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深夜の道は飛ばす車が多い。帰りはいつもより注意してミラーを見ていた。
マンションの駐車場に車を停めてひと息つく。電子時計を見ると、もう日付が変わりそうだった。
疲れた……。
月末の忙しさはため息をつきたくなる。残業は常に確定だ。
准は重たい足どりで、ようやく帰宅した。
「ただいまー」
涼が来てから、そう言うのも慣れてしまった。ひとりで暮らしてた時なら考えられないと思う。
疲れたけど一杯やりたいし、こんな時ほど涼の手料理が食べたい。軽いものがいいな。めん類と、何かツマミになるものが欲しい。
もう作ってもらう前提で食べたいものを色々考えていたけど、そういえば返事がない。変だな。いつも必ず玄関まで迎えにくるのに。
不思議に思ってリビングへ向かうと、やはり彼は居た。ただ、ソファの肘掛けに伏せるようにして眠っている。彼がこんな無防備に寝ているのは珍しい。
どっちにしても布団で寝た方がいいから、声を掛けようか迷ってると……あることに気付いて呆然とした。
「涼?」
泣いてる。
一応、ちょっと顔を近付けて確認する。
確かに寝てるけど、彼は涙を流していた。
夢を見ているみたいだ。悲しい……というよりは、怯えてるのか……。
涼が怖がってる。
そう思ったら考えるより先に手を伸ばして……彼の涙をすくいとった。
「……准さん?」
「ヒェッ!」
涼は目を覚ました。いや、当然か。自分が起こしたようなものだ。
「わ、悪い。つい」
「え? ……つい?」
涼は寝ぼけ眼でキョトンとしていたが、すぐさま身体を起こして顔を青ざめる。
「つい、俺に手を出しそうになったってことですか!? 准さんが仕事でお疲れなのは重々承知してますけど、それはちょっと……!」
「ちげーよ! お前が泣いてたから!」
耐え難い誤解をされ、反射的に言い返した。
「……泣いてる?」
涼は自分の目元に触れて、それに気付くと同時に驚いていた。
「怖い夢でも見てたのか?」
「……いえ……」
困ったように黙り込む彼が、また焦れったくて。とりあえず膝立ちしてるのもしんどいから、どっかり床に座ることにした。
「どんだけ歳とったって怖い夢は見るんだから、別に恥ずかしいことじゃないよ。何の夢見てたんだ?」
諭すように訊ねても、涼はやはり黙ってた。
本当に嫌な夢なら、口に出すのも嫌なのはよく分かるけど、どうしたんだろう。