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重い瞼をゆっくりと持ち上げると、視界に入ってきたのは見慣れた執務室の天井だった。
窓の外からは夜の静寂がしんしんと忍び込み
部屋の中は魔法具の石が放つ、淡く柔らかな琥珀色の光に包まれている。
(私…また運ばれたんだわ。それも、彼の腕で)
お酒の残滓と「魔力酔い」のダブルパンチで、体の中はまだ熱いような
それでいて芯だけが凍りついているような、ひどく不安定な感覚が残っている。
けれど、背中から伝わってくる羽毛布団の極上の柔らかさと
鼻腔をくすぐる清潔なリネンの香りに、強張っていた全身の力が少しずつ解けていくのが分かった。
「……気がついた?エマちゃん」
すぐ傍から、耳に心地よく響く低音がした。
横を向くと、ベッドサイドの椅子に深く腰かけたアルくんが
今にも壊れ物を眺めるような、痛々しいほど心配そうな瞳で私を見つめていた。
その瞳には、昼間の園遊会で見せたあの刺すような鋭い光はなく
いつもの穏やかな、けれどどこか心身ともに疲れ切ったような色が濃く浮かんでいる。
「アル、くん……?」
私は力の入らない体に鞭を打ち、這いずるようにしてベッドの上に身を起こした。
まだ頭の芯がふわふわとしていて、思考が霧に包まれたようにうまくまとまらない。
アルコールが血管を巡っているせいか、心の防波堤がいつもよりずっと低くなり
理性の箍が外れかかっているみたいだ。
「アルくん……」
自分でも驚くほど、熱っぽく甘えた声が喉の奥から漏れた。
私は無意識のうちに、彼の凛々しい騎士服の袖をぎゅっと掴み
そのまま誘われるように彼の逞しい肩へとコテン、と頭を預けた。
肩越しに伝わってくる彼の体温が、胸を締め付けていた魔力酔いの残滓を優しく溶かしていく。
このまま、世界が止まってしまえばいいのに。
アイラの緻密な作戦も、背伸びしたハニートラップも
今はどうでもよくなってしまうほど、彼の隣は温かかった。