。
紬は思わず笑みを浮かべた。「……久しぶりだね、凍くん。」
凍は腕を組みながら、「まぁ、そうだな。」と静かに答えた。
紬は少し首をかしげながら、「練習、どうだった?」と尋ねる。
凍は目を細め、「問題ない。技は完成した。」と淡々と返した。
紬はそんな凍の様子を見ながら、「変わらないね、ほんとに……。」と苦笑した。
しかし、凍も紬の雰囲気が以前と違うことに気づいていた。技を磨き続けた22日間——確かに、それぞれが変わった。
「紬、お前……。」
凍は言葉を探しながら、じっと彼女を見つめる。
紬は軽く微笑んだ。「……うん。ちょっとは変わったかも。」
二人は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
大会まで、あとわずか。
紬は練習の合間に氷の上で息を整え、空を見上げた。「もうすぐだ……。」
その瞬間、背後から凍の声が静かに響く。
「大会、見に行く。」
紬は驚いたように振り返る。「えっ……?」
凍は淡々とした表情のまま、腕を組んでいた。「お前の演技がどう仕上がったのか、確認しておく。」
紬は少し戸惑いながらも、じっと彼の目を見つめた。「……本当に?」
凍は目を細め、「何度も言わせんな。」と静かに言う。
紬は一瞬言葉を失ったあと、小さく笑った。「ありがとう、凍くん。」
大会への緊張が、一瞬だけ柔らかくほどける。
こうして、紬は凍に見守られながら、全力の演技をすることになる——。
つづく