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「嫌な夢や怖い夢は人に話した方が良いんだぞー……」
そもそもこの沈黙が耐えられなかった准は別の方向で畳み掛けることにした。
「わかった! 仕事クビになる夢だろ!」
「違います」
「じゃあ地球が滅亡する夢! 宇宙人が地球を攻めてくる夢!」
「違いますが……」
涼の反応は悲しくなるほど薄い。本当、自分でも何でこんな必死になってるのか分からなかった。いやぁ、多分彼の元気を取り戻したいだけなんだと思う。
生憎、想像できる悪夢は全然思いつかないけど。後残るは……。
「じゃあ……人類がゾンビ化して、生存者は自分だけで武器がなくて……」
「准さん、落ち着いてください。ほんとに大丈夫ですよ。何の夢を見てたのかも忘れちゃいましたから。……平気です」
涼は床に座って、俺と同じ目線になった。
「何でしょうね。目が覚めた時にそばにいたのが准さんで、すごいホッとしました」
「ほんとに?」
「えぇ。ほんとに。何でかな……」
自分で言っておきながら、涼は不思議そうに俯き、なにか考え込んでいた。
「涼? 大丈夫かよ」
「へへ、寝起きだからか何かボーッとしちゃって……准さん、お腹空いてませんか? なにか夜食作りますよ」
「おぉ、サンキュー。無理はすんなよ」
声を掛けると、涼は笑ってキッチンへ向かった。
何だろう。気になるのに、いざとなると踏み込めないのは。
早くこの関係を進展させ、この生活に終止符を打たなければいけないのに。俺も本当に臆病だ。
しかしずっとこうしていても仕方ない。立ち上がって、重たいジャケットを脱いだ。
しばらくして、涼は夜食に俺のリクエストしたうどんといなり寿司を作り、簡単なツマミと酒を用意してくれた。
軽くやるつもりだったのに、彼が料理を追加して作るから酒が進んでしまう。気づけば一時間以上、俺は涼に仕事の愚痴をこぼしていた。
「本当、嫌んなるよ……部長は自分の仕事まで俺らに丸投げだし、ちょっとした事ですぐに会議始めるし。その時間で片付けられる仕事がどれたけあると思ってんだ! 残業する身にもなれよ!」
「わかります、その気持ち。あ、ちょっと待ってくださいね」
涼は非常に落ち着いた様子で、氷水をグラスに入れてスッと差し出した。
「お兄さん、これは僕の奢りです。あっ、違うな。……どうぞ、あちらのお客様からです」
荒んだ愚痴を聴かせ過ぎたせいか、涼はバーテンダーごっこを始めた。