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実に久しぶりに、このペンを握った気がする。
親に駄々を捏ねても買って貰えず、お小遣いを切り詰め、バイトもして買ったペンタブ。入門用のそれだが、私はこれをとても気に入っていた。
愛着があるから。
今は仕方なく応援してくれている両親とは違い、こいつは絶対に私を裏切ったりしなかった。
描けば描くほど着いてきてくれるそれを私はとても気に入っていた。
小さなピクセルの集合体にガリガリと強い筆圧で描画して行く。これが私の画風である。
ラフを描いたら下絵はそれまで。あとは色を乗せて、粘土のように捏ねていく。
そして、描いたら描きあげるまでなるべく休まない。
頭の中で出来上がっているイラストを忘れないうちに描く為に。
頭が痛くなっても、目が疲れても、そんなのを忘れる位集中して描きあげる。
何時間経過したのだろうか。
外はもう薄明るくなった頃、それは完成した。
スマホを胸に押し抱く様に持ち、左手には私愛用のペンタブのペンを持っている、満足げにも不満げにも見える少女の胸像だ。
「できた!」
これがもう一人の私だ。
どんな手を使っても賞賛を得るために手段を選ばない、私の分身。
«ルナ»
胸像とはいえ久し振りに描いたイラストはそれでも愛着があって、出来上がったそれを私は早速SNSのアイコンに…しようと思った。
刹那、近年稀に見る睡魔が私を襲ってきた。いけない。今日はまだ1枚も絵をSNSに上げちゃいないというのに。
意識はもう途切れ途切れ。
ペン先を手の甲に突き立てて無理やり覚醒しながら、私はSNSに他人の超大作なイラストを上げ、アイコンに先程自分で描きあげた«ルナ»を飾った。
こんな大作と«ルナ»の姿を一晩のうちに描きあげたという事になっているんだから、寝て起きたらきっと皆にもて囃されていることだろうな。
期待に胸を躍らせる。久々に好きな様に絵を描いた満足感もあって、心地よい疲れが私の体を包んでいく。
絵を描き始めてから、こんなに充足する瞬間が訪れるなんて。
私は寧ろ、あの時«画力落ちてる»と宣ったアイツの失言に感謝するべきなのかもしれない。